ナガエツルノゲイトウはなぜ水辺を制圧するのか―高い光合成能力と茎の伸長が生む侵略性―
■研究の背景
ナガエツルノゲイトウは南米原産の多年生植物で、非常に旺盛な成長力をもち、茎を急速に伸長させて水面を覆う密な群落を形成します。また、茎の断片からも容易に再生することから、高い拡散能力をもつ侵略的外来生物として知られています。日本では1989年に初めて報告され、その後分布域を拡大しており、特定外来生物に指定されています。河川や湖沼、農業水路などにも侵入するため、その拡大を抑制することが重要な課題です。しかし、この旺盛な成長を支える生理学的な仕組みや、水域への侵入・拡大を可能にする生存戦略については、十分に明らかになっていませんでした。
■研究成果のポイント
● 高い成長速度の要因は「光合成能力」
ナガエツルノゲイトウの相対成長速度は対照種より高く、その違いは純同化率の高さにあることが明らかになりました。実際にC3植物でありながら非常に高い光合成速度を示しました。
● 茎の乾物増加量が顕著
光合成によって獲得したバイオマスを、葉ではなく茎の成長に多く配分していることが明らかになりました。これにより、急速な茎の伸長が実現します。
● 水中では積極的に光合成しない
長期間の水没によって光合成能力とクロロフィル量が低下し、新しい水中葉を形成しませんでした。また、水中の無機炭素(CO2・HCO₃⁻)を積極的に利用する能力も認められませんでした。
● 水中に順化するのではなく、水面へ「脱出」する
高い炭素同化能力と茎の急速な伸長を組み合わせ、水面上に葉を展開して空気中での光合成を維持する戦略が、水辺での侵入・拡大を支えていると考えられます。
本研究で、ナガエツルノゲイトウの旺盛な成長を支えているのは、葉面積を大きくすることではなく、葉の高い炭素同化能力による効率的な炭素獲得であることが明らかになりました。また、葉への乾物分配割合が低い一方で茎の乾物増加が大きく、獲得した炭素を茎の成長に振り向けることが、急速な茎の伸長につながっていると考えられました。
一方、水中に長期間沈めると葉の光合成能力が低下し、新しい水中葉も形成されませんでした。さらに、一部の水生植物が水中の炭素源として利用する重炭酸イオン(HCO₃⁻)を積極的に利用する能力も認められませんでした。これらの結果から、本種は水中環境そのものに順化して光合成を続けるのではなく、茎を急速に伸ばして水面に到達し、葉を水上に展開する「脱出戦略(escape strategy)」をとることが、水域での侵略性を支える重要な要因であると考えられます。
■研究内容
本研究では、ナガエツルノゲイトウと近縁2系統(A. reineckiiおよびA. reineckii ‘Ocipus’)を用いて、①成長解析、②ガス交換・クロロフィル蛍光・P700吸収同時解析による光合成解析、③水中条件での光合成測定を行いました。その結果、ナガエツルノゲイトウの高い相対成長速度は主に高い純同化率に支えられており、高い炭酸固定能力と高い光飽和点が示されました。一方、水没が長期化すると葉の光合成機能は低下し、水中環境に適した新しい葉を形成しませんでした。これらを総合すると、本種は水中での光合成に依存するよりも、高い炭素同化能力を背景に茎を伸ばして水面へ到達する戦略をとることが示唆されます。また、茎を急速に伸長させる性質は、周囲の植物より高い位置に葉を展開して光を獲得する上でも有利に働くと考えられ、本種の高い競争力を支える要因の一つである可能性があります。
■研究成果の意義
本研究は、ナガエツルノゲイトウの侵略性を支える仕組みとして、「高い炭素同化能力→茎の急速な成長→水上での光合成」という一連の生理・形態戦略を明らかにしました。また、茎の急速な伸長は、水没時に水面に到達するためだけではなく、周囲の植物より高い位置に葉を展開することで、光をめぐる競争においても有利に働くと考えられます。本成果は、本種が水域で急速に群落を拡大する仕組みの理解を深めるとともに、今後、その生理的特性や弱点を利用した効率的な管理・防除方法を検討するための基礎的知見になると期待されます。
■特定外来生物の取り扱いについて
本研究で用いたナガエツルノゲイトウは特定外来生物に指定されており、栽培、保管、運搬などが原則として禁止されています。本研究では、環境省関東地方環境事務所の許可を受け、関係法令に基づき適切に管理した上で研究を実施しました。
■研究資金
本研究は、公益財団法人河川財団 河川基金(Grant No. 2025-5211-017、研究代表者:廣津直樹)、公益財団法人市村清新技術財団 第34回植物研究助成(Grant No. 34-14、研究代表者:梅原三貴久)、および東洋大学重点研究推進プログラム(Grant No. 2025T1、梅原三貴久・廣津直樹)の支援を受けて実施しました。また、本研究の一部は東洋大学朝霞研究機器共同利用センターの支援を受けました。
井上陸仁さん(筆頭著者)のコメント:
「特定外来生物であるナガエツルノゲイトウは、取り扱いにも注意が必要で、実験では苦労することもありました。その一方で、非常に高い光合成能力をもっていることに驚き、なぜこれほど旺盛に成長できるのか、その強さの理由を知りたいと思うようになりました。研究を通して、この植物の生存戦略が少しずつ見えてきたこと、そしてその成果を論文として世に出せたことを嬉しく思います。今後もナガエツルノゲイトウの特性を明らかにし、将来的には効果的な防除につながる研究にしていきたいです。」
■論文情報
掲載誌:Aquatic Botany
論文タイトル:Aerial escape over aquatic acclimation: photosynthetic strategy and biomass allocation underlying the invasiveness of Alternanthera philoxeroides
著者:井上陸仁a, 堀口元気b, 梅原三貴久a, 廣津直樹a*
a. 東洋大学 大学院生命科学研究科
b. 東京農工大学 農学府
* 責任著者
DOI:10.1016/j.aquabot.2026.104067(https://doi.org/10.1016/j.aquabot.2026.104067)
【東洋大学について】
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■ 本研究に関するお問い合わせ
東洋大学 生命科学部 生物資源学科
教授 廣津 直樹(ひろつ なおき)
E-mail: hirotsu@toyo.jp
