藤田医科大学(愛知県豊明市) 消化器内科学講座、医科プレ・プロバイオティクス講座(廣岡芳樹教授)の研究グループは、伊那食品工業株式会社(長野県伊那市、代表取締役社長 塚越英弘)と共同で、寒天由来のアガロオリゴ糖※1(Agarooligosaccharides, AOS)が、腸内を選択的に改善するプレバイオティクスとして有望であることを明らかにしました。本研究は、アガロオリゴ糖が有害な腸内細菌を抑制しつつ、有益菌を維持する可能性を示した初の研究です。今後、腸内環境の改善や慢性疾患予防に向けた新しいアプローチの提供が期待されます。
この成果は国際科学ジャーナル「Microbiology」オンライン版に2024年11月20日に公開されました。
論文URL:
https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/micro/10.1099/mic.0.001510
<研究成果のポイント>
アガロオリゴ糖(AOS)が、炎症性腸疾患に関連する腸内細菌Ruminococcus gnavusや、大腸がんに関与する腸内細菌Fusobacterium nucleatumを選択的に抑制し、BifidobacteriaやLactobacillalesといった有益菌を保護・増加させることを発見。
動物実験において、炎症性細菌群であるLachnospiraceaeを抑制する効果を確認。
プレバイオティクス※2としてのアガロオリゴ糖は、腸内環境改善と疾患予防に向けた新しい可能性を示す。
<背景>
腸内細菌叢※3(マイクロバイオーム)は、健康維持において重要な役割を果たしており、特定の腸内細菌が炎症性疾患や代謝障害に関連することが知られています。例えば、Fusobacterium nucleatumは腸内炎症や大腸がんリスクの増加に関与し、Ruminococcus gnavusは炎症性腸疾患に関連付けられています。一方で、BifidobacteriaやLactobacillalesは健康維持における鍵となる腸内細菌であり、それらを維持することが重要です。本研究では、寒天由来のアガロオリゴ糖がこれらの課題を解決する可能性を明らかにしました。
<研究方法>
in vitro実験:
ヒト腸内細菌叢モデルを用い、AOS添加後の腸内細菌叢の変化を解析しました。特に、病原菌と有益菌のバランス変化を評価しました。
動物実験(in vivo):
マウスモデルを使用し、AOS投与後の腸内細菌叢、腸の健康状態、炎症マーカーの変化を観察しました。
16S rRNAシーケンシング:
腸内細菌叢の構成を網羅的に解析し、特定の菌種の増減を詳細に調べました。
研究の結果、アガロオリゴ糖は腸内で炎症や疾患に関連するRuminococcus gnavusやFusobacterium nucleatumの増殖を選択的に抑制し、一方で免疫機能や代謝に重要なBifidobacteriaやLactobacillales(乳酸菌類)を保護する効果が確認されました。また、動物モデルの実験では、腸内で炎症を引き起こすLachnospiraceaeの抑制も示されました。
<今後の展望>
本研究は、アガロオリゴ糖を利用した腸内細菌ターゲット型の新しいプレバイオティクスの可能性を示しています。次の段階では、臨床試験を通じて人間における有効性を確認し、アガロオリゴ糖を基盤とした食品やサプリメントの開発を目指します。
<用語解説>
※1 アガロオリゴ糖(AOS): 寒天を分解して得られるオリゴ糖。腸内細菌叢改善効果が期待される。
※2 プレバイオティクス: 腸内有益菌の増加を促進し、有害菌を抑制する食品成分。
※3 腸内細菌叢(マイクロバイオーム): 腸内に存在する微生物群で、健康維持や疾患発症に重要な役割を果たす。
<文献情報>
●論文タイトル
Agarooligosaccharides as a novel concept in prebiotics: selective inhibition of Ruminococcus gnavus and Fusobacterium nucleatum while preserving Bifidobacteria, Lactobacillales in vitro, and inhibiting Lachnospiraceae in vivo
●著者
藤井 匡1,2,3、唐澤 幸司1,4、高橋 秀明1,3,5、白井 郁也4、舩坂 好平1、大野 栄三郎1,2、廣岡 芳樹1,2,3、栃尾 巧1,2,3
●所属
1 藤田医科大学 消化器内科学
2 藤田医科大学 医科プレ・プロバイオティクス
3 株式会社バイオシスラボ
4 伊那食品工業株式会社
5 名古屋学芸大学大学院 栄養科学研究科
●掲載誌
Microbiology
●掲載日
2024年11月20日(オンライン版)
●DOI
10.1099/mic.0.001510