診断が難しい悪性リンパ腫を「採血」で高感度に検出する新技術

学校法人藤田学園

―末梢血を用いた遺伝子解析技術をリンパ腫検出の新たな手段として臨床応用―

藤田医科大学岡崎医療センター(愛知県岡崎市)内科学 岡本晃直 准教授、藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部血液内科学 冨田章裕* 教授、国立病院機構名古屋医療センター(名古屋市中区)臨床研究センター 眞田昌 高度診断研究部長、同 安田貴彦 分子診断研究室長、および国内の血液内科診療を行う関連施設による多施設共同研究グループは、原因不明の発熱(不明熱)※1の患者さんにおいて、末梢血を用いた遺伝子解析検査(リキッドバイオプシー)(図1)が、診断の難しい悪性リンパ腫を、高感度かつ低侵襲に検出できる方法であることを明らかにしました。本研究の成果は、不明熱として確定診断がつかず、適切な治療を早期に受けることができなかった診断困難な悪性リンパ腫患者さんについて、早い段階における疾患検出を通してより迅速な治療介入を可能とする技術として、今後の臨床現場における実装が期待されます。
本研究成果は、米国血液学会よる科学雑誌「Blood Neoplasia」のオンライン版で2026年10月3日に公開されました。
公開URL:https://ashpublications.org/bloodneoplasia/article/doi/10.1016/j.bneo.2026.100321/571369/Prospective-Analyses-of-the-Utility-of-Liquid


<研究成果のポイント>
  • 悪性リンパ腫を疑う不明熱患者さんのうち57%が最終的に悪性リンパ腫と診断されました
  • 悪性リンパ腫を疑う不明熱患者さんのうち35%が最終的に血管内大細胞型B細胞リンパ腫※2(IVLBCL)と診断されました
  • 末梢血の血漿(けっしょう)から抽出した無細胞遊離DNA※3を用いる遺伝子解析(リキッドバイオプシー)は、IVLBCLの検出において、従来の皮膚生検※4や骨髄検査※5よりも高い感度を示しました(94.1% vs. 53%, 53%)。
  • 診断が困難な悪性リンパ腫を高感度かつ低侵襲に検出することで、より早期の治療開始が可能となり、予後の改善につながることが期待されます
  • 悪性リンパ腫診療における、リキッドバイオプシー技術の社会実装が望まれます
* 責任著者


<背 景>
悪性リンパ腫は、白血球の一つの種類であるリンパ球ががん化して増殖する疾患で、多数の病型が存在します。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、MALT リンパ腫など、頻度の高い病型では、全身のいずれかのリンパ節が腫れることで発症するため、CTなどの画像検査ののち、腫瘍部分の組織を採取すること(生検)で確定診断が可能です。しかし、血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)など一部の病型では、リンパ節腫脹を来さず、原因不明の発熱のみで発症する場合もあります。このような患者さんの場合、一般の医療現場では早い段階で悪性リンパ腫を疑うことが難しく、病状が進行してから、場合によっては患者さんの死亡後に、悪性リンパ腫と診断されることもあります。
IVLBCLは、主に全身の血管の中で腫瘍細胞が増殖し、病状が進行するまでリンパ節腫脹を来しません。本疾患を疑った場合は、血管内の腫瘍細胞を証明するために、皮膚や骨髄の生検を実施していますが、診断できる割合は7割程度と十分ではありません。また患者さんへの侵襲を伴うことも懸念材料とされてきました。これらを背景に、IVLBCLをはじめとする診断困難な悪性リンパ腫患者さんにおいて、より高感度、低侵襲に実施できるリンパ腫検出方法の開発が臨床現場で望まれてきました。
本研究では、不明熱を示す患者さんの末梢血を用いて遺伝子解析を行うことで、診断困難な悪性リンパ腫を高感度に検出することに成功しました。従来法に比べて患者さんへの負担が少なく、結果を得るまでにかかる時間もより短いことから、迅速なリンパ腫診断、さらにはより早期の治療開始の実現に貢献できる新たな方法として、今後の医療現場での利用が期待されます。


<研究手法>
1)悪性リンパ腫を疑う不明熱患者さんを対象とした前向き研究
血液内科医が悪性リンパ腫の存在を疑う不明熱患者さん50名を対象とした、多施設共同前向き観察研究を行いました。リンパ腫を疑う症状として、血清LD(乳酸脱水素酵素)高値、肝臓・脾臓の腫大、腫瘍マーカー(可溶性IL-2受容体)高値のいずれかを認め、不明熱の基準として、抗生剤に反応しない3週間以上持続する38度以上の発熱を認める症例を対象としました。これらの症例に対し、通常の血液検査、画像検査のほか、皮膚生検、骨髄検査、および無細胞遊離DNAの抽出を行いました。

