雇用企業の約9割が障がい者の雇用に「満足」
・「担当業務の選定」と「本人へのフォロー」が雇用後の大きな課題
・「モチベーション向上」策の整備が雇用の継続化に向けて重要に
「障害のない社会をつくる」というビジョンの下、障がい者向け就労支援事業や子どもの可能性を拡げる教育事業を全国展開する株式会社LITALICO(本社:東京都目黒区、代表取締役社長:長谷川敦弥)は、障がい者雇用の実態を調査するために、当社が運営する就労支援事業所「ウイングル」を通して障がい者雇用を行った企業やウイングルに実習先を提供いただいている企業等を対象にした障がい者雇用に関するアンケート調査を10月に実施しました。今回は、その調査結果をまとめましたので、ご報告いたします。
【調査結果の要約】
・雇用企業の約9割が障がい者を雇用して「良かった」と回答。「良かった点」では「社員の障がい理解の深まり」「本人の活躍」が上位に挙がるほか、業務環境への好影響を感じる声も
・雇用後に感じる課題は「担当業務の選定」「本人へのフォローや配慮」が上位に挙がる
・今後の継続的な雇用に向け、「モチベーションを上げる仕組み」が重要に
調査対象について
障がい者雇用を行っている企業300社の雇用部署担当者へメールにてアンケートを依頼、回答いただいた120社のアンケート結果を集計しました。
【回答者基本情報】
・回答者の企業規模
50人以下 10.0%
51~100人 5.0%
101~200人 10.8%
201~300人 6.7%
301~500人 12.5%
501~1,000人 17.5%
1,000人以上 37.5%
・回答者の所属部署
総務/庶務 25.0%
営業 7.5%
経理/財務 1.7%
人事/労務/採用 28.3%
システム 3.3%
生産/製造 4.2%
物流 4.2%
販売 3.3%
その他 22.5%
・所属部署における雇用者の障がい種別ごとの人数(複数回答)
精神障害 84人
身体障害 68人
発達障害 28人
知的障害 31人
・所属部署で初めて障がい者雇用を行った時期
2014年度 14.2%
2013年度 32.5%
2012年度 7.5%
上記よりも前 45.8%
【障がい者雇用の満足度】 9割以上が障がい者雇用に「満足」
Q. 障がいのある方を雇用して、どのように感じますか
とても良かった 45.0%
まあまあ良かった 46.7%
あまり良くなかった 7.5%
良くなかった 0.8%
Q. 障がいのある方を雇用したことで良かったと感じた点を教えてください(複数回答)
職場の雰囲気が良くなった 17社
マニュアルが整備された 16社
業務が整理された 25社
社員の障害理解が深まった 70社
業務効率が上がった 13社
業務成果/成績が上がった 5社
業務レクチャー/研修内容が改善された 7社
社内レイアウトが整った 7社
備品の整理整頓がされた 17社
本人が期待通りの活躍をしてくれた 44社
その他 13社
特になし 7社
障がいのある方を雇用しての感想を尋ねたところ、9割以上が「(とても/まあまあ)良かった」と回答しており、この調査の回答者においては、雇用のマッチングが上手くいっている状況にありました。また、「良かったと感じた点」については6割弱が「社員の障害理解が深まった」と回答、また15%弱が「職場の雰囲気が良くなった」と回答しており、障がいのある方を受け入れたことで、職場で多様な人材を受け入れる土壌が生まれつつあることがうかがえます。また、「本人が期待通りの活躍をしてくれた」が4割弱に上ったほか、障がい者の雇用により、「業務」「備品」「マニュアル」が整理され、業務環境自体への好影響があったとする回答も、いずれも1~2割程度見られました。
【雇用前後における不安と課題】「担当業務選定」と「本人へのフォロー/コミュニケーション」が上位に
Q. 障がいのある方を初めて雇用する前に不安に感じた点を教えてください (複数回答)
設備 29社
避難などの有事対応 21社
担当業務の切り出し/選定 73社
業務レクチャー/研修手段 56社
評価方法 25社
処遇 24社
面談や相談員などの本人へのフォロー/配慮 61社
障害理解 63社
職場でのコミュニケーション 98社
勤怠安定 53社
金銭管理 4社
その他 0社
特になし 3社
障がい者雇用をする前に不安に感じた点については、8割以上の方がコミュニケーション面で不安を抱えていたことが分かりました。次いで「担当業務の切り出し/選定」が挙がり、雇用した障がい者にどのような仕事を任せるべきかについて、不安を感じる回答者も少なくありませんでした。
Q. 障がいのある方を雇用したことで課題と感じた点を教えてください (複数回答)
設備 11社
避難などの有事対応 14社
担当業務の切り出し/選定 51社
業務レクチャー/研修手段 26社
評価方法 28社
処遇 23社
面談や相談員などの本人へのフォロー/配慮 51社
障害理解 25社
職場でのコミュニケーション 44社
勤怠安定 24社
金銭管理 2社
その他 7社
特になし 11社
雇用後に「課題と感じた点」については、「担当業務の切り出し/選定」と「面談や相談員などの本人へのフォロー/配慮」がトップで並び、次いで「職場でのコミュニケーション」が上位に挙がりました。コミュニケーション面における不安が実際に雇用して本人と接することで解消されやすい傾向が見られる一方、「どのような仕事を任せるのがよいのか」「どのように本人へのフォローを図るのか」については、依然として当初の不安感が解消されにくい状況にあることが分かりました。
