大阪工業大学(学長:井上晋)応用化学科の村田理尚准教授、上田和樹大学院生(博士後期課程3年)、大阪産業技術研究所の川野真太郎主任研究員、台湾国立陽明交通大学の莊士卿教授らのグループは、導電性有機材料の新物質を開発。ニッケル錯体にチエノチオフェン構造を組み合わせるデザインにより、n型有機半導体の塗布膜として世界最高の電気伝導率を達成しました。
【本件のポイント】
●n型有機材料の新物質を開発し、塗布膜で世界最高の電気伝導率を達成
●大気下で不安定だったこれまでのn型導電性有機材料の課題を克服。合成も容易
●熱電変換特性も確認され、フレキシブルな熱電変換デバイスへの応用も期待される
有機物の多くは絶縁体ですが、導電性有機材料は電気を流すことのできる特殊な有機材料です。シリコンなどの無機材料に比べて、軽量、大面積、フレキシブル、印刷可能、低熱伝導率などの特徴があり、エレクトロニクスやエネルギーハーベスティングなどの科学技術の発展に不可欠な材料として期待されています。有機半導体では、主なキャリヤーとしてホールを固体中にもつp型材料と、電子をキャリヤーとするn型材料がありますが、p型材料に比べてn型材料の開発が遅れていました。n型有機材料は大気に不安定で、合成が難しいことも多く、一般にn型有機材料の塗布膜は低い電気伝導率(<10 S/cm)を示すことが課題となっていました。
村田准教授と上田大学院生らのグループは、n型有機系半導体として、大気下でも安定に取り扱えるニッケル錯体に着目し、これにチエノチオフェンという構造を組み込む分子デザインにより、新たな有機金属材料を開発しました。この新物質は、短段階の合成ルートでつくることができ、空気下で塗って乾かして加熱するだけの簡単な方法で製膜でき、得られた塗布膜がn型材料として世界最高の電気伝導率(>200 S/cm)を示すことを発見しました。従来の最高値の約2倍となる電気伝導率を達成しただけでなく、大気下でも安定、合成が容易で、熱電特性を示す優れたn型導電性有機材料であることを明らかにしました。その価値が認められ、このたび化学分野のトップジャーナルである米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society(JACS)」に掲載(速報)されました。
URL:
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.2c07888 (DOI:10.1021/jacs.2c07888)
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