2)検査方法
皮膚生検組織、骨髄組織の検体を用いて、従来の病理組織検査を行いました。また、血漿から抽出された無細胞遊離DNAを用いて、次世代シーケンス法※6による網羅的遺伝子変異解析(パネル解析)、デジタルPCR法※7を用いた特定の遺伝子変異の検出、B細胞受容体レパトア解析※8を行いました。


<研究成果>
1)悪性リンパ腫を疑う不明熱患者さんの最終診断

登録された不明熱患者さんの、最終的に得られた確定診断を図2に示します。悪性リンパ腫は全体の57%を占め、その内の半数(全体の35%)をIVLBCLが占めました。その他の原因疾患として、膠原病(14%)、感染症(4%)、他の悪性腫瘍(4%)、骨髄異形成症候群(2%)があり、全体の19%では、最終の確定診断が得られませんでした。IVLBCLは、日本における悪性リンパ腫のうち約1%を占める病型であるため、悪性リンパ腫を疑う不明熱患者さんの中に、高い頻度でIVLBCLの患者さんが内在していることが確認されました。

2)従来法によるIVLBCLの検出、診断
IVLBCLを検出、診断する従来の方法として、骨髄検査(骨髄穿刺、骨髄生検)とランダム皮膚生検があります。最終的にIVLBCLと診断された患者さん(17例)において、骨髄検査、ランダム皮膚生検によってIVLBCLを検出できた割合(感度)は、いずれも53%でした。(図3、図4)
 
3)デジタルPCR法を用いた変異遺伝子の検出
IVLBCLの約8割の症例において、特定の2遺伝子(MYD88, CD79B)いずれかの遺伝子変異を持つことが、これまでの報告で明らかとなっています**。本研究では、患者さんの末梢血の血漿から得られた無細胞遊離DNAを用い、これら2遺伝子の変異をデジタルPCR法で検出しました。IVLBCLと診断された患者さんのうちで、変異を検出できた割合(感度)は、94%(17例中16例)でした。(図3、図4)

4)次世代シーケンス法(パネル解析)を用いた変異遺伝子の検出
血漿から得られた無細胞遊離DNAを用いて、次世代シーケンス法による網羅的な遺伝子変異解析(パネル解析)を行いました。IVLBCLと診断された症例のうち、全ての症例で、MYD88, CD79B他、特徴的な遺伝子異常を検出することができました(図3、図4)。また、検出された変異遺伝子の数を、リンパ腫およびリンパ腫以外と診断された症例の間で比較すると、特にIVLBCL患者さんにおいてより多くの遺伝子変異が検出され、膠原病や診断がつかなかった不明熱症例では、有意な遺伝子異常は検出されませんでした。

5)無細胞遊離DNAと骨髄細胞由来DNAを用いた遺伝子解析の比較
IVLBCL患者さんの腫瘍細胞はしばしば骨髄細胞中にも検出されるため、血漿無細胞遊離DNAと骨髄細胞由来DNAの双方を用いて、IVLBCLに特徴的な遺伝子変異が検出されるかどうかを検討しました(図5)。結果、無細胞遊離DNAを用いた方が、骨髄細胞由来DNAに比べてより高感度に変異遺伝子を検出できることを確認しました。

 

<本研究のポイントと今後の展開>
本研究の結果、悪性リンパ腫を疑う不明熱症例の背景に存在する、IVLBCLを含む診断困難な悪性リンパ腫の検出に、無細胞遊離DNAを用いた遺伝子変異解析が有用であることが明らかとなりました。末梢血の採取は、臨床現場においても日常的に実施される、安全で患者さんへの負担も少ない検体採取方法であるため、本検査法の臨床現場への導入も容易であると考えられます。また、本研究で用いたデジタルPCR法は、網羅的遺伝子変異解析に比べて安価であり、結果を得るまでの時間も数日と、網羅的解析に比べて簡便であることも特徴です。これまで、悪性リンパ腫の診断には病理組織診断が必須とされており、遺伝子解析の結果のみで疾患の確定診断には至りませんが、臨床症状や従来法の検査値等と併わせて、本技術が診断困難な悪性リンパ腫のより早い診断確定を可能とする診断補助検査法として貢献できることが期待されます。現在の臨床現場には、主治医による従来法を用いた懸命な全身検索によっても診断に至らず、適切な治療に辿り着くことができない不明熱症例が確実に存在するという現状を踏まえ、本検査方法の臨床現場への導入が望まれます。

** Shimada K, Yoshida K, Suzuki Y, Ogawa S¶, Tomita A¶, Kiyoi H, et al. Blood. 2021 Mar 18;137(11):1491-1502. doi: 10.1182/blood.2020007245. ¶責任著者


<用語解説>
※1 不明熱
種々の検査によっても原因が確定できない、38度以上の発熱が3週間以上継続する状態を指す。背景に存在する疾患には、悪性リンパ腫ほか、膠原病、自己免疫性疾患、感染性疾患などがある。

