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東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)病態生理学分野 林 由起子主任教授、和田英治講師、法医学分野 前田秀将准教授の研究チームが、東京医科歯科大学 咬合機能矯正学分野の小野卓史教授、細道純准教授、Wirongrong Wongkitikamjorn大学院生(東京医科歯科大学 ―タイ・チュラロンコーン大学ジョイント・ディグリー・プログラム学生)の研究チームとの共同研究で、妊娠時の間欠的低酸素曝露が仔ラットの成長期に有酸素運動能の低下と骨格筋での糖・脂質代謝異常、血管密度の減少を引き起こすことを明らかにしました。
【概要】
東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)病態生理学分野 林 由起子主任教授、和田英治講師、法医学分野 前田秀将准教授の研究チームが、東京医科歯科大学 咬合機能矯正学分野の小野卓史教授、細道純准教授、Wirongrong Wongkitikamjorn大学院生(東京医科歯科大学 ―タイ・チュラロンコーン大学ジョイント・ディグリー・プログラム学生)の研究チームとの共同研究で、妊娠時の間欠的低酸素曝露が仔ラットの成長期に有酸素運動能の低下と骨格筋での糖・脂質代謝異常、血管密度の減少を引き起こすことを明らかにしました。この発見は、近年着目されているDevelopmental Origins of Health and Disease (DOHaD)学説に対する新たな知見であり、将来の糖尿病や肥満などの生活習慣病発症に骨格筋が関与する可能性を示したものです。本研究成果は2023年1月12日に国際科学雑誌「Frontiers in Physiology」に掲載されました。
【本研究のポイント】
本研究では妊娠中の閉塞性睡眠時無呼吸症のモデルとして、妊娠ラットを特殊な装置内で飼育し間欠的低酸素状態に曝露しました。母体の低酸素状態が仔ラットに与える影響を検討するため、仔ラットを出生後成長期(5週齢)まで正常酸素下状態で飼育し、運動機能や骨格筋における変化を確認しました。
・妊娠中、間欠的に低酸素状態に曝露された仔ラットの体重や握力は正常対照ラットと差はなかったものの、強制運動負荷試験において運動能力の低下が明らかとなった。
・骨格筋の中でも横隔膜(呼吸筋)や前脛骨筋(下腿筋)では、妊娠時低酸素曝露によって仔ラットの糖・脂質エネルギー代謝が低下した。
・横隔膜や前脛骨筋では毛細血管密度が低下しており、アディポネクチン受容体の発現低下の関与が示唆された。
・一方、オトガイ舌骨筋や咬筋ではこれらの変化は認められなかったことから、胎児期の低酸素曝露による骨格筋への影響は部位特異性があることが考えられた。
【研究の背景】
妊娠時には閉塞性睡眠時無呼吸症が好発し、母体の低酸素状態が胎児に与える影響が懸念されています。このように胎児期から出生後の発達期における様々な環境への曝露が、成長後の健康や病気の発症リスクに影響を及ぼすというDOHaD学説は、生物学全体の新たな研究課題として着目されています。これまでに妊娠時に間欠的低酸素曝露を経験した仔ラットやマウスは、出生時にはやや低体重で呼吸状態にも異常が認められること、さらに成獣期には体重の増加、インスリン抵抗性、学習機能障害が起こることが報告されています(図1)。一方、成長期の仔への影響については報告がありませんでした。そこで我々は成長期の仔ラット骨格筋を解析することで、その後の疾患リスクへの関与を検討しました。
【本研究で得られた結果・知見】
胎児期に間欠的低酸素に曝露された仔ラットは成長期の体重や食餌摂取量、握力に差は認められませんでしたが、強制運動負荷試験では運動機能の低下が明らかとなりました。そこで横隔膜と前脛骨筋の筋線維径と筋線維タイプの割合を評価しましたが、変化は認められませんでした。一方、これらの筋部位では糖代謝(図2)・脂質代謝に関与する遺伝子発現が減少し、糖・脂質代謝に関与する骨格筋内アディポネクチン受容体1(Adipor1)の遺伝子発現の低下が認められました(図3A)。また、血管形成に関与するアディポネクチン受容体2(Adipor2)の遺伝子発現も低下していたことから(図3A)、骨格筋内毛細血管密度を定量した結果、間欠的低酸素に曝露された仔ラットの横隔膜で血管密度が有意に減少していることを突き止めました(図3B, C)。このような変化は同じ骨格筋でもオトガイ舌骨筋や咬筋では認められなかったことから、胎児期の低酸素曝露による骨格筋への影響には部位特異性が存在することが考えられます。
【今後の研究展開および波及効果】
本研究により、妊娠時の低酸素曝露が成長期の仔ラットにおいて、全身の代謝制御を司る骨格筋のエネルギー代謝異常や血管密度の減少を引き起こすことが明らかとなりました。このような成長期での変化が、成獣期の肥満や糖尿病といった生活習慣病発症の「鍵」となる可能性を示唆しました。
今後は、より詳細な検討を行うべく、出生後から成長期、成獣期にかけて経時的に骨格筋のエネルギー代謝変化を確認していく予定です。また、定期的な運動介入が骨格筋内のエネルギー代謝や毛細血管密度の改善につながるのかを明らかにしていきたいと思います。
【掲載誌名・DOI】
掲載誌:Frontiers in Physiology
DOI:10.3389/fphys.2023.1067683
【論文タイトル】
Metabolic dysregulation and decreased capillarization in skeletal muscles of male adolescent offspring rats exposed to gestational intermittent hypoxia
【著者】
Wirongrong Wongkitikamjorn, Eiji Wada, Jun Hosomichi, Hideyuki Maeda, Sirichom Satrawaha, Haixin Hong, Ken-ichi Yoshida, Takashi Ono and Yukiko K. Hayashi*
【主な競争的研究資金】
本研究は、日本学術振興会科学研究費 基盤研究B(20H03594代表:林 由起子、20H03895 代表:小野卓史)、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(代表:林 由起子)、東京医科大学フォローアップ研究費(代表:和田英治)の支援を受けて実施しました。
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/