腫瘍微小環境内の骨髄前駆細胞が乳癌患者の予後と相関することを発見
~乳癌治療の更なる可能性に向けて~
この研究成果は、乳癌の予後予測や治療戦略の向上において新たな示唆を与える可能性があります。
本研究成果は、「Annals of Surgery」オンライン版に先行公開されました(2024年7月1日)。
研究成果のポイント
- 遺伝子発現パターンを用いて乳癌内の骨髄前駆細胞数を定量した。
- ホルモン陽性乳癌において、骨髄前駆細胞浸潤割合が患者生存率と関連していることを発見した。
- 本研究成果は、腫瘍内骨髄前駆細胞の定量という乳癌に対する新たな治療戦略を示唆するものである。
研究背景
腫瘍微小環境には多種の細胞が存在し、癌の悪化や治療効果に影響を与えていることが知られています。骨髄前駆細胞は、主に骨髄内に存在するものと認識されていましたが、近年、末梢血や腫瘍内にも存在する可能性が示唆されていました。しかし、希少細胞であるため評価が難しいことから、十分に研究が行えていませんでした。そこで、研究グループ は個々の腫瘍における遺伝子発現パターンを解析して、腫瘍内骨髄前駆細胞の浸潤割合を推定するスコアを用いることで、腫瘍内骨髄前駆細胞の臨床的意義を評価しました。
研究内容
複数の大規模乳癌患者コホートを用いて、遺伝子発現パターンから腫瘍内骨髄前駆細胞の浸潤割合を推定し、臨床的因子との関連を調べたところ、骨髄前駆細胞はホルモン陽性乳癌で浸潤割合が高く、脳転移のリスク並びに患者の良好な予後と関連していました(図2)。また、骨髄前駆細胞の浸潤割合が高い乳癌は、癌自体の上皮間葉転換*2および血管新生経路の活性度が高い一方で、細胞増殖能やDNA修復経路の活性が低いことが示されました。さらに、免疫細胞浸潤割合は低く、細胞溶解活性は減少していました。そして術前化学免疫療法の治療反応とも相関を示しました。
今後の展開
本研究では、腫瘍遺伝子発現パターンを用いた腫瘍内骨髄前駆細胞浸潤割合の客観的評価を行いました。乳癌の予後予測や治療戦略の向上に向けた、乳癌の生物学的特徴のさらなる解明に一歩近づいたと言える成果です。今後は、腫瘍内骨髄前駆細胞の患者予後への関与についての、さらなるメカニズムの解明に向けた研究が期待されます。
研究費
本研究は、National Institutes of Health(R37CA248018、R01CA250412、R01CA251545、R01EB029596)、US Department of Defense BCRP(W81XWH-19-1-0674、W81XWH-19-1-0111)、Roswell Park Comprehensive Cancer Center(P30CA016056)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Infiltration of common myeloid progenitor (CMP) cells is associated with less aggressive tumor biology, lower risk of brain metastasis, better response to immunotherapy and higher patient survival in breast cancer
著者: Masanori Oshi, Rongrong Wu, Thaer Khoury, Shipra Gandhi, Li Yan, Akimitsu Yamada, Takashi Ishikawa, Itaru Endo, Kazuaki Takabe
掲載雑誌: Annals of Surgery
DOI: https://doi.org/10.1097/SLA.0000000000006428
用語説明
*1 前駆細胞:幹細胞から体を構成する最終分化細胞へと分化する途中の段階にある細胞。
*2 上皮間葉転換:細胞同士の強固な接着がなくなり、癌においては癌細胞が高い運動能力を獲得する現象。