【今後新たに必要なこと】 「モチベーション向上」の仕組みづくりが重要に
Q. 今後、障がいのある方を継続して雇用する上で、新たに必要だと考える点を教えてください (複数回答)
担当業務の切り出し/選定 23社
指示命令系統の明確化/可視化 10社
勤務時間/休憩時間の調整 8社
業務マニュアル・ツールの見直し/作成 26社
業務量/業務稼働率の調整 25社
職場でのコミュニケーション方法 29社
業務レクチャー・研修方法の見直し/作成 20社
障害理解(研修実施/資料配布など) 22社
相談窓口の設置 22社
定期的な状況把握の機会の設定(面談など) 25社
モチベーションを上げる仕組み(評価方法/キャリアパス/昇給/昇格/雇用形態変更など) 43社
支援機関/家族/医療機関などとの連携 22社
その他 5社
特になし 10社
今後新たに整備が必要と考える点については、「モチベーションを上げる仕組み」との回答が最も多く、およそ35%に上りました。当社が今年4月にウイングルを利用して就職した精神障がいのある方を対象にしたアンケート調査でも、「今後会社に求めること」として、「昇給」や「雇用形態の変更」を求める声が多く挙がっており、双方が同じ課題を共通に持っていることが明らかになりました。
【アンケート結果から】
今回のアンケートから、企業担当者の障がい者雇用への満足度は高く、障がい者の雇用によって、職場自体に好影響を及ぼすケースもあることが分かりました。一方で、障がい者を雇用する前に不安があった「担当業務の選定」や「コミュニケーション」は、雇用後も依然として課題として残っていることが明らかになるとともに、「障がい者本人へのフォローや配慮」が、課題として浮上していることも分かりました。
アンケートの中で「障がい者雇用をしてみて率直に感じること」について自由回答形式で尋ねた質問では、「就業前のアセスメントが重要」「支援機関の協力の上で雇用がなり立っていると感じる」といった回答が見られ、公的な支援機関を上手に活用して、障がい者本人へのフォローを行うことの重要性が示唆されています。ハローワークを経由して採用された方の12ヶ月後の定着率を見ると、支援機関の定着支援を受けた場合に70%であるのに対して、定着支援がなかった場合は51%まで低下するというデータ※もあり、継続した雇用に向け「地域障害者職業センター」や「障害者就業・生活支援センター」など、公的な支援機関の協力を得ることも有効な手段であるといえます。
また、今後の新たに整備が必要なこととして「モチベーションを上げる仕組み」が多く挙がりました。障がいのある方が安定して、将来の展望を持って働くことのできる環境づくりは、今後、より活発な障がい者雇用に向けて取り組むべき重要なテーマであると考えています。
ウイングルでは、2018年の精神障がい者雇用義務化を控え、今後さらにニーズが高まると思われる、精神障がい者雇用に特化した中小企業向けコンサルティングサービスの提供を10月から開始しました。精神障がい者の雇用を検討している中小企業を主な対象に、企業コンサルティングや研修プログラムを提供し、企業が安心して雇用でき、精神障がいのある方でも長く働ける職場づくりをより一層拡げていくことを目指しています。
※障害者職業総合センター研究部門(研究開発レポート)「働く広場2010.12 精神障害者の雇用促進のための就業状況等に関する調査研究」より
【障害福祉サービスについて】
障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスは大きく分類すると生活支援・就労支援に分かれます。そのうち就労支援は、就労継続支援A・B型(福祉作業所)と就労移行支援に分かれます。就労移行支援は平成18年の自立支援法改正による新サービスで、一般企業等への就労を希望する人に、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うとされており、就職後は継続的な就労を目指し6ケ月の定着支援を行います。また、障害福祉サービスは、自治体の障害福祉課等で発行される福祉サービス受給者証によりサービス利用が可能となり、医師の診断等があれば障害者手帳がなくとも利用できるケースがあります。
【地域障害者職業センターについて】
全国の各都道府県に設置(北海道・東京・愛知・大阪・福岡には支部も設置)しており、ハローワークなどの関係機関と密接な連携のもと、障害者や事業所に対して職業評価・職業指導・職業準備指導など行っています。また、定着支援におけるジョブコーチ派遣の調整も管轄しています。
【障害者就業・生活支援センターについて】
就職や職場への定着にあたって就業面における支援とあわせ、生活面における支援を必要とする障害者を対象として、関係機関との連携の拠点として連絡調整を行いながら、就業およびこれに伴う日常生活、社会生活上の相談・支援を一体的に行う施設です。
【LITALICOについて】
LITALICOは、2005年12月設立以来、日本における社会問題としての「障がい者雇用」分野に着目し、一法人としては全国最多となる全国44拠点(2014年11月時点)で事業所を展開しています。企業向けの障がい者雇用支援から始まった事業は、現在では障がい者向け職業訓練事業、そして障がい者の家族向け事業や教育事業など、その領域を広げています。学習教室「Leaf」を首都圏32箇所(2014年11月時点)で開校しているほか、2014年4月に、IT・ものづくり教室「Qremo」を東京・渋谷にオープンしました。詳細は
http://litalico.co.jp/ をご覧ください。