デロイト トーマツ、今後のテクノロジー・メディア・通信業界を予測した「TMT Predictions 2022 日本版」を発行

デロイト トーマツ グループ

●NFT関連の資金調達は2021年に18億ドル超となり、昨年比47倍に
●日本のリユーススマホ使用率は3%で、英国15%、独13%、豪13%、蘭11%とグローバルと差が開く

デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、グループCEO:永田高士)は、テクノロジー・メディア・通信(TMT)業界についてデロイト グローバルがトレンドを予測し、発表した「TMT Predictions 2022」をもとに、日本オリジナルの考察・分析を加えたレポート「TMT Predictions 2022 日本版」を発行しました。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/technology-media-and-telecommunications/articles/et/tmt-predictions.html

本レポートはTMT業界で注目すべき10のトピックを取り上げながら、新しい行動様式や産業構造の変化、ディスラプティブな技術が人々の生き方や社会そのものを変容させていく転換期において、何が論点となりTMT業界の今後に影響しうるのかを横断的に示しています。

COVID-19がもたらしたインパクトが継続的に作用しているメディア消費行動の変化や半導体不足問題に加え、新技術およびサービスが従来型のビジネス構造を変える可能性が期待される分野などがあります。直近で最も注目されているトピックの一つであるNFT、半導体の新しいオープンスタンダードであるRISC-V、5Gの普及に際し注目される技術であるFWA、ディスラプティブな技術として用途が注目される量子コンピューティングも、近年当業界を賑わしています。
さらに、社会変容に関する重要なキーワードとして現出している「サステナビリティ」について、AIにまつわる規制や倫理、ゲーム業界のサステナブルな発展、テクノロジー業界における女性の活躍、サステナブルスマートフォンを取り上げ考察しています。各トピックの中には企業が変化に対応するためのヒントが散りばめられています。この内容を通して、企業が不確定な時代の中で将来を切り開いていくための論点が見えてくることを期待しています。

【グローバルの予測と日本の視点】
■NFT(Non Fungible Tokens)

グローバルにおける市場予測
スポーツの瞬間を切り取った動画やプレイヤーカードの限定販売等のNFT(non-fungible tokens:非代替性トークン)は、2022年には2021年の倍の20億米ドル以上の取引を生み出し、スポーツコンテンツ市場におけるNFTの地位固めになると予測している。NFTはヒトが持つコレクション(収集)行動を、デジタルの世界でも加速させる一因となるだろう。

日本の視点
NFTは改竄やコピーが難しく、デジタル資産として固有の価値を持たせることができることから、アート作品や音楽、ゲームアイテムなどレアアイテムを扱う利用が活発化している。当社の調査によると、2020年に4000万ドル弱だったグローバルにおけるNFT関連事業者の資金調達規模が2021年には18億ドル超に拡大し、またNFTに関わる会社の設立は2020年の61件から2021年には180件となった。
国内外で多くの事業者がNFTへの参入を始めている一方、NFTビジネスは多くの一般企業にとっては黎明のフェーズで、事業化にはNFTの不正発行への対策やNFTバブルともいえる価格高騰などの課題がある。
■サステナブル スマートフォン
グローバルにおける市場予測
デロイトは、2022年に世界で45億台に上る利用があると試算されるスマートフォンをめぐって、1億4,600万トンのCO2/CO2eが排出されると予測している。排出量の大半(83%)は、2022年に出荷された14億台の新型スマートフォンの製造、出荷、初年度の使用に起因するため、端末の寿命を延ばすことが排出量削減の鍵となり、そのためには市場でのリユース端末の活発な取引や再利用、可能な限り長期間のソフトウエアやセキュリティのアップデートが必要になる。

日本の視点
 “サステナブル”を目指す取り組みが世界的に加速する中、スマートフォンエコシステムにおいて日本企業はバリューチェーンの企画・設計、調達・製造、販売の各段階で検討・取り組みを行うことが必要である。その中でも今後重要な取り組みとなるのは1. 光電融合技術などの超低消費電力を実現する次世代技術の研鑽、2. リユーススマートフォンの新たなビジネスモデル構築である。日本におけるリユーススマートフォンの使用率は3%で、英国15%、ドイツ13%、オーストラリア13%、オランダ11%と各国と差が開く。①スマートフォンメーカーや部品・部材メーカーにとっての収益源にならないこと、②リユース製品に対する消費者の不安があるといった課題があり、既存のリユーススマートフォンのビジネスをスマートフォンメーカー・通信キャリア、販売店、最終消費者にとって価値あるビジネスモデルを構築することが肝要である。

■映像メディア
グローバルにおける市場予測

定額制動画配信(SVOD)サービスについて、2022年にグローバルで有料サブスクリプションが少なくとも1億5000万件キャンセルされ、各市場でのサービス解約率は最大30%になると予測している。しかし一方で、解約数を上回る新規契約が追加され、また一度解約したサービスに再加入するユーザーも多いと想定され、1人当たりの平均契約数は増加すると考えられる。SVODが複数の市場で成熟するにつれて、動画配信市場の成長に広告型モデルが寄与することが増えると予測される。

