オフィスの脱炭素やワークスタイル変革の実証成果発表

株式会社日建設計

築20年の既存テナントビルでオーナーとテナントが一体で脱炭素を推進、オフィスビル義務基準比47%のエネルギー消費量削減を実現

 株式会社日建設計(本社:東京都千代⽥区、代表取締役社⻑:⼤松敦、以下「日建設計」)は、大阪オフィスで展開してきた脱炭素推進やワークスタイル変革に向けた実証実験の結果を発表します。

 近年社会課題は複雑化・多様化しており、1つのサービスや組織の力で解決することは困難な状況になっています。日建設計ではこうした社会課題に対し、社内外のプレイヤーをつなぎ、共創しながら課題解決を推進していくため、2023年4月より各地の自社オフィスを用いた実証実験を展開しています。
※2023.3.31発表リリース https://www.nikken.co.jp/ja/news/press_release/2023_03_31_02.html

 こうした背景の中で、2023年5月の銀泉備後町ビル移転後から実証実験を開始した大阪オフィスにおける課題ターゲット、および今回得られた実証結果は以下の通りです。
  1. 2050年カーボンニュートラル実現に重要視される、ビルオーナーとオフィスのテナントが一体で進める脱炭素の推進
  2. コロナ禍で変化したワークスタイルに対応、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の課題点を空間構成と運用で解決する、来たくなるオフィスの開発

<実証結果>
ビルオーナーの窓改修やテナントの照明・空調の運用効率化により、築20年の既存テナントビルでありながらオフィスビルの義務基準に対する47%のエネルギー消費量削減を実現
  • ビルオーナー・銀泉株式会社様が銀泉備後町ビル(2003年1月竣工)の環境性能を上げるために窓改修を実施、自然換気を増強することでエネルギー面などを性能向上。空調改修も実施
  • テナント入居する日建設計がビルのポテンシャルを最大限活かせるよう、オフィス内の滞在状況に応じて照明や空調を停止してワーカーの移動を促すなど、快適性と環境共生を両立させる運用を展開
  • ビルオーナーとテナントの一体的な取り組みにより、日建設計大阪オフィスが入居する4フロア(5~8F)において、築20年の既存テナントビルでありながらオフィスビルの義務基準に対して47%のエネルギー消費量削減を実現
人とのコミュニケーションを前提としたオフィスにより「所属部署以外のコミュニケーション機会」や「仕事へのモチベーション」が向上
  • 働く場所をワーカー個人が選ぶことのできるABWには「人とのコミュニケーションが取りづらい」「どこに誰がいるか分かりづらい」などの課題点がある。これに対し、社員への調査に基づき、空間構成と運用で解決する手法を実装し、実験を開始
  • オフィスを「個人でできないことを実現する場」として位置づけ、イノベーションにつながる出会いを生み出すフロアづくりなどを導入することで、ワーカーを対象としたアンケートでは「所属部署以外のコミュニケーション機会」や「仕事へのモチベーション」の向上を確認

<実証内容/結果詳細>
1. 2050年カーボンニュートラル実現に重要視される、ビルオーナーとオフィスのテナントが一体で進める脱炭素の推進
 2050年のカーボンニュートラル実現には、CO₂排出量に占める比率が高い業務部門、とりわけ事務所ビルの脱炭素化が重要です。事務所ビルの脱炭素化は自社ビルであれば取り組みやすい一方、建物の開発・所有者(ビルオーナー)と使用者が異なるテナントビルでは取り組みづらく課題となっていたことから、環境省でも2021年9月に「リーディングテナント行動方針」を発表しました。
※環境省 リーディングテナント行動方針 https://www.env.go.jp/earth/zeb/tenant/index.html
 こうした課題を背景に、既存のテナントビルにおけるカーボンニュートラルを推進するため、日建設計では本年5月から大阪オフィスでの実証実験を展開してきました。

・オフィス内の滞在人数にあわせた空調や照明の自動調整による行動変容
 一般的に、オフィスは朝や夜以降の滞在人数は日中に比べて少なくなるため、照明や待機電力などのエネルギーに無駄が生じます。また空調も、フロア一律の温度設定は人によって暑い・寒いの体感差が生じることから、より多くのワーカーの快適性追求には課題があります。そこで日建設計は、照明や空調を画一的に運用するのではなく、意図的に「ムラ」を作り出すことで課題解決を図り、オフィスビルにおける省エネルギー性と多くのワーカーに向けた快適な環境づくりの両立を実現します。

