“永遠の化学物質”PFASはどこまで分解できるのか-約25年の研究動向を整理し、残された課題を示す-

神奈川大学

神奈川大学理学部 堀 久男 教授らの研究グループは、環境問題として注目されるPFAS(有機フッ素化合物の一種)の分解・無害化方法に関する約25年の研究動向を総括し、未解決課題と今後の研究の方向性を整理した総説論文を発表しました。 PFASの分解技術に関しては、これまで世界で数千件もの研究論文が報告されています。本論文では、それらの研究成果を俯瞰し、有望な技術や実用化の現状、今後解決すべき課題を体系的に整理しました。 さらに近年は、PFASを分解するだけでなく、分解後に得られるフッ素を資源として再利用する研究も進 展しています。本論文では、環境保全と資源循環を両立する新たな研究潮流についても紹介しています。 本研究成果は、2026年8月24日に化学専門誌「Chemical Communications」の電子版にFeature articleとして掲載されました。 【研究成果のポイント】 PFAS分解・無害化技術に関する約25年間の研究成果を体系的に整理 数千件の研究報告を分析し、有望な分解技術と実用化状況、未解決課題を明確化 PFASを分解して環境負荷を低減するだけでなく、「資源として再利用する」研究の展望を示し、循環型社会や資源安全保障への貢献可能性を提示 【研究の背景】 PFAS(Per- and Polyfluoroalkyl Substances)は、水や油をはじく特性や優れた耐熱性・耐薬品性を持つことから、半導体、電子機器、自動車、化学工業など幅広い産業で利用されています。 一方で、その高い安定性ゆえに自然環境中で分解されにくく、環境中への蓄積が懸念されています。近年では、PFASを安全に分解するための研究が世界中で活発に進められています。 また、PFASの原料となる蛍石は産出地域が限られており、日本や欧米では重要資源として位置付けられています。そのため、PFASを処理するだけでなく、資源として循環利用する技術の開発も重要な課題となっています。 【研究の内容】 本論文では、2000年代前半から現在までに報告されたPFAS分解技術を俯瞰し、それぞれの特徴や実用化状況について整理しました。 1.Legacy PFAS(注1)の分解方法 PFOAやPFOSなどのレガシーPFASについては、著者らが2004年にPFOAの光化学分解に関する研究成果を報告して以来、世界中でPFOAだけでも1,000件を超える研究論文が発表されています。2000年代半ばには光化学分解と超音波酸化しか報告がなかった分解方法が、これらの物質の製造や使用、廃棄に関する規制が進行するにつれてさまざまな方法が試みられました。 報告例は沢山あるものの、水中の分解で効果的な方法はペルオキソ二硫酸(過硫酸)酸化、超音波酸化、光化学分解、電気化学酸化、水和電子還元、プラズマ照射、ゼロ価鉄還元、電子線照射、超臨界水・亜臨界水酸化、アルカリ水熱反応に集約されます。これらの一部は既に欧米でスタートアップ企業により実用化が進んでいる一方、微生物分解については研究の初期段階にあります。 2.フッ素ポリマーの分解方法 近年、研究対象はPFOSやPFOAだけでなく、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性等に優れ、カーボンニュートラルの社会を実現するために必要不可欠な材料であるフッ素ポリマーへと拡大しています。 化学プラント用の配管やパッキン、燃料ホース、リチウムイオン電池のバインダー等に使用されているポ リフッ化ビニリデン(PVDF)および関連したポリマーについては、亜臨界水反応や水酸化ナトリウム溶融反 応、アルカリ試薬を添加したメカノケミカル反応等でフッ化物イオンまで完全に分解できることが報告されています。 さらに、分解後に得られたフッ化物イオンに水酸化カルシウムを反応させて原料であるフッ化カルシウム (人工蛍石)を合成する技術や、別の試薬を反応させて炭素・フッ素結合や硫黄・フッ素結合を形成することで試薬や医薬品、農薬等の有用な化合物へ変換するアップサイクリング反応も整理しました。 【研究の展開】 レガシーPFASの分解研究においては、PFOAやPFOSよりさらに分子量の小さい短鎖化合物の処理が大きな課題として残されています。 例えば、水中のトリフルオロ酢酸(TFA、CF3COOH)は多くの分解技術では処理が難しく、効果的な無機化が可能な手法は光化学反応と亜臨界水(水熱)反応に限られています。 一方で、産業上重要なフッ素ポリマーは、亜臨界水反応やメカノケミカル反応で効果的に無機化できることが判明しています。分解後、原料のフッ化カルシウムに変換してリサイクルする技術だけでなく、有用な化合物へ変換するアップサイクル技術の開発が進められていますが、対象物質によっては高温条件や金属ナトリウムのような危険な試薬を使う必要があることが難点です。より穏和な条件で駆動する反応技術の開発が期待されます。 【掲載論文】 本研究成果は、2026年8月24日に化学専門誌「Chemical Communications」(注2)の電子版にFeature article として掲載されました。 論文タイトル:Progress in the Decomposition of PFAS: from Small Molecules to Fluoropolymers 著者:Hisao Hori, Hisashi Saito 掲載誌:Chemical Communications 掲載URL: https://doi.org/10.1039/d6cc01615d 【謝辞】 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST「フッ素樹脂社会を実現するフッ素材料の精密分解」(JPMJCR21L1)の支援を受けて実施したものです。 ■用語解説 (注1)Legacy PFAS(レガシーPFAS) PFOA (ペルフルオロオクタン酸、C7F15COOH)のようなペルフルオロカルボン酸(一般式CnF2n+1COOH、 n:正の整数)や、PFOS (ペルフルオロオクタンスルホン酸、C8F17SO3H)のようなペルフルオロアルカンスルホン酸(CnF2n+1SO3H)、およびそれらの誘導体を指す。 (注2)Chemical Communications 英国王立化学会(RSC)が発行する化学の最前線のトピックを扱う査読付き専門誌。最新(2025年)のインパクトファクターは4.3。この中で本論文が出ているFeature articleは編集部の依頼により、該当分野における著者自身の寄与を示しつつ、他の研究者の成果も交えて執筆する総説。 関連リンク 神大の先生:堀 久男 教授 ▼本件に関する問い合わせ先 【研究に関すること】 神奈川大学理学部 教授 堀 久男(ほり ひさお) TEL:045-481-5661 E-mail:h-hori@kanagawa-u.ac.jp 【報道に関すること】 神奈川大学 企画政策部広報課 TEL:045-481-5661 E-mail:kohou-info@kanagawa-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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