日本の視点
各国と比較して日本のSVODサービスの普及率はまだ低いものの、生活のさまざまな場面で動画コンテンツを視聴・消費する行為自体は広く浸透していることから、市場の成長余地はある。毎年数千億円~数兆円単位の予算を投じてコンテンツを制作し、全世界で配信をしている海外プレイヤーの存在は大きく、またそれらが日本発のコンテンツ制作を強化しており、今後国内では映像クリエイターや俳優、監督など映像に関わる人材の争奪は熾烈になり、既存の放送局などの国内プレイヤーが優良なコンテンツを制作することが困難になる可能性もある。コンテンツのみでなく、洗練された広告モデルや日本独自のポイントサ―ビスを活用したポイント経済圏の利用など、サービスモデル自体でも海外プレイヤーと差別化を図ることが求められるようになる。

■ゲーム
グローバルにおける市場予測

デロイトは2022年のゲームコンソール関連市場の収益は810億米ドルで、2021年から10%増加すると予測している。ゲームコンソールユーザー1人当たりに換算した年間収益は平均92米ドルと予想されており、これはPCゲーマー1人当たり23米ドル、モバイルゲーマー1人当たり50米ドルを大きく上回る。2022年のゲームコンソール関連売上のうち約590億米ドルは、ビデオゲームのタイトル、サブスクリプション、アプリ内課金で構成されるソフトウエア販売によるもので、ゲームコンソール(ハードウエア)自体の収益は220億米ドルを超えると推計される。

日本の視点
ゲーム業界では近年ハードウェアのスペック向上が進むとともに、開発方法の変化や開発期間の長期化が起きている。また業界拡大に伴い1タイトル当たりのビジネス規模が拡大するなど、関与者が増加し、複雑化する制作工程、スケジュール管理の重要性がより増している。制作現場以外の人間が品質管理に関わることへの反発や、労働環境、ハラスメントといった課題から、ゲーム関連企業の株価や業績に大きな影響を与える事例も実際に起こっている。
日本のゲーム会社が今後も世界のゲーム業界をリードする存在であるためには、①制作管理における課題、②開発環境に関する課題の2点について、海外の先進事例を参考にしつつ、ゲーム開発者がよりゲーム開発に専念できる環境づくりを行うことが非常に重要である。

■半導体業界動向
グローバルにおける市場予測

デロイトは、多くの種類の半導体(チップ)が2022年中も供給不足になると予測している。パンデミックなどの物流の問題も影響しているが、AI、データセンター、コンピュータ、IoT など、あらゆる分野でのチップ需要が非常に高いこ
とが最大の「問題」となっている。一方で、世界中のベンチャーキャピタル(VC)企業が2022年には半導体企業に60億米ドル以上を投資し、VCによる半導体業界への投資は依然旺盛な状態が続くと予測する。最近の傾向からすれば、この投資の大部分は中国企業向けのものになるだろう。中国の半導体企業への投資は2019年から2020年にかけて3倍になった。

日本の視点
PC販売台数の増加やクラウドコンピューティングのデータセンターの半導体購入量の増加など、COVID-19の影響によるデジタルトランスフォーメーションの進展とともにパンデミックによる世界各地の製造シャットダウンが半導体の供給不足の混乱に拍車をかけている。半導体不足が深刻となる中、各国政府は半導体の製造を国内に回帰するローカライゼーションやサプライチェーンの可視化を通した需給最適化を進めつつ、微細化、3次元実装など各国の強みを発揮できる分野での研究開発を推進している。また、グローバルVCは半導体の性能を飛躍的に高める特定用途目的でのファブレス分野、カスタム設計を可能にするRISC-Vに投資を行う。日系企業にも、激変する環境を理解しつつ、自国および自社の強みを活かせる投資領域、注力領域を見定めていくことが求められる。

■半導体 RISC-V(リスクファイブ)*
グローバルにおける市場予測

デロイトは、2022年のRISC-Vの市場規模は2021年から倍増し、2023年にも拡大を続けさらに倍増すると予測している。現在、アプリケーションプロセッシングコアのほぼすべてが、Intel ISAまたはArm ISAのいずれかを使用している。オープンソースのISAはこれら既存のISAに比べ自由で柔軟性があり、変更が容易で、輸出規制などの制裁を受けない。
*チップ設計用のオープンソースの命令セットアーキテクチャ (ISA)。他の多くのISA設計とは異なり、RISC-V ISAはオープンソースライセンスとして公開されている

日本の視点
グローバルで大きな注目を集めるRISC-Vについて、日本では一部の先進的企業を除いて相応の検討が行われていないのが実情である。しかし、RISC-Vコア搭載の半導体に切り替えることによっての各方面でのコストダウンが可能であると共に、自動車やプリンター、デジタルカメラ、IoTエッジデバイスや産業機械などの日本がグローバルで高い競争力を保持する領域においてRISC-Vが専用チップ開発のハードルを下げることができる。RISC-Vは詳細検討に値する技術であり、その重要性の本質はオープンソースというビジネスモデルが初めてCPU設計の領域に持ち込まれたことにある。日本半導体復権の必要性が声高に叫ばれる中、CPUの業界構造が変わりつつあることは大きな機会である。