 照明は定時以降の滞在人員に合わせて自動的に照度変更される設定を行い、人がいない・少ないエリアは暗く、人が多いエリアは日中と同等の明るさとなります。暗い場所から明るい場所へ、フロア内の特定エリアにワーカーが集まるよう行動変容を促し、不要な照明を削減します。

 
 空調は同一フロア内で強・弱・送風・停止のムラを作り、ワーカーがそれぞれ好みのエリアを選べるようにすることで快適性を追求しています。同時に空調不要なエリアが生じることから、フロア全体としての省エネルギー化にも繋がります。

・デジタルサイネージやロボット活用による行動変容
 照明や空調のムラをワーカーに対して可視化することで気づきや行動変容に繋げるため、フロア内ではデジタルサイネージを活用しているほか、今後ロボットの導入も検討しています。

 デジタルサイネージはフロア内に設置しているセンサーから吸い上げた温度(暖かい・涼しい)、ノイズ(煩い・静か)、照明(明るい・暗い)といった環境情報が直感的・視覚的に伝わるようカラー表示を行い、フロア内で空調や照明のムラがある中でも各ワーカーが自身にとって最適な席を選べるようにしています。

 ロボットは、CO2濃度、外気温、室温などをセンサーとデータ連携しながらフロア内を自律移動できるタイプを検討しています。例えばフロア内のCO2濃度が基準より高い場合、音声や画面表示を通じ、ワーカーに対して窓の換気を促すコミュニケーションを行います。

・環境性能向上に向けた自然換気窓への改修
 今回の取り組みは、大阪オフィスがテナント入居するビルオーナー・銀泉株式会社様と日建設計の協力体制により実現しました。
 銀泉様では、これまでも自社所有のテナントビルにおけるカーボンニュートラル推進を検討・実施されてきました。日建設計は、今後さらに取り組みを加速させる必要を感じていた銀泉様にご協力する形で今回の実証実験を提案、環境性能の向上に向けて銀泉備後町ビルの当社入居フロアを手動開閉可能な自然換気窓に改修されています。
 自然換気の増強により、エネルギー効率に加えて感染症対策面の性能も向上しました。

■実証成果/ビルオーナーの窓改修やテナントの照明・空調の運用効率化により、築20年の既存テナントビルでありながらオフィスビルの義務基準に対する47%のエネルギー消費量削減を実現
 既存テナントビルの脱炭素化に向けて5月から展開してきた実証実験の結果、日建設計大阪オフィスが入居する4フロア(5~8F)において、9月までにオフィスビルの義務基準と比べて47%のエネルギー消費量の削減が確認できました。銀泉様によるビルの省エネ改修効果に加え、テナント(日建設計)側の改修および空調・照明等の運用効率化による成果となっています。

 今後日建設計では、今回の実証実験を通して得られたノウハウを活かし、更なる行動変容の促進や困難と言われているコンセント・サーバー等の電力量削減などに取り組む予定です。2030年までのさらなる10%削減を目標としてオフィスビルの脱炭素を推進し、将来的なクライアントの皆さまへの還元を目指してまいります。

2. コロナ禍で変化したワークスタイルに対応、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の課題点を空間構成と運用で解決する、来たくなるオフィスの開発
 テレワークの普及などコロナ禍以降で大きく変化した働き方にあわせ、最も生産性高く働くことが出来る場所、時間、相手をワーカー自らが選択するABWに対応したオフィスが増えてきています。ABWでは、例えば「集中したい」「WEB会議がしたい」などワーカー個人のニーズにフォーカスしたレイアウトが多い一方、「人とのコミュニケーションが取りづらい」「どこに誰がいるか分かりづらい」などの課題がありました。

 こうした課題を背景に、社内外のプレイヤーと共創することで社会課題解決の推進を目指す日建設計では、むしろオフィスを「個人ではできないことを実現する場」として位置づけ、大阪オフィスは人とのコミュニケーションを前提にコンセプトを再構築し、実証実験を展開してきました。

・偶発的な出会いやコミュニケーションを生み出すフロアづくり
 大阪オフィスでは、フロアごとに異なるコンセプトやコンテンツを設定しています。各コンテンツを目的に集まるワーカー同士の偶発的な出会いやコミュニケーションを生み出すことを目的にしており、新たなイノベーションにつながる理想的なABWオフィスのあり方を模索しています。

