関西大学が、空気中の湿気を集め、液体状態の水に変化させる、省エネルギー材料''スマートゲル''を開発!◆従来の原理とは全く異なる除湿システムで快適空間を創出!◆~関西大学化学生命工学部・宮田隆志研究室とシャープ株式会社による共同研究~

関西大学

関西大学化学生命工学部の宮田隆志教授の研究グループとシャープ株式会社 健康・環境システム事業本部(共同研究者:崎川伸基技師)は、大気中に気体状態で存在する水(湿気)を吸収(吸湿)し、わずかに温度を上昇させるだけで液体状態の水に変化させることができるスマートゲル(温度応答性ゲル)の開発に成功しました。これは従来の除湿システムとは全く異なる原理に基づく技術で、人々の快適な生活につながる省エネルギーな材料システムとして様々な応用展開が注目されます。 【本件のポイント】 ・吸湿して、わずかな温度変化によって液体状態の水に変化させる''スマートゲル''の開発に成功 ・従来の除湿機よりも省エネルギーな材料システムとして、様々な応用展開が可能 ・関西大学化学生命工学部・宮田隆志研究室とシャープ株式会社による共同研究 高分子ゲルは、食品や紙おむつ、コンタクトレンズなど身の回りに利用されているだけではなく、薬物放出や細胞培養などの医療分野における最先端材料として世界中で研究されています。さらに、温度やpHなどの環境変化に応答するスマートゲルは、次世代薬物放出やセンサー、再生医療への応用が期待されています。 紙おむつのような高吸水性樹脂としてのゲルの応用では、いずれも液体状態の水を吸収する材料として利用されてきました。しかし、今回開発したスマートゲルは、空気中に存在する気体状態の水を吸湿するだけではなく、少し加熱するだけで液体状態の水に変化させることができます。 このスマートゲルは、室温付近において湿度の比較的高い環境下でよく吸湿しますが、吸湿したゲルを50℃に加温するとゲル表面から液体状態の水が滲み出てきます。また、温度のサイクル変化により吸湿と滲み出しの繰り返し操作が可能です。ゼオライトなどの乾燥剤を用いる通常の除湿システムでは、吸湿後に乾燥剤を 高温で 加熱再生するプロセスと、その過程で蒸発した水を凝縮するプロセスが必要であり、これらに多量のエネルギーを消費します。しかし、このスマートゲルを利用すると、わずかな加温により空気中に気体状態で存在する水(湿気)を液体状態の水として直接的に回収できます。そのため、高温加熱による乾燥剤の再生や水蒸気の凝縮などのプロセスが不要となり、小型・省エネルギーシステムの開発につながると期待できます。 なお、本研究成果は、英国時間2018年6月13日(水)午前10時(日本時間午後6時)公開のNature Communications誌に掲載されました。 ■研究背景 高分子ゲルは、食品や紙おむつ、コンタクトレンズなど身の回りに利用されているだけではなく、薬物放出や細胞培養などの医療分野における最先端材料として世界中で研究されています。このようなゲルの中でも、温度やpHなどの外部環境変化に応答して体積を変化させる刺激応答性ゲル(スマートゲル)が注目されています。たとえば、pHや温度などに応答するスマートゲルは、次世代薬物放出やセンサー、再生医療への応用が期待されています。長年、関西大学の研究グループもこのようなスマートゲルについて研究を行い、これまでにも特定のタンパク質や腫瘍マーカーなどを検出して構造変化する生体分子応答性ゲルなどの先駆的な研究を発表してきました(Nature、399、766-769 (1999):Proc. Natl. Acad. Sci. USA、103、1190-1193 (2006)など)。しかし、通常、このようなスマートゲルは水中や湿潤状態で利用されており、乾燥状態でのスマートゲルの応用に関する研究はほとんど報告例がありませんでした。 一方、ゼオライトやシリカゲルなどの乾燥剤が用いられている除湿システムは広く普及して、人々の快適な生活に役立ってきました。これらのシステムでは、吸湿後に乾燥剤を高温で加熱して再生するプロセスと、さらに蒸発した水を凝縮して集めるプロセスがあり、これらのプロセスに多量のエネルギーを消費します【画像1】。 しかし、乾燥剤に吸着された水を再び蒸発させることなく、液体状態の水として直接的に取り出すことができれば、これらのプロセスに必要なエネルギーを大幅に削減することが可能になります。特に液体状態から気体状態への相変化、あるいはその逆の相変化に対しては熱(潜熱)の出入りが伴い、エネルギー消費が大きくなります。そのため、乾燥剤の加熱再生プロセスと蒸発した水の凝縮プロセスではエネルギー消費が大きく、省エネルギーシステムを構築するためには、乾燥剤に吸着した水分子を液体状態の水として直接回収することが不可欠となります。今回のスマートゲル(温度応答性ゲル)を利用すると、わずかな加温によって空気中に気体状態として存在する水(湿気)を液体状態の水として直接集めることができます。そのため、高温加熱による乾燥剤の再生や水蒸気の凝縮プロセスが不要となり、小型・省エネルギーシステムの開発につながると期待できます【画像2】。 ■研究成果 今回の温度応答性ゲルは、吸湿する成分として海藻に含まれる親水性のアルギン酸(Alg)と、水を滲み出させる温度応答性成分としてポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)とが相互に絡み合った相互侵入高分子網目(IPN)ゲルです【画像3】。