植物の『声なき声』を聴く―AEで水ストレスと生育を可視化―

神奈川大学

神奈川大学工学部 長谷 亜蘭 教授は、西松建設株式会社 技術研究所 環境技術グループ 荻原豪太 氏との共同研究において、植物内部で発生する微弱な弾性波(アコースティックエミッション:AE(注1))を計測し、植物の水ストレスや生育状態を非破壊・リアルタイムに捉える技術の可能性を示しました。 植物の状態把握には、画像による萎れの検出や温度・湿度などの環境センサが利用されています。しか し、これらの方法では、植物内部で進行する水分状態の変化やストレスを、外観変化が現れる前に捉える ことは容易ではありません。 そこで本研究では、植物内部の微小な変化に伴って発生するAE(アコースティックエミッション)に着目 しました。植物の状態を外から「見る」のではなく、植物自身が発する微弱な弾性波を「聴く」ことで、植物内部の状態変化を非破壊・リアルタイムに捉える新しいセンシング技術の構築を目指しました。 本研究成果は、2026年7月30日に科学誌「Next Research」、2026年8月19日に科学誌「Fisheries Science」に掲載されました。 研究成果のポイント 植物内部で発生する微弱な弾性波(アコースティックエミッション:AE)を計測し、植物の水ストレスや生育状態を非破壊・リアルタイムに捉える技術の可能性を提示 植物工場において、AE信号に基づく水ストレスの早期検知や給水・培養液の自動制御への応用が期待される 水草の状態を継続的に計測することで、湖沼・河川などの水域環境や生態系のモニタリングへの展開も期待できる 研究の背景 植物の状態把握には、画像による萎れの検出や温度・湿度などの環境センサが利用されています。しかし、これらの方法では、植物内部で進行する水分状態の変化やストレスを、外観変化が現れる前に捉えることは容易ではありません。 そこで本研究では、植物内部の微小な変化に伴って発生するAE(アコースティックエミッション)に着目しました。植物の状態を外から「見る」のではなく、植物自身が発する微弱な弾性波を「聴く」ことで、植物内部の状態変化を非破壊・リアルタイムに捉える新しいセンシング技術の構築を目指しました。 研究の内容 1.AEセンシングで植物内部の状態変化を捉える 本研究では、植物から発生するAEを計測し、その変化から植物の状態を把握する技術について検討しました。特に、植物工場への応用を想定し、水耕レタスの水ストレスを外観変化よりも早く検出できるかを検証しました。 植物工場で水耕栽培したフリルレタスおよびバタビアレタスの葉柄部に小型AEセンサを取り付け、植物内部から発生するAE信号を測定しました。 まず、根を培養液から取り出して乾燥させ、水ストレスを与えたところ、乾燥状態ではAEエネルギーが通常状態より大きく低下しました。一方、根を再び培養液に戻すとAE信号は増加し、植物の吸水状態の変化をAEによって捉えられることが確認されました。 さらに、培養液のEC(注2)を通常の2.0dS/mから3.0dS/mへ上昇させ、浸透圧による水ストレスを与えました。その結果、AEエネルギーは通常条件と比較して有意に低下しました。 特に、培養液濃度を変化させてからわずか1分後にはAEエネルギーの明確な低下が確認されました。この時点では、外観上の顕著な萎れはまだ現れていませんでした。 この結果から、AEセンシングによって、植物が目に見えて萎れる前の水ストレスを早期に検出できる可能性が示されました。 また、検出されたAEには110kHzおよび170kHz付近に特徴的な周波数成分が確認されており、植物内部 の水輸送状態に関係する微小な現象を捉えている可能性があります。 2.適用範囲を水中植物にも拡張 さらに、この「植物自身が発するAEから状態変化を捉える」という考え方が、水耕栽培植物以外にも適用できるかを確認するため、水中植物であるオオカナダモについてもAE計測を行いました。 その結果、AE信号は暗所、自然光、LED照明といった光環境によって変化し、同一個体を継続測定した実験では、水草重量の変化とAEエネルギーとの間にも対応関係が確認されました。 これらの結果は、AEセンシングによる植物状態診断が、植物工場で栽培される作物だけでなく、水中植物を含む幅広い植物へ展開できる可能性を示しています。 研究の展開 今後は、まず植物工場への応用を見据え、植物の水分状態や水輸送などの生理指標とAE信号との関係を明らかにするとともに、AIを用いてAE信号から水ストレスを自動判別する技術を開発します。 これにより、植物自身が発するAEを利用して、水ストレスを早期に検知し、植物の状態に応じて給水や培養液を自動制御する栽培管理技術への発展を目指します。 さらに、水中植物にもAEセンシングを適用できる可能性が示されたことから、将来的には湖沼・河川などの水域環境における植物や生態系の長期モニタリングへの展開も検討します。 AEセンシングを、農業から環境分野まで幅広く利用できる「植物内部の状態変化を聴いて診断する技術」へ発展させることを目指します。 掲載論文 本研究成果は、2026年7月30日に科学誌「Next Research」、2026年8月19日に科学誌「Fisheries Science」に掲載されました。 論文タイトル:Application of acoustic emission sensing for detecting water stress in lettuce grown in plant factories 著者:Alan Hase, Gota Ogihara 掲載誌:Next Research 掲載URL: https://doi.org/10.1016/j.nexres.2026.102250 論文タイトル:Monitoring the dynamics of aquatic plants using acoustic emission sensing 著者:Alan Hase, Gota Ogihara 掲載誌:Fisheries Science 掲載URL: https://doi.org/10.1007/s12562-026-02018-0 【用語解説】 (注1)AE Acoustic Emission(アコースティックエミッション)。固体の変形・破壊時に発生する弾性波(超音波振動) (注2)EC Electrical Conductivity(電気伝導度)。水溶液中に溶けている肥料成分(イオン)の量を示す濃度指標。 ▼本件に関する問い合わせ先 神奈川大学 企画政策部広報課 TEL:045-481-5661 メール:kohou-info@kanagawa-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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