サロンフロア(8F):“人と人を介したコミュニケーション”がコンセプト。社内外に向けたイベント開催に加え、ミニキッチンやコンシェルジュなどを備えており、オフィスの顔として外部との繋がりを創出

図書館フロア(7F):“本とサンプルを介したコミュニケーション”がコンセプト。専門書やサンプルなどの資料が集まっており思考に没頭できるほか、手にしたことのない本との出会いも

<図書館フロア>

ラボフロア(6F):“デジタルツールを介したコミュニケーション”がコンセプト。XRテクノロジーを用いて空間や寸法感覚を社内外で共有できるスタジオを始め、先端的なデジタルツールを集めることで議論を加速

<ラボフロア>

工房フロア(5F):“CGと模型を介したコミュニケーション”がコンセプト。ものづくりの熱気を感じられるようCGと模型を集め、リアルなアウトプット創出を行う

・フロア内の人の場所をリアルタイムに可視化
 フロアに設置するデジタルサイネージ上には、カーボンニュートラル推進に向けた空調や照明の可視化に加え、ABWにおける誰がどこにいるか分かりづらい課題の解決のため人の場所をリアルタイム表示します。部門ごとに異なるカラー表示を行い、例えばチームメンバーや上司の近くなど、仕事をしたい場所に応じてワーカーが直感的に席を選べるようになっています。

■実証成果/人とのコミュニケーションを前提としたABWにより「所属部署以外のコミュニケーション機会」や「仕事へのモチベーション」が向上
 偶発的な出会いを生み出すABWオフィスの成果を確認するため、2023年5月の運用開始から約2ヶ月が経過した7月に大阪オフィスのワーカーを対象としたアンケートを実施し、270の回答が集まりました。結果、「所属部署以外のコミュニケーションが良くなった」と感じるワーカーが約34%おり、意図していた偶発的な出会いの創出を一定成功できていることが確認できたほか、副次的な効果として「仕事へのモチベーションが高まった」と感じるワーカーも約24%いることも判明しました。
 
<所属部署以外とのコミュニケーションの変化>

 
<仕事へのモチベーションの変化>
 
 一方で、変化を感じていないワーカーも半数以上を占めているほか、悪くなった/下がったと感じるワーカーも一定出現しています。また、プロジェクトチーム内のコミュニケーション変化について聞くと、「良くなった」と「悪くなった」が同数程度と上記ほどの改善が見られておらず、今後の課題点となっています。
 
<プロジェクトチーム内のコミュニケーションの変化>
 
*アンケート概要
  • 聴取対象:日建設計大阪オフィスで勤務する20代~60代のワーカー
  • 回収数:270(ワーカー540名への回答依頼のうち270名分を回収)
  • 実施期間:2023年7月10~14日

<オフィスでのコミュニケーションやモチベーションの変化に関するコメント(一部抜粋)>
■良くなった/高まった
  • 色々なセクションの方との偶発的な出会いから、あいさつする機会が増えたような気がする。
  • 職位、部署を超えてフラットに職員同士の出会いや会話ができるようになった。
  • 他部門の人の働きぶりを見れるようになったので、会社全体への親近感が増した。
■悪くなった/下がった
  • 会社に来なくても、どこで仕事をしても良いという意識が生まれた。
  • フリーアドレスのため、自分の場所が無くなる感じがする。
  • 何気ない関わりが少なくなり、一人で仕事をしているような感じがする。
 今後もこうしたアンケートを実施し、開発成果の進捗やワーカーのフィードバックを確認、改善案を検討していく予定です。また課題点の解決に向け、例えば各ワーカーの空調や照明、座る場所の好みなどを学習して自動でおすすめの席を予約するマッチング機能の実装などを通じ、コミュニケーション促進に重点を置いたABWオフィスの開発を進めてまいります。

■日建設計について
 日建設計は、建築・土木の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務を⾏うプロフェッショナル・サービス・ファームです。1900年の創業以来120年にわたって、社会の要請とクライアントの皆様の様々なご要望にお応えすべく、顕在的・潜在的な社会課題に対して解決を図る「社会環境デザイン」を通じた価値創造に取り組んできました。これまで⽇本、中国、ASEAN、中東で様々なプロジェクトに携わり、近年はインド、欧州にも展開しています。 
URL:https://www.nikken.jp/ja/

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