ここで用いたPNIPAAmは32℃付近に下限臨界溶液温度(LCST)をもち、このLCST以下の温度では水に溶解しますが、LCST以上になると不溶になります。すなわち、LCST前後でPNIPAAm鎖は親水性から疎水性へと急激に変化するユニークな性質をもっています。その結果、PNIPAAm からなるゲルは、LCST以下の水中で膨潤し、LCST以上になると急激に収縮して体積相転移現象を示します。 通常のスマートゲルの場合には、多量の水を含んだハイドロゲルといわれる状態で利用されています。しかし、本研究では、凍結乾燥によって完全に乾燥させたPNIPAAm/Alg IPNゲルを吸湿実験に使用しました。室温付近で湿度の高い環境下にこのIPNゲルを静置すると、空気中から湿気を効率よく吸収(吸湿)しました【画像3】。この吸湿挙動は温度によって影響され、PNIPAAmのLCST付近で大きく変化することがわかりました。このようにして吸湿したゲルを50℃に加温すると、ゲル表面から液体状態の水が滲み出て、気体状態の水(湿気)を液体状態の水として直接回収できました【画像4】。また、温度変化によって吸湿と滲み出しの繰り返し操作が 可能で、空気中の湿気を液体の水として繰り返して回収することにも成功しました。 このようなPNIPAAm/Alg IPNゲルのユニークな性質は、PNIPAAm鎖とAlg鎖の親水性および疎水性との関係によって次のように説明できます。PNIPAAmのLCST以下の温度で吸湿実験を行うと、Alg鎖とPNIPAAm鎖が共に親水性であるため、多くの水分子をその分子鎖に吸着することができます。しかし、LCST以上の温度に加温すると、Alg鎖は親水性を維持しますが、PNIPAAm鎖が急激に疎水性となるために、分子鎖に吸着した水分子が液体状態の水として滲み出してきます。結果的に、温度に応答したIPNゲルの親水性・疎水性の変化により、空気中で吸湿させて、わずかな温度変化によって液体状態の水として回収することが可能になりました。さらに、IPNゲルの温度応答挙動は可逆であるため、温度のサイクル的な繰り返し変化によって湿気を液体状態の水として連続的に回収することにも成功しました。 ゼオライトなどの乾燥剤を用いる一般的な除湿システムでは、吸湿後に乾燥剤を高温で加熱することにより 再生する必要があり、さらに蒸発した水を凝縮させて液体状態の水として集めるために多量のエネルギーを消費します。しかし、今回の温度応答性ゲルを利用すると、わずかな加温によって湿気を液体状態の水として集めることができ、高温加熱による乾燥剤の再生や水蒸気の凝縮などのプロセスが不要となります。そのため、従来とは異なる小型・省エネルギーシステムの開発につながると期待できます。 また学術的にも、温度応答性ゲルを利用することにより、わずかな温度変化で水を気体状態から液体状態へと相変化できることを示した初めての成果となります。通常の相変化では潜熱の出入りによってエネルギー効率が著しく低下しますが、このようなスマートゲルの相転移を利用した相変化の制御は高効率なエネルギー変換システムを構築するための新たな学術的知見を与えるものと考えられます。 ■実社会への応用(今後への期待) ゼオライトなどの乾燥剤を用いた従来の除湿システムでは、乾燥剤の加熱再生や蒸発した水の回収などに多量のエネルギーを消費しましたが、今回開発しました技術を利用することによって空気中の湿気を液体状態の水として直接回収できる新しいタイプのシステムの設計が可能になります。また、乾燥剤の再生や蒸発した水の回収などのプロセスを必要としないため、よりコンパクトでシンプルになります。さらに、このようなスマートゲルを利用した新しい相変化システムは、人々の快適な生活につながる省エネルギー技術として除湿関連だけではなく、様々な生活の環境調節に利用できると期待されます。 ■論文情報 論文名: Thermo-responsive gels that absorb moisture and ooze water    (吸湿して水を絞り出す温度応答性ゲル) 著者名: 松本和也1、崎川伸基2、宮田隆志1    (1 関西大学化学生命工学部、2 シャープ株式会社健康・環境システム事業本部) 雑誌名: Nature Communications DOI: 10.1038/s41467-018-04810-8 公表日: 日本時間2018 年6 月13 日(水)午後6 時(英国時間2018 年6 月13 日(水)午前10 時) (オンライン公開) <本件に関するお問い合わせ先>  化学生命工学部教授 宮田 隆志  TEL:06-6368-0949   E-mail:tmiyata(at)kansai-u.ac.jp ※(at)は@に置き換えてください。 <発信元>  関西大学 総合企画室 広報課(〒564-8680 大阪府吹田市山手町3-3-35)  担当:寺崎、浦田  TEL:06-6368-0201  FAX:06-6368-1266  http://www.kansai-u.ac.jp/index.html ▼本件の詳細▼ 関西大学プレスリリース http://www.kansai-u.ac.jp/global/guide/pressrelease/2018/No24.pdf 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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