300ドル未満の価格設定で全てのジェノタイプ(遺伝子型)に効く可能性のある併用療法として、候補治療薬ラビダスビル(ravidasvir)と既承認薬ソホスブビル(sofosbuvir)の併用試験をマレーシアとタイで開始
<2016年4月13日DNDiが発表したプレスリリースの参考和訳です。>
[国際肝臓学会‐The International Liver Congress 2016、スペイン・バルセロナ、2016年4月13日]DNDi (Drugs for Neglected Diseases initiative顧みられない病気のための新薬開発イニシアティブ)とエジプトの製薬企業ファルコ ファーマシューティカルズ社(Pharco Pharmaceuticals)は、300ドル未満の価格設定によるC型肝炎治療薬の臨床試験を実施し、治療法の選択肢を拡大することに合意しました。
DNDiの最高責任者であるベルナール・ぺクール(Bernard Pecoul)医師は「この臨床試験が成功すれば、本レジメン(ラビダスビルravidasvirとソホスブビルsofosbuvirの併用)はC型肝炎治療の公衆衛生的アプローチ(public health approach)の一つとなり、現在の高額な薬価や限られた治療の機会に取って代わるでしょう。世界でまん延しているC型肝炎の撲滅に取り組むには、この命を脅かす疾患の全ての“ジェノタイプ(遺伝子型)”を手頃な価格で治療できることが重要です」と述べました。
DNDiは必要な認可を得しだい、マレーシアとタイの全てのジェノタイプの患者集団を対象に、候補治療薬であるラビダスビルとC型肝炎の既承認薬であるソホスブビルの併用療法の臨床試験を開始します。ラビダスビルはNS5A阻害剤で、革命的なC型肝炎治療法といわれる次世代の直接作用型抗ウイルス剤(direct-acting antivirals-DAA)の一つです。ファルコ ファーマシューティカルズ社がエジプトで行った第III相臨床試験では、同じくDAAであるソホスブビルとの併用で、ジェノタイプ4の患者集団における治癒率がほぼ100%に到りました。
DNDiは、プレシディオ ファーマシューティカルズ社(Presidio Pharmaceuticals)から低・中所得国におけるラビダスビル使用の許諾権を得ています。
ファルコ ファーマシューティカルズ社は、ソホスブビルとラビダスビル併用の臨床試験の一連の治療において300ドルで両剤をDNDiに供給することに同意しました。本レジメンによる治療法の拡大のため、承認が得られれば、ファルコ ファーマシューティカルズ社は一連の治療につき294ドル以下で市販することに同意しました。
マレーシア保健相のスブラマニアム(YB Datuk Seri Dr. S. Subramaniam)医師は「新しいC型肝炎治療薬が高額なため、これまで政府として十分な治療を国民に施すことができませんでした。私たちは喜んでプロジェクトを支援すると同時に、試験データが早急な併用療法の導入に繋がり、必要とされる全ての患者さんに治療法の選択肢が拡大することを願ってやみません」と述べました。
DNDiによるマレーシアとタイにおける第II/III相試験は、両国政府の全面的な協力を得て行われます。ソホスブビルとラビダスビルの併用療法を現在の標準治療であるソホスブビルとダクラタスビルの併用療法と比較します。臨床試験にはおよそ1,000人が登録され、様々なレベルの肝線維症、様々なジェノタイプ、HIV同時感染/非同時感染の患者においてソホスブビルとラビダスビルの併用療法の有効性、安全性、薬物動態を評価します。
タイの疾病対策部のガジーナ(Dr. Amnuay Gajeena)部長は「慢性C型肝炎に感染している世界中の何百万人もの患者さんを救うであろう今回の合意には勇気づけられます。手頃な価格でDAAを使用できることは重要であり、この試験はC型肝炎感染に有効な治療法の拡大や、C型肝炎の予防や制御を促進します」と述べました。
マレーシアとタイは他の多くの中所得国と同様に、C型肝炎治療薬ソホスブビルとダクラタスビルのそれぞれの知的所有権の保持者であるギリアド社とブリストル・マイヤーズスクイブ社の自発的ライセンス許諾契約(voluntary licensing agreements)から除外されているので、ジェネリックの製薬会社と提携せざるを得ません。世界中で約1億5千万人が慢性C型肝炎に感染しており、感染者のおよそ75%が中所得国で暮らしています。
「臨床試験が成功裡に終了し併用療法の安全性と有効性が実証されたならば、中所得国の政府に対して救命に繋がるDAA治療を行うため、全ての選択肢を利用できる保健戦略の立案、すなわち価格交渉、自発的ライセンス許諾、あるいは、特許に対する異議申し立て、強制特許ライセンス許諾などTRIPS(Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)協定の活用を働きかけます」とペクール医師は付け加えました。
