【あおぞら銀行】 SDGs取組企業へのインタビュー 「with Blue」

株式会社あおぞら銀行

Vol.1 新たな価値観への挑戦 ~魚は育て方に付加価値がある~(フィード・ワン株式会社)

あおぞら銀行では、社会のサステナブルな発展に貢献する企業の応援記事シリーズ「with Blue」をウェブサイトに投稿しています。
https://www.aozorabank.co.jp/corp/sustainability/withblue/
記事を通してサステナブルな社会について話すきっかけをつくること、そして、サステナブルな社会の実現について考えたり話したりすることが日常として根付いていくことを目指しています。
記念すべき第一回目の記事は、畜産・水産飼料業界で新たな価値観の創造を目指す企業、フィード・ワン(株)の取り組みを紹介しています。
出典元:フィード・ワン株式会社  



水産資源のいま

日本で流通する水産物のうち、25%弱は養殖で育った魚ということをご存知ですか。
日本の水産物生産量は1984年頃をピークに右肩下がりに減少傾向にあります。主な要因は環境の変化による漁獲量の減少です。一方で養殖は安定的に生産量を確保しており、減少を食い止める程ではないものの日本の水産自給を下支えしています。
また、世界に目を向けると、漁獲量は一定規模で頭打ちとなっていますが、足りない水産量を養殖量の増加で一部補うというような状況となっています。
このように、国内外で共通課題となっているのは漁獲量の減少(グローバル漁獲量は横ばい)ですが、原因の一つは各国の経済成長や人口増加による水産物消費量の増加です。つまり、魚介類の自然繁殖ペースを上回る漁獲量の増加によって、天然の水産資源が減少してしまっているのです。天然の水産資源との共生のためにも、養殖業者の役割は大きいと言えます。
 
提供:フィード・ワン株式会社  


養殖生産者のいま

ところで、天然の水産資源との共生に養殖が重要である一方で、実はその養殖魚を育てるエサ(以下、「飼料」)の原料が年々高騰を続けていることは、消費者にはあまり知られていません。
国内に目を向けてみると、飼料の原料となる輸入魚粉価格の1キロ当たりの費用は2020年対比で7割~8割上昇しており、生産者の事業継続を圧迫しています。農林水産省のデータ(2018年)によると、2003年には4,495事業体いた養殖業者が、2018年には2,704事業体まで減少してしまっています。もちろん原料費高騰だけが原因ではありませんが、生産者の事業環境が年々厳しくなってきていることが伺えます。
水産資源の保全、そして生産者を減らさない為にはどのようなアクションが必要なのでしょうか。今回は、飼料を製造するメーカーとしてこれらの課題に取り組んでいるフィード・ワン(株)にお話を伺いました。
養殖のようす※   


飼料メーカーのいま

インタビュアー:
まず、フィード・ワン(株)の事業内容について簡単に教えていただけますか。
フィード・ワン(株)橋本水産飼料部長(以下、「橋本氏」):
当社は「飼料で食の未来を創り、命を支え、笑顔を届ける」をパーパスとして、お肉・お魚・卵・乳製品の生産に欠かせない配合飼料、いわゆるエサの製造販売を主な生業としているメーカーです。
インタビュアー:
現在の水産資源を取り巻く環境についてはイメージが付くのですが、現在の生産者を取り巻く環境について教えていただけますか。
橋本氏:
陸上の畜産物が植物由来の原料等で作られた飼料で肥育されるのに対し、養殖魚は飼料に魚粉(魚を粉状にしたもの)が多く使われています。
近年魚粉価格は原料となる天然魚の不漁を受け上昇を続けており、このことが生産者の事業環境を大きく圧迫しています。
私たちメーカーとしては、魚粉の高騰で飼料も値上げせざるを得ませんが、原料高騰による値上げなので、誰かが値上げによる利益を得られているというような状況ではありません。
また、値上げをすることは仕方ないとはいえ、メーカーが飼料の値上げを行い、生産者が最終製品である魚の値上げを行えば、価格効果で消費量が落ち込む側面があることも事実です。各自値上げを進めたとしても、消費が落ち込み続ければ業界は立ち行かなくなり、結局は業界自体が潰れてしまいます。
今までは飼料メーカーは飼料メーカー、養殖業者は養殖業者と分けて考えるような面もありましたが、最終消費者までを視野に入れて考えないと、生産者を取り巻く環境は好転していかないと考えています。
橋本水産飼料部長   


