神奈川大学化学生命学部 横澤勉教授と国立台湾大学 Guey-Sheng Liou教授らの研究グループは、従来不溶化(ゲル化)により高分子量化が困難だった二官能と三官能モノマーの縮合重合(注1)に対し、横澤勉研究室で発見した分子内触媒移動型パラジウム触媒を利用し、100%分岐かつ高分子量の多分岐共役系高分子の合成に成功しました。
得られたポリマーフィルムは、蓄電に伴い淡い黄色から褐色へ可逆的に変色し、酸化状態で顕著な近赤外線(NIR)遮熱効果を示します。また、エレクトロクロミックスーパーキャパシタ(注2)として高いエネルギー密度・電力密度と優れた耐久性を有し、スマートウィンドウなどの実用化が期待されます。
本研究成果は、2026年9月16日に学術誌「Small」の22巻52号 e74727 ページに掲載されました。
研究成果のポイント
二官能と三官能モノマーの縮合重合における不溶物生成の問題を解消する触媒を見出し、100%分岐した高分子量の多分岐高分子(注3)を合成可能にした。
得られたフィルムは淡黄色だが、酸化すると褐色に変わり、顕著な近赤外線(太陽熱線)遮断効果を示す。
高いエネルギー密度・電力密度を持つキャパシタとして機能するとともに、充電状態を色で示すインディケーター性を備え、遮熱とプライバシー保護を兼ねたスマートウィンドウへの応用が期待される。
研究の背景
共同研究者の国立台湾大学Guey-Sheng Liou教授は、トリフェニルアミンの高い酸化安定性と優れた正孔(注4)輸送特性を活かし、これを導入した機能性ポリマーの研究を行ってきました。一方、横澤勉研究室は、パラジウム触媒が芳香環上を分子内移動することによる、これまでの重合挙動とは異なる縮合重合を開発しており、2024年11月に開催された第32回ポリイミド・芳香族系高分子会議(田沢湖)において、トリフェニルアミンとフルオレンの重合がこのパラジウム触媒を用いることで、これまで合成できなかった100%分岐で高分子量の多分岐高分子が合成できることを報告しました。その会議に出席していたLiou教授がこの多分岐高分子に興味を示したことから、共同研究を開始しました。本学博士後期課程の大学院生がこの高分子を合成、国立台湾大学の大学院生が電気化学特性を評価し、今回の論文発表に至りました。
研究の内容
我々が開発した、分子内触媒移動を経由する二官能性モノマーと三官能性モノマーの縮合重合によって、可逆的酸化還元反応が可能なトリフェニルアミンと光学特性の優れたフルオレンとの100%分岐の高分子量多分岐高分子を合成しました。この高分子は8000回の酸化還元サイクルにおいても初期の特性が99.7%維持される驚異的な電気化学的安定性を示しました。このポリマーフィルムは淡い黄色ですが、酸化すると褐色になり、顕著な近赤外線遮熱効果を示しました。蓄電ができるエレクトロクロミックスーパーキャパシタとしての性質は、高いエネルギー密度と電力密度を有し、10000サイクル後も80.6%の容量保持率を維持しました。したがって、このポリマーデバイスは、蓄電と遮熱の両機能を持つスマートウィンドウとしての応用が期待されます。
この図の著作権は Wiley にあります。
研究の展開
二官能と三官能モノマーの縮合重合における不溶物生成の問題を解消する触媒を見出し、100%分岐かつ高分子量の多分岐共役系高分子が合成できるようになったことから、これまで低分子量体しか生成できなかった二官能と三官能モノマーの縮合重合と、新たなモノマーの組み合わせによる縮合重合を検討し、機能性の高い多分岐共役系高分子を幅広く開発していきます。
掲載論文
本研究成果は、2026年9月16日、科学誌「Small」の22巻52号 e74727 ページに掲載されました。
論文タイトル:
Gelation-Free Synthesis of Hyperbranched Triphenylamine Polymer: Multifunctional Conjugated Electrochromic Polymers for Energy-Storing and Heat-Shielding Smart Windows
著者:
Ryusuke Shimada, Mayu Sato, Yoshihiro Ohta, Hsuan-Hsi Pai, William Sun, Yu-Jen Shao, Guey-Sheng Liou, and Tsutomu Yokozawa
謝辞
このプロジェクトは、日本学術振興会・科学研究費助成事業のグラント番号 25K01821 と、National Science and Technology Council, Taiwan のグラント番号 113-2221-E-002-061 により資金提供されています。
【用語解説】
(注1) 縮合重合
分子が縮合して結合が生成する重合方法。ナイロンやポリエステルは縮合重合で作られている。
(注2) エレクトロクロミックスーパーキャパシタ
スーパーキャパシタは、コンデンサの中でも非常に大容量で、かつ充放電を高速に繰り返すことができるもの。この機能と、電圧によって色が変化するエレクトロクロミックの機能を同時に持つ、次世代のエネルギー貯蔵・表示デバイス。
(注3) 多分岐高分子
通常の高分子は線状高分子であるのに対して、木の枝のように分岐構造を持つ高分子。
(注4) 正孔
電子が1個抜けて不足した「穴」の状態。あたかも正の電荷をもったように振る舞う。
▼本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】
神奈川大学化学生命学部 教授 横澤 勉(よこざわ つとむ)
TEL:045-481-5661
E-mail:yokozt01@kanagawa-u.ac.jp
【報道に関すること】
神奈川大学 企画政策部広報課
TEL:045-481-5661
E-mail:kohou-info@kanagawa-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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