【名城大学】救急患者の「緊急内視鏡の必要性」をAIが早期に見極め 〜当直医の負担軽減と地域医療体制の維持に期待〜

名城大学

上部消化管出血は、緊急内視鏡による止血処置を必要とする緊急疾患であり、迅速で的確な治療判断が患者の予後を大きく左右します。近年の働き方改革の推進もあり、夜間・休日に対応できる専門医の不足が全国的な課題となっており、「どの患者に緊急内視鏡検査、内視鏡的止血処置が必要か」を客観的に見極める仕組みが求められています。 名城大学 理工学部メカトロニクス工学科の大原賢一教授(ロボティクス、医療画像処理)を中心とする研究グループは、名古屋大学 医学部附属病院、名古屋第一赤十字病院、江南厚生病院の消化器内視鏡専門医との共同研究で、血液検査や血圧などの一般的な診療データから緊急内視鏡による止血処置の要否をAI(機械学習)で予測する意思決定支援システムを開発しました。約2,000人分の多施設診療データで検証した結果、従来広く用いられている各種リスクスコアを上回る予測精度を示しました。 本システムは、緊急の止血処置が必要な患者を早期に見分けて治療の優先順位づけを支援するもので、夜間・休日の当直医の負担軽減や、医師が限られた地域での救急医療体制の維持につながることが期待されます。  本研究成果は、2026年8月13日に英国のSpringer Nature社(BMC)が出版する国際学術誌「BMC Medical Informatics and Decision Making」に掲載されました。 【ポイント】 ・非静脈瘤性上部消化管出血注1)の患者について、血液検査や血圧などの一般的な診療データから「緊急内視鏡による止血処置が必要かどうか」を予測するAI(機械学習)モデルを開発した。 ・約2,000人分の多施設データで検証し、予測性能の指標であるAUROC注2)は0.822と、国内外で広く使われている従来の各種リスクスコアを統計的に有意に上回った。 ・「見逃しの少なさ(感度)」と「精度」のバランスを医療機関の方針に応じて自由に調整できる新しい手法を組み込み、地域や施設の実情に合わせて使える実用的な設計とした。 【詳細な説明】 1.背景 胃や十二指腸などからの上部消化管出血は、緊急の内視鏡による止血処置を必要とすることが多い救急疾患です。特に、食道・胃静脈瘤以外を原因とする非静脈瘤性上部消化管出血(NVUGIB)は高齢者を中心に増加傾向にあり、国内外のガイドラインでも、全身状態が安定した後の早期(24時間以内)の内視鏡検査が推奨されています。 これまで、どの患者に緊急治療が必要かを見極めるため、グラスゴー・ブラッチフォードスコア(GBS)やNスコアなどのリスク評価法が用いられてきました。しかし、これらは主に「再出血」や「死亡」といった総合的な転帰を予測するために作られたものであり、判断が医師の経験に左右されやすいことや、多様な患者背景に十分対応しきれないことが課題でした。 2.研究内容及び本成果の意義 研究グループは、名古屋大学医学部附属病院、名古屋第一赤十字病院、江南厚生病院の3施設で2016年から2020年に診療を受けたNVUGIB患者1,989人分の診療データを用い、緊急内視鏡による止血処置の要否を予測するモデルを構築しました。予測手法には、医療分野で高い性能が報告されている機械学習「XGBoost注3)」を採用し、年齢・血圧・脈拍などのバイタルサインや、ヘモグロビン、アルブミン、BUN(尿素窒素)、クレアチニンといった一般的な血液検査値、既往歴・服薬歴など約30項目を入力としました。 2016〜2019年のデータで学習し、2020年のデータ(358人)で検証したところ、予測性能の指標であるAUROCは0.822(95%信頼区間 0.777〜0.863)に達し、従来のNスコア(0.776)、弘前スコア(0.728)、HARBINGER(0.658)、GBS(0.576)を統計的に有意に上回りました。 図1:AIモデルの構築から評価までの流れ (出典:Yosuke Kuroda et al., BMC Medical Informatics and Decision Making (2026). DOI: 10.1186/s12911-026-03753-1) さらに、どの項目が予測に強く寄与したかを評価するSHAP(SHapley Additive exPlanations)注4)という方法で解析した結果、BUN/クレアチニン比やNスコア、リンパ球数、年齢、アルブミンなどが特に重要であることが分かりました。このことは、血液検査などのなじみのある指標が、AIによる予測を支えていることを示しています。 