DAAの使用が可能になる前は、C型肝炎の治療には1年にもおよぶ頻回注射があり、しばしば重度の副作用が引き起こされました。治療の成功は当時40~80%程度に過ぎませんでした。DAAは、患者や医師にとり治療の選択肢を一変させた一方、患者が治療を受けるにあたり多くの障壁―特に価格問題が生じました。過去15年間にわたるHIV/AIDSに対する抗レトロウイルス剤療法の導入や利用拡大と同様に、C型肝炎治療に対する新しく革新的な公衆衛生的アプローチにおいては、手頃な価格によるDAAが求められています。
ファルコ ファーマシューティカルズのCEOであるドクター・シェリン・ヘルミー(Dr. Sherine Helmy)は「エジプトは世界でもっともC型肝炎のまん延している国です。しかし、年間100万人の患者さんの治療を目的としたエジプト大統領のプログラムのおかげで、経済的スケールメリットが功を奏し手頃な価格でDAAが入手可能となり、C型肝炎を一掃するという私たちの目標に近づいています。たった1錠に一日当たり1000ドルかかるのとは対照的に、DNDiと私たちの共同により、併用治療薬を一日当たり3ドル50セント以下に抑えることができれば、広く世界中のC型肝炎の患者さんに手頃な価格で、安全で、有効な治療を提供できます」と述べました。
お知らせ:
DNDiは、C型肝炎の研究開発戦略を概略した文書「C型肝炎患者に手頃な価格の治療法を届ける代替的研究開発戦略」を発表しました。(
http://www.dndi.org/wp-content/uploads/2016/04/AlternativeRDStrategyHepC.pdf )USとEUにおいてブロックバスターとしてのDAAの承認競争が、どのようにして法外な薬価に繋がり、特定の患者集団を顧みて来なかったかについて記載しています。現行の研究開発モデルでは、高所得国市場で多く見られるジェノタイプを優先しており、公衆衛生的に利用可能となる併用療法の開発に向けた共同よりも、価格高騰に繋がる競争を激化させてきました。
DNDiとプレシディオ ファーマシューティカルズ社間の、適用される国の一覧などを含む、非排他的ライセンス契約(non-exclusive license agreement)条項の詳細は上記の研究開発戦略文書に記載されています。
世界貿易機関(WTO)のTRIPS(Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)協定は、知的所有権保護について遵守しなければならない最低基準を示しています。TRIPSの“柔軟な対応”項目として、薬剤による治療の機会を阻む知的所有権の障壁を克服するために、強制特許ライセンス許諾、並行輸入などを含む政府が取れる法的措置に触れています。それらはTRIPS協定と公衆衛生の2001年11月宣言において再確認された内容です。
以上
【Drugs for Neglected Diseases initiative, DNDi :顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ】
1990年代後半、発展途上国の現場で医療活動に従事していた国境なき医師団のチームは、顧みられない病気に苦しむ患者を治療できないことに苛立ちを募らせていました。患者の治療に使用する医薬品の効果がなかったり、強い副作用があったり、あるいは製造中止になって使用ができないなどの問題があったためです。そこで、国境なき医師団は、1999年に受賞したノーベル平和賞の賞金の一部を、患者のニーズを重視して、顧みられない病気に対する治療薬の研究開発(R&D)に取り組むための革新的な組織の設立に充てることに決定し、スイス・ジュネーブに本部を置く非営利財団として2003年7月に正式に発足しました。DNDiはヨーロッパを中心とした多くの政府機関および私設財団から資金援助を受けて活動しています。2013年度からは日本政府も参画する公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)による資金援助も受けています。また、WHOの熱帯病医学特別研究訓練プログラム(WHO-TDR)が常任オブザーバーとして参加しています。www.dndi.org/
【DNDi Japan】
DNDi Japanは、2003年に日本の活動を開始し、2009年に特定非営利活動法人として東京都の認証を受けました。顧みられない熱帯病(NTDs)に苦しむ途上国の人々を援助するために日本の窓口として、DNDi本部のプロジェクトを支援し日本国内外の協力先と協働して、NTDsの治療薬開発、それに関連する能力開発、ならびに啓発活動など、発展途上国の人々の保健医療、福利厚生に貢献することを目的とした活動を行っています。www.dndijapan.org/
お問合せ:広報担当 松本眞理(mmatsumoto@dndi.org/ TEL03-4550-1195)