魚を使わない「無魚粉飼料」

インタビュアー:
水産業界を取り巻く課題は、①水産資源の保護と②水産業界全体に対する対応が必要だということがわかりました。これらの課題認識の下、フィード・ワン(株)ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
橋本氏:
どちらの課題も同時に取り組む必要があります。当社では、飼料に魚粉を使わないことで、水産資源の保護と生産者のコスト負担軽減の両方を解決できる可能性があると考えています。畜産動物と比べて魚の生態系は未だ解明されていない点が多く試行錯誤の連続でしたが、当社は2023年8月に無魚粉飼料の開発・商業化に成功しました。
インタビュアー:
無魚粉飼料とはどのような飼料のことでしょうか。
橋本氏:
無魚粉飼料とは魚粉を原料に使わない飼料のことです。従前から無魚粉飼料開発の取り組み自体はありました。しかし、魚粉を代替することが機能的にもコスト的にも非常に難しいことが課題となっていました。
魚粉は魚の成長に必要なアミノ酸組成と高い嗜好性(魚の食欲をそそる)を兼ね揃えた原料です。そのため従来の無魚粉飼料では、魚粉を補うための高単価な微量栄養素や添加物が多く必要となり生産コストが高くなる傾向にありました。加えて、魚の嗜好性も低下してしまうことから、成長にばらつきが出てしまう課題も発生し、コストと機能の両面で実用的飼料とは言えない面が多くあったんです。
当社が今回発売したサステナZEROという飼料製品は、フィッシュソリュブル(魚類の加工時に発生する煮汁の脂肪分を除いて凝縮)を採用する等、原料面の工夫により高い嗜好性を実現しました。また、飼料のアミノ酸バランスを最適化することにより従来の魚粉を使用した配合飼料と比較しても生産コストを抑えながら同等の成長性を実現しています。製品開発段階では過去に例を見ない9万尾規模の海洋生け簀(いけす)での大規模な野外試験も行いました。実証性を追求して製品化に辿り着いた製品と言えます。
インタビュアー:
なるほど。魚粉を使わないことで、自然環境的にもコスト的にも優しい製品ということですね。メーカーが担っている役割をしっかりと果たしているという印象を受けました。
橋本氏:
いえ、これだけでは全然足りないと思っています。原料高によって価格転嫁をせざるを得ない昨今の環境下においては、何もしなければ消費量が落ち込んでいくことは目に見えています。今までの飼料メーカーの視座を超えて、消費者の需要回復の流れも作っていかなくてはいけません。
無魚粉飼料「サステナZERO」※   


消費者の価値観を変える挑戦

インタビュアー:
「消費者の需要回復の流れも作る」ということですが、具体的にはどのような取り組みになるのでしょうか。
橋本氏:
現在までの主流な価値観は、魚と言えば「とれたて」であること、つまり鮮度がとても重視される価値観だと思っています。消費者のみなさんは、鮮度の良い魚に対して、価格とのバランスを見ながら購入を決めることが多いのではないでしょうか。この価値観の上では、価格が上がれば消費量は減っていってしまいますし、それが現在起きている事象の一面だと思っています。
私たちは、この従来の価値観自体が悪いとは思っていません。しかし、違った価値観も創出していけるのではないかと考えています。それがまさにSDGs、サステナビリティとしてのブランディングです。地球環境保全が全世界的な課題となっている現状において、ある魚がいかにサステナブルな手法で生産されているのか、いかに地球環境保全に貢献しているかがSDGsとしての付加価値となる価値観の創出にメーカーとして積極的に関与できると考えています。例えばサステナZEROであれば、魚粉を使わないことによる天然資源保護の観点からの環境保全が付加価値として消費者にもっと認知されるということです。また、併せて育成技術の高度化にもチャレンジしており、これにより、魚の出荷までに必要な飼料の量を減らすことができれば、飼料製造エネルギーの削減や生育期間の短縮による間接的なCO2削減効果が期待され、温室効果ガス削減、地球温暖化防止貢献も訴えられます。実際に、欧州ではSDGsへの意識が非常に高く、今まで輸出用途に顧みられなかった真鯛が、無魚粉飼料で育成することによって環境保全の観点から海外からの需要が強くなってきています。
このように、いわば新しい価値の提案を消費者にしていくことが重要だと考えています。当社のサステナビリティ活動としても、昨年から情報発信をしていこうと進めています。
インタビュアー:
養殖についていえば、海の中で吸収される二酸化炭素「ブルーカーボン」が、温室効果ガスの排出削減になると注目されていたりもしますね。
橋本氏:
今の段階でのブルーカーボンの考え方は、海中植物によるCO2吸収が主な対象となっていますが、将来的には海洋で行われる事業においてのCO2排出削減も対象となってくるものと考えています。
そしてその削減対象については、養殖事業も例外ではないと思われます。実は、養殖事業において最もCO2排出量が大きいのが飼料となっています。現在、飼料使用量を大幅に削減する技術の確立にも尽力しており、実現すれば無魚粉飼料の使用と併せSDGsへの貢献をさらに拡大することが可能です。
インタビュアー:
CO2削減において、飼料メーカーとしての貢献余地は大きいですね。
目線を私たち消費者の意識改革に向けてみると、例えば野菜は生産者の顔写真が貼ってあったり、お肉はブランド牛やブランド豚等をはじめとして消費者に訴求がしやすい印象があります。一方で、魚は産地しかわからないというような印象があるのですが、この点に対しても取り組む余地はありますでしょうか。
橋本氏:
養殖魚においても様々な地域ブランドを提案していますが、全体的にはノーブランドのものが多いのも事実です。
またブランドの価値を示しづらいということもあるかも知れません。例えば果実や野菜等は糖度基準のような基準があったりしますが、魚については明快な指標が出てきていないのが現状です。
ただ、そこに対しても出来ることはあると考えており、生産物の良さを示す指標に関しては現在ソフトバンク社と共同で新しい規格基準の作成にチャレンジしています。
育て方における明らかな差別化の提案に加え、出来上がった生産物のわかり易い価値の規格基準が出来れば、真のブランド化も実現されていくものと考えています。
真鯛※   


結びに

今回は、水産資源と養殖業界の現状を認識するところから、環境保全や消費者の価値観の変革にSDGsの観点から取り組むフィード・ワン(株)にお話を伺いました。
最終消費者の購買判断の基本的な基準は品質と価格だと思います。その中において、「育て方(製品の生産過程)」が新たな基準となる日は、そう遠くはないと実感しました。
消費者としての意識を変える第一歩として、次回魚を購入する際は、チャンスがあればどのように育った魚なのか質問してみようと思いました。
最後に、サステナブルな社会の発展には、新しい「あり方」が受容され、評価される環境づくりが重要だと思います。「with Blue」では、これからも企業が取り組むサステナブルな活動に光を当てていきたいと考えています。

※写真提供:フィード・ワン株式会社

その他のリリース

話題のリリース

機能と特徴

お知らせ