図2:予測への寄与度が大きかった項目のランキング (出典:Yosuke Kuroda et al., BMC Medical Informatics and Decision Making (2026). DOI: 10.1186/s12911-026-03753-1) 加えて、本研究のもう一つの特長は、「見逃しをできるだけ減らしたい」といった医療現場の要望に応じて判定基準(しきい値)を柔軟に調整できる仕組みを組み込んだことです。実際、見逃しの少なさを重視した設定では、緊急内視鏡が必要な患者の約90%(感度89.5%)を検出できました。 3.今後の展開 本システムは、緊急内視鏡の総数を減らすことを目的とするものではなく、緊急の止血処置が必要な患者を早期に見分けて治療の優先順位づけを支援することを狙いとしています。これにより、夜間・休日の当直医の負担軽減や、医師が限られた地域での救急医療体制の維持への貢献が期待されます。 一方で、今回のデータは国内3施設に限られること、緊急内視鏡を受けた患者を対象としていることなどの制約があります。今後はより多くの地域・施設を対象とした大規模な検証や、実際の診療現場での前向き研究を進め、実用化を目指します。 【用語解説】 注1)非静脈瘤性上部消化管出血(NVUGIB):  食道・胃静脈瘤以外の原因(胃・十二指腸潰瘍など)によって起こる、食道・胃・十二指腸からの出血。 注2)AUROC:  予測モデルの性能を表す指標で、1に近いほど「治療が必要な人」と「必要でない人」を正しく見分けられることを示す。0.5は当てずっぽうと同程度。 注3)XGBoost(エックスジーブースト):  多数の決定木を組み合わせて予測する機械学習手法。表形式のデータで高い精度が得られることで知られる。 注4)SHAP(SHapley Additive exPlanations)(シャープ):  AIの予測に対して、各項目がどの程度・どの向きに影響したかを定量的に評価し、判断の根拠を「見える化」する解析手法。 【掲載論文】 雑誌名:BMC Medical Informatics and Decision Making タイトル:Decision-support system for emergency endoscopic surgery in nonvariceal upper gastrointestinal bleeding (非静脈瘤性上部消化管出血に対する緊急内視鏡治療の要否を予測する意思決定支援システム) 著者名:Yosuke Kuroda, Nobuhito Ito, Toshihisa Fujiyoshi, Yusuke Satta, Yoji Sasaki, Takeshi Yamamura, Kazuhiro Furukawa, Masanao Nakamura, Hiroki Kawashima and Kenichi Ohara 掲載日時: 2026年8月13日 DOI : 10.1186/s12911-026-03753-1 【著者のコメント】 大原 賢一(名城大学 理工学部メカトロニクス工学科 教授) 工学とAIの技術で医療の現場を支えたいという思いから、内視鏡の専門医の先生方と研究を進めてきました。特に苦労したのは、施設ごとに形式の異なる診療データを丁寧に整え、現場で本当に役立つ形に落とし込むことでした。医師の経験に頼りがちだった判断を、客観的な指標で後押しできる可能性を示せたことを大変うれしく思います。 【研究助成金】 本研究は、特定の外部研究助成金(競争的資金等)を受けずに実施されました。 【研究体制】 名城大学 理工学部 メカトロニクス工学科 名古屋大学 医学部附属病院 消化器内科・内視鏡部 名古屋第一赤十字病院(日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院) 江南厚生病院 愛知県がんセンター 内視鏡部 【本件に関するお問い合わせ先】 ・研究内容に関すること  名城大学 理工学部メカトロニクス工学科 教授  大原 賢一(おおはら けんいち)   Tel : 052-838-2335   Email : kohara@meijo-u.ac.jp ・広報担当  名城大学渉外部広報課   Tel : 052-838-2006   Email : koho@ccml.meijo-u.ac.jp ▼本件に関する問い合わせ先 名城大学渉外部広報課 住所:愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501 TEL:052-838-2006 FAX:052-833-9494 メール:koho@ccml.meijo-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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