※2 血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)
腫瘍細胞が主に血管の中で増殖する、悪性リンパ腫の一病型。リンパ節腫脹を来さず、発熱のみが唯一の症状であることも多い。確定診断には皮膚生検、骨髄穿刺、骨髄生検などを実施するが、血液内科専門医でもしばしば診断が困難である。

※3 無細胞遊離DNA
ヒトの末梢血の液体部分(血漿)に流れる、断片化した遺伝子(DNA: デオキシリボ核酸)。この遺伝子断片は、体内の正常組織ほか、悪性リンパ腫などの腫瘍細胞からも流出する。腫瘍細胞から流れ出る変異遺伝子を検出する方法を、「リキッドバイオプシー」と呼ぶ。

※4 皮膚生検
IVLBCLは、主に血管の中に腫瘍細胞が存在し、通常腫大したリンパ節病変を認めない。そのため、腹部や大腿部などの皮膚を一部採取し、顕微鏡による病理組織検査によって、皮下組織などの血管内に存在する腫瘍細胞を確認する。通常身体の異なる3カ所の皮膚を採取するが、この方法を「ランダム皮膚生検」と呼ぶ。

※5 骨髄検査
IVLBCL他、悪性リンパ腫の細胞は、病状の進行にともなって骨の中にしばしば浸潤(骨髄浸潤)する。そのため、骨髄内の腫瘍細胞を検出するため、骨髄内の血液のみを採取する「骨髄穿刺」を実施したり、場合によっては骨髄組織をそのまま採取する「骨髄生検」を実施する。

※6 次世代シーケンス法(パネル解析)
次世代シーケンサーという機械を用いて、数万存在するヒトの遺伝子配列を網羅的に解読する方法。全ゲノム解析、全エクソン解析、パネル解析などがある。パネル解析では、特定の興味のある数百の遺伝子の必要な部分に絞って、遺伝子配列を解読する方法である。がん遺伝子パネル検査に応用されているが、コストが高く、解析にも時間がかかるため、限られた数個数の遺伝子に着目した解析での実施は限られている。

※7 デジタルPCR法
数万の水滴一つ一つの中で、特定遺伝子部位に対するPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応)を行い、変異を検出する方法。遺伝子配列の解析は特定の一部分に限られるが、少量のDNAで超高感度に解析を行うことができる。安価であり、検体採取から測定までに数日以内で完了できることが特徴である。

※8 B細胞受容体レパトア解析
B細胞リンパ腫は、一つのB細胞が腫瘍性に増殖した疾患である。B細胞は、B細胞受容体遺伝子の配列が個々の細胞で異なっており、この配列を確認すること(レパトア解析)で、B細胞由来の腫瘍が存在するかどうかを推測することができる。


<文献情報>
■論文タイトル
Prospective Analyses of the Utility of Liquid Biopsy in Patients with Fever of Unknown Origin Suspected of Lymphoma
悪性リンパ腫を疑う不明熱患者におけるリキッドバイオプシーの有用性を検討する前向き研究
 
■著者
岡本晃直1,2, 真田昌3, 安田貴彦3, 加藤省一4, 佐藤啓5, 石原琢磨6, 末永孝生7, 細井裕樹8, 吉田全宏9, 村上五月10, 近藤英生11, 正木康史12, 鈴木康裕13, 宮崎香奈14, 梶口智弘15, 平賀潤二16, 倉橋信悟17, 稲垣裕一郎18, 尾関和貴19, 齊藤繁紀20, 寺尾俊紀7, 伊庭佐知子1, 服部恵子1, 山本秀行1,21, 後藤尚絵1, 入山智沙子1, 岡本昌隆1,2, 冨田章裕1*
*責任著者
  1. 藤田医科大学医学部 血液内科学
  2. 藤田医科大学 岡崎医療センター 内科 
  3. 国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター
  4. 佐賀大学医学部 病因病態科学講座 診断病理学分野
  5. 名古屋大学医学部附属病院 病理部
  6. 岐阜大学医学部附属病院, 先端医療・臨床研究推進センター
  7. 亀田総合病院 血液・腫瘍内科
  8. 和歌山県立医科大学 血液内科学講座
  9. 大阪市立総合医療センター 血液内科
  10. 愛知医科大学病院 血液内科
  11. 川崎医科大学 血液内科学
  12. 金沢医科大学 血液免疫内科学
  13. 国立病院機構名古屋医療センター 血液内科
  14. 三重大学医学部附属病院 血液内科
  15. 公立陶生病院 血液・腫瘍内科
  16. 豊田厚生病院 血液内科
  17. 豊橋市民病院 血液・腫瘍内科
  18. 安城更生病院 血液・腫瘍内科
  19. 江南厚生病院 血液・腫瘍内科
  20. 日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院 血液・腫瘍内科
  21. トヨタ記念病院 血液内科

■DOI:
10.1016/j.bneo.2026.100321


 





 

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