【横浜市立大学】少しの運動でも「心の病による長期休業」リスク低下
―仕事でよく体を動かす人もリスク低下―
本研究は、職場の労働損失の主因である精神疾患による長期疾病休業を減らすために、余暇の運動が重要であることを示唆しており、企業が従業員の運動を促す取り組みの後押しになることが期待されます。
本研究成果は、米国予防医学誌「American Journal of Preventive Medicine」に掲載されました(2026年8月27日オンライン先行公開)。
研究成果のポイント
- 余暇の運動は、少量の段階から精神疾患による長期疾病休業リスクが低くなった
- 余暇に3.75~<7.5メッツ時/週*3の運動(例:週1~2時間程度の運動)をしていた人は、運動をしていない人と比べてリスクが28%低かった
- 座って仕事をする人と比べて、仕事中に体をよく動かす人はリスクが半減していた
精神疾患は、疾病による長期にわたる休職の主要な原因であり、本人の健康やキャリアだけでなく、職場の人材確保や生産性にも影響します。そのため、予防につながる生活習慣を明らかにすることが重要です。運動がうつ病予防に有用であることはこれまでの研究から示されていますが、精神疾患による長期休業まで予防できるのか、また「どのくらい運動すればよいのか」「軽い運動でも意味があるのか」は、よくわかっていませんでした。
さらに、身体活動の影響は行う場面で異なる可能性があることがわかってきており、余暇の運動には健康上の利点がある一方、仕事での身体活動は身体的負担や休息不足のために同じ利点が得られず、むしろ有害となりうる「身体活動パラドックス」と呼ばれる仮説が提唱されています。しかしながら、この考えが精神疾患による長期休業に当てはまるかは、あまり検討されていませんでした。
本研究では、日本の労働者を対象として追跡調査を行い、余暇の運動と仕事中の身体活動と精神疾患による長期疾病休業との関連を検討することを目的としました。
研究内容
本研究では、日本の職域多施設研究「J-ECOHスタディ」*4の運動疫学サブコホートのデータを用い、20~59歳の労働者38,120名(うち男性32,298名)を対象として、余暇および仕事中の身体活動と精神疾患による長期疾病休業との関連を調べました。身体活動は主に2011年の健康診断時に調査し、その後2012年から2024年まで追跡しました。長期疾病休業は30日以上連続した休業と定義し、治療を担当する医師が発行した診断書に基づき精神疾患による休業を把握しました。
その結果、平均9.2年間の追跡期間中に、1,032名(2.7%)が精神疾患による長期疾病休業を経験しました。余暇の身体活動は、少量の運動の段階からリスクが低くなり(非線形傾向性P値=0.042、図1[A])、WHOなどの推奨する身体活動量で区分したカテゴリ別にみると、運動をしていない人と比べて、身体活動ガイドラインの推奨量に満たない3.75~<7.5メッツ時/週の運動をおこなっていた人では、精神疾患による長期疾病休業のハザード比*5が28%(95%信頼区間*5:7%~45%)低い結果となりました。これらの関連は、運動強度別に見ても大きく変わらず、精神疾患をうつ病のみに限定した時や、座り仕事が中心の労働者に限定した時に比較的明瞭に認められました。
さらに、仕事中の身体活動について調べたところ、座り仕事が中心の人と比較して、立ち仕事の人、歩き仕事の人、かなり体を動かす仕事の人ほど、精神疾患による長期疾病休業のリスクが低い傾向がみられました(線形傾向性P値<0.001、図1[B])。特に、仕事でかなり体を動かす人ではハザード比が50%低い結果となりました(95%信頼区間:31%~63%)。
これらの結果は、年齢や性別だけでなく、婚姻状況、職位、残業時間、交代勤務、喫煙、飲酒、睡眠、他の場面の身体活動、肥満度、精神疾患の既往だけでなく、もともとの抑うつ症状の強さや仕事上のストレスなどの影響を考慮したうえで得られました。
以上から、余暇の身体活動については、推奨量を達成するほど多くの運動を行わなくても、「まず少し体を動かす」ことが精神疾患による長期疾病休業のリスクが下がる可能性が示されました。また、今回の対象者では、仕事で体を動かすことが精神疾患による長期疾病休業のリスクを高めるという結果は認められませんでした。
今後の展開
本研究の結果は、働く人のメンタルヘルス対策として、余暇に少しでも身体を動かしやすい環境を整えることの重要性を示唆しています。運動施設の利用支援や柔軟な勤務時間の設定など、「推奨量の達成」だけを目標とするのではなく、まず少量から身体活動を始めやすくする職場づくりが役立つ可能性があります。一方、本研究は観察研究であり、身体的に負担の大きい仕事を増やすことが健康に良いことを示したものではありません。また、対象者は主として一つの大企業に勤務する男性労働者であり、身体活動も自己申告で評価しています。今後、女性や中小企業、サービス業などを含む、より多様な働く人々を対象とした研究によって検証していく必要があります。
研究費
本研究は、労働衛生会館、労災疾病臨床研究事業費補助金(140202-01、150903-01、170301-01)、JSPS科研費(JP25293146、JP25702006、JP16K21379、JP20H03952、JP19K10671、JP23K09749)、国際医療研究開発費(28-Shi-1206、30-Shi-2003、19A1006、21A1020、22A1008、25A1005)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Leisure-time and occupational physical activity and risk of long-term sickness absence from mental disorders: a prospective cohort study
著者:Keisuke Kuwahara, Tohru Nakagawa, Shuichiro Yamamoto, Toru Honda, Atsushi Goto, Maki Konishi, Tetsuya Mizoue
掲載雑誌: American Journal of Preventive Medicine
DOI:https://doi.org/10.1016/j.amepre.2026.108563
用語説明
*1 長期疾病休業:本研究では、病気を理由として30日以上連続して仕事を休むこと。病気は治療を担当した医師の診断書に記載された診断に基づいて把握した。精神疾患はICD-10コードでF00-F99と定義した。
*2 身体活動パラドックス:余暇に行う運動や身体活動には健康上の利点がある一方、仕事中の身体活動では同様の利点が得られず、場合によっては健康に不利な影響を及ぼすという仮説。仕事中の身体活動では、本人が活動量や休息を自由に調整しにくいことなどが理由として考えられている。
*3 メッツ時/週:1週間あたりの身体活動量を表す指標。身体活動の強度(メッツ)、実施時間、実施頻度から計算される。安静時を1メッツとし、例えば4メッツ程度(例:筋力トレーニング、早歩き)の15分の運動を週に4回行うと4メッツ時/週となる。
*4 職域多施設研究(J-ECOHスタディ):関東・東海に本社を置く10数社(約10万名)が参加した前向き研究。働く世代における生活習慣病や作業関連疾患の実態や関連要因を明らかにし、その予防や管理に資することを目的としている。
*5 ハザード比・95%信頼区間:対象者をある要因(本研究では余暇や仕事中の身体活動)の程度によって複数のカテゴリに分け、基準としたカテゴリと比べて、各カテゴリで健康アウトカム(本研究では精神疾患による長期疾病休業)がどの程度起こりやすいかを示すリスクに関する指標。ハザード比が1より大きいほど発生しやすく、1より小さいほど発生しにくいことを意味する。95%信頼区間は、推定値の不確実性を示す範囲であり、ハザード比の95%信頼区間に1を含まなければ、統計学的に有意な関連があると判断される。
