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兵庫県立大学の中濱直之講師(兵庫県立人と自然の博物館研究員)と山崎健史准教授(同館主任研究員)、駒澤正樹氏(北海道旭川市)、京都大学の中野隆文准教授らの研究グループは、ガロアムシ目昆虫2種類を北海道から発見し、新種として記載した。また新属(エゾガロアムシ属Arctigalloisiana)を設立し、既知種のエゾガロアムシを含めた北海道産ガロアムシ目3種を新属に移動させた。この研究成果は2022年11月11日に、国際科学誌「Zoologischer Anzeiger」の電子版に掲載された。
【概 要】
ガロアムシ目昆虫は日本から1属6種が知られているものの、分類学的な研究の遅れが指摘されており、新種として記載されたのは 1961年のエゾガロアムシGalloisiana yezoensisが最後だった。また北海道からは、石狩山地で先述のエゾガロアムシが知られるのみであった。
本研究では北海道各地から採集されたガロアムシ目昆虫の形態や遺伝情報を詳しく解析した結果、北海道のガロアムシを新属Arctigalloisianaに含めるのが適切であるという結論に至った。また、夕張山地からオナガエゾガロアムシArctigalloisiana yubariensis、日高山脈からオオエゾガロアムシArctigalloisiana poropnetopaをそれぞれ新種として記載した。さらに石狩山地のエゾガロアムシはArctigalloisiana yezoensisという学名に変更になった。これで国内のガロアムシ目昆虫は2属8種となる。
本研究は、分類学的研究が大きく遅れていたガロアムシ目昆虫のうち北海道の個体群を分類学的に整理した、今後のガロアムシ目研究を進めるうえで基盤となる重要な研究。またガロアムシ目昆虫は北海道に限らず、国内各地で多くのガロアムシ目昆虫が新種として記載されることが期待されており、本研究はその先駆けとなる。
【1.背景】
ガロアムシ目昆虫はフランス外交官のガロア氏にちなんで命名された昆虫のグループ。世界から5属32種が知られており、バッタやナナフシ、カマキリなどとともに直翅類と呼ばれている。洞窟、林床や渓流沿いのガレ場など冷涼湿潤な環境に生息し、翅は退化しているとともに、種によっては複眼が退化している。北アメリカ大陸西部やユーラシア大陸東部、日本に分布しており、日本からはGalloisiana属という1属(6種を含む)が記録されている。このほかにも多くの未記載種と思われる個体群が日本各地で確認されているものの、分類学的研究に不可欠な成虫の発見が非常に困難であることから、日本国内のガロアムシの分類学的研究は大きく遅れているのが現状である。北海道からは石狩山地からエゾガロアムシ1種のみが既知種として知られていたが、北海道の各地でもガロアムシの生息は確認されており、分類学的研究の必要性が指摘されていた。
本研究では、ガロアムシ目昆虫を北海道各地から収集し、形態的な観察及び遺伝情報を用いた解析によって分類学的な整理を実施した。
【2.結果】
北海道を含めた日本、また海外のガロアムシについてミトコンドリアのCOII領域、核の18S、28S領域の遺伝子配列を比較した結果、北海道のガロアムシは他の地域と大きく遺伝的に離れており、独自の集団を形成していることが明らかとなった。また、フ節のジョク盤の発達が弱い、下唇後基節の後部に1対の剛毛があるなどの、本州以南の日本や東アジアのガロアムシと異なる形態的な特徴が見つかった。
その結果、北海道のガロアムシは東アジア(日本とユーラシア大陸)に分布するGalloisiana 属ではなく、新属を設立するのが妥当であるという結論に至り、Arctigalloisiana属を設立した。
それに伴い、石狩山地のエゾガロアムシは新属に移動し、Arctigalloisiana yezoensisという学名となった。
さらに、北海道のガロアムシは、「日高山脈」「夕張山地」「石狩山地」「北見山地及び天塩山地」 の4つのグループに遺伝的に分かれた。
これらの形態を比較した結果、夕張山地の集団は産卵管が長いという特徴が見られたことから、オナガエゾガロアムシArctigalloisiana yubariensisとして、また日高山脈の集団は触角の第2節及び第3節の比が異なるこことなどの特徴が見られたことから、オオエゾガロアムシ Arctigalloisiana poropnetopaとしてそれぞれ新種記載した。北見山地及び天塩山地についてはメス成虫と幼虫のみしか入手できず、メス成虫ではエゾガロアムシと形態的な識別が現時点でできなかったことから、現時点では分類学的な検討は見送った。
本研究から、日本のガロアムシ目昆虫は2属8種となった。
【3.波及効果】
ガロアムシの新種記載が最後にされたのは 1961年のエゾガロアムシで、61年も前のこと。それ以降、国内ではガロアムシの分類学的研究は大きく遅れていた。本研究は、国内の今後のガロアムシの分類学的研究の先駆けとなる、重要な取り組みとなる。
今後は本州や四国、九州などにおいてもガロアムシ目昆虫の分布調査や分類学的研究が実施されることで、ガロアムシ目昆虫の網羅的な理解が進むことが期待されている。
<研究プロジェクトについて>
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 (17J00965と19K15856) による支援を受けた。
<共同研究者>
中濱直之、山崎健史(兵庫県立大学兼兵庫県立人と自然の博物館)、駒澤正樹(北海道旭川市)、中野隆文(京都大学)
<論文情報>
【タイトル】
Integrative approach clarifies the distinct taxonomic account of gryloblattids endemic to
Hokkaido, Japan, with a description of two new species (Insecta, Grylloblattodea)(統合的アプローチによる北海道産ガロアムシ目の分類学的な評価と2新種の記載)
【著者】
Naoyuki Nakahama, Takeshi Yamasaki, Masaki Komazawa, Takafumi Nakano(中濱直之、山崎健史、駒澤正樹、中野隆文)
【雑誌・号・doi】
Zoologischer Anzeiger
巻・号:未定
Doi: 10.1016/j.jcz.2022.11.003
▼本件に関する問い合わせ先
兵庫県立大学自然・環境科学研究所 講師
兵庫県立人と自然の博物館 研究員
中濱直之
TEL: 079-559-2002
E-mail: nakahama@hitohaku.jp
京都大学 総務部広報課国際広報室
TEL: 075-753-5729
FAX: 075-753-2094
E-mail: comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
兵庫県立人と自然の博物館 生涯学習課
TEL: 079-559-2001
FAX: 079-559-2033
E-mail: koho@hitohaku.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/