■FWA(Fixed Wireless Access)/Wi-Fi 6
グローバルにおける市場予測

デロイトは、2022年にはWi-Fi 6デバイスの出荷台数が25億台と5Gデバイス約15億台を上回り、今後数年はその傾向が続く可能性が高いと推計している。また、FWA(固定無線アクセス市場)は急速に成長しており、FWA接続数は2020年の約6,000万から2022年には約8,800万に増加し、5G FWAが全体の約7%を占める**と予測している。5Gの優れたネットワーク密度と周波数帯効率により、FWAをブロードバンド接続に導入する際の経済性と技術的な実現可能性が向上する。
**固定サービスのみを対象とした予測

日本の視点
FWAは日本での知名度は低いが5G以前から存在していた技術であり、米国のように国土が広く全国的な光ファイバー網の整備が困難な国ではデジタルデバイドの縮小・解消を目的に普及が進められ、ヨーロッパ・UKにおいては政府機関も普及を後押ししている技術である。日本でもB2C領域では大手通信事業者が競争を既に始めており、キャリアに依存することなく「ユーザーの通信も含めたコンテンツ体験の最大化」の実現や、「インターネット利用までのリードタイムの短縮や工事負担の削減」といった利点がある。B2B領域においては、これまでの固定回線を無線化することで物理的な制約なくネットワーク構築ができるようになり、業務の効率化や、製造業における工場内でのレイアウトの自在化といったネットワークアーキテクチャーの柔軟性を高めることが想定される。

■テクノロジー業界における女性
グローバルにおける市場予測

デロイトの予測によると、2022年には世界の大手テクノロジー企業の全従業員に占める女性の割合が32.9%となり、2019年の30.8%から2ポイント上昇する。技術職に占める女性の割合も増加するが、全体に占める女性の割合と比較すると約8ポイント程度低く25.0%となると見込まれる。

日本の視点
近年、女性活躍の推進があらゆる企業において必須の取り組みとなっている中、テクノロジー業界の女性比率は依然として低い。日本では、男子学生と女子学生の間で理数系の能力の差がさほどないにも関わらず、女性を取り巻く様々な要因(学校・家庭・その他の社会全体)からのジェンダー・バイアスだけでなく、さらに業界の男性比率の高さからくるサポート不足・理解不足等から、女性が理系やテクノロジー領域を自身の進路として選択することを躊躇し、結果として男女比率の差につながっている。
業界や会社の中でその比率を増やすためには、まず、その人材になり得る母集団を増やしていくことが求められる。そのためには、テクノロジー業界に興味を持っている女性を増やしていくことが必要不可欠であり、中長期的な目線に立って取り組むべき社会課題と言えるだろう。

■量子コンピューティング
グローバルにおける市場予測

デロイトは、量子ボリュームは2022年に倍増すると予測し、量子ビットや量子ボリュームといった量子コンピューティング(QC)関連指標について、その発展やニュース報道が続くと考える。QCは長期的に見ると大きな可能性を秘めているが、実際のユースケースはまだほとんどない状況で、活用されるのは何年も先である。

日本の視点
量子コンピューティングにおいて、日本ではアニーリング型を中心にスタートアップや企業でのPoC検討が進んでいる。日本で量子技術を発展させるためには、ゲート型、アニーリング型共にどのような社会課題を解決し得るのかを見定め、具体的なユースケースを1つでも構築することが重要なマイルストーンとなる。ユースケースが構築されることで量子技術の社会的インパクトについて世の中への理解も広まり、産官で量子技術への投資余力がまた生まれてくる。また、現状の投資余力のあるトップ企業だけがPoCやコンソーシアムで取り組めている状況から脱し、量子コンピュータの導入・PoCを検討する企業のすそ野を広げていくことが肝要である。

■AI
グローバルにおける市場予測

2022年にAIの体系的な規制に関する議論が盛んになり、いくつかの規制案が提出されることが想定され、2023年以降に実際に規制の施行に至ると予測している。公共の場における顔認識、ソーシャルスコアリング、サブリミナル技術といった、AIの付帯的分野を全面的に禁止しようとする規制の現出さえあり得る。

日本の視点
あらゆる産業でAIの影響力が加速度的に高まる一方、人権や基本的自由、プライバシーといった領域での社会的なリスクの増大が懸念され、国際的なAI規制の動きが高まっている。日本企業が社会課題の解決やグローバル競争の中での事業優位性を構築するには、AIを競争力のある形で適切に活用することが肝要であり、経営にはAI倫理規定やガバナンス体制の構築が求められる。また、組織体制においては関与するメンバーの多様性が大事になる。AI 開発では「ヒューマンインループ」と呼ばれる、必ずヒトの眼を入れるという考え方が浸透しつつあり、多様性のある組織デザインによって想定外の問題を予期し、組織固有のバイアスに抗うことでAIのリスクを低くすることにもつながる。

 


 

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