【横浜市立大学】SGLT2阻害薬、糖尿病性腎症患者の心負荷軽減に関与する可能性

横浜市立大学

―国内大学病院ビッグデータ分析―

 横浜市立大学大学院医学研究科病態制御内科学の永広尚敬医師(執筆開始時博士課程4年)、涌井広道准教授、田村功一主任教授、循環器内科学の小西正紹准教授と、川崎医科大学 腎臓・高血圧内科学の長洲一教授らの研究グループは、多施設共同研究でSGLT2(Sodium-glucose cotransporter 2)阻害薬*1の心負荷軽減効果について、日本腎臓学会及び日本腎臓病協会が構築した慢性腎臓病患者包括的縦断データベース(J-CKD-DB-Ex)を活用し、リアルワールドデータ解析による検討を行いました。SGLT2 阻害薬は糖尿病・心不全・慢性腎臓病治療薬として臨床で使用されており、糖尿病・心不全患者では心負荷軽減効果があることが従来の臨床研究で明らかになっていました。本研究においては、糖尿病性腎症患者においてSGLT2阻害薬がほかの糖尿病薬と比較して心負荷の指標であるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)*2の改善に寄与すること、その効果は幅広い患者層に対して認められることを新たに見出しました。 心不全による入院患者は年間30万人弱にのぼり、その予防法が課題となっていますが、慢性腎臓病患者は心不全を発症する予備軍として最近注目されており、今後の研究の発展が期待されます。本研究成果は、「Diabetes Research and Clinical Practice 誌」にオンライン公開されました。(2026年6月15日)。

研究成果のポイント  
  • 糖尿病性腎症患者の心負荷指標であるBNP値を糖尿病薬開始前後で比較した
  • SGLT2阻害薬開始後は、その他の糖尿病薬開始後よりもBNP値低下が大きかった
  • BNP値低下は年齢、性別、腎機能などに左右されることなく、認められた
図1 本研究の概要
 
研究背景
 日本の心不全による入院患者は年間30万人弱にのぼり[1]、その予防法が課題となっています。慢性腎臓病患者は心不全を高率に発症する予備軍として最近注目を集めています。糖尿病性腎症は慢性腎臓病患者の多数を占め、糖尿病薬のうちSGLT2阻害薬が腎機能の悪化を防ぐことがわかっていましたが、心負荷の軽減にも役立つかどうかを血液検査結果で検証した研究はありませんでした。

研究内容
 日本全国24施設から集積した慢性腎臓病患者包括的縦断データベース(J-CKD-DB-Ex)を解析し、1,818人の糖尿病性腎症患者の心負荷指標である血液中BNP値を糖尿病薬開始前後で比較しました。その結果、SGLT2阻害薬開始後は、その他の糖尿病薬開始後よりもBNP値低下がより顕著に認められました。具体的には、10%以上BNP値が低下した患者の割合はSGLT2阻害薬使用患者で50.5%であったのに対し、他の糖尿病薬使用患者では38.6%でした(図1)。こうした差は年齢、性別、腎機能などの患者の条件によらず観察されました。またSGLT2阻害薬開始後のBNP値低下の程度は、利尿薬を併用している患者では併用していない患者よりもわずかでしたが、そのほかの年齢、性別、腎機能などの条件には左右されることなく、認められました。

今後の展開
 本研究の結果は、糖尿病性腎症をもった患者において糖尿病薬を選択する際、役に立つ可能性があります。糖尿病性腎症を含めた慢性腎臓病患者では、腎疾患の進行のみならず、心不全への波及を防ぐことも念頭に置く必要があります。またJ-CKD-DB-Ex は、世界の国々との共同研究も視野に、一部で遺伝子情報と診療情報との融合も含め、慢性腎臓病における個別化医療を促進し、これまでの対応型医療に代わる予測的あるいは先制医療に向けて展開していきます。「国民、患者、利用者目線」でデータヘルスを推進する研究を目指し、国民の健康維持に貢献し、Well-being実現に貢献することを目標としています。

研究費
 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「糖尿病性腎症、慢性腎臓病の重症化抑制に資する持続的・自立的エビデンス創出システムの構築と健康寿命延伸・医療最適化への貢献」の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル:B-type natriuretic peptide level reduction and its predictors following sodium-glucose cotransporter 2 inhibitor treatment in patients with diabetic kidney disease: a Japan Chronic Kidney Disease Database Extension analysis
著者:Takanori Nagahiro, Masaaki Konishi, Tomohiko Kanaoka, Hiromichi Wakui, Yuichiro Yano, Hajime Nagasu, Seiji Kishi, Masaomi Nangaku, Yosuke Hirakawa, Naoki Nakagawa, Jun Wada, Kazuhiko Tsuruya, Toshiaki Nakano, Shoichi Maruyama, Takashi Wada, Kunihiro Yamagata, Ichiei Narita, Motoko Yanagita, Yoshio Terada, Shin-ichi Araki, Masanori Emoto, Hirokazu Okada, Yoshitaka Isaka, Yusuke Suzuki, Takashi Yokoo, Hiromi Kataoka, Eiichiro Kanda, Naoki Kashihara, Kouichi Tamura, for the J-CKD-DB collaborators
掲載雑誌:Diabetes Research and Clinical Practice
DOI:https://doi.org/10.1016/j.diabres.2026.113377

用語説明
*1 SGLT2阻害薬:ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬の略。腎臓の近位尿細管でのブドウ糖再吸収をブロックし、余分な糖を尿と一緒に体外へ排出することで血糖値を下げる経口血糖降下薬。血糖値を下げる以外にも心臓、腎臓への保護作用が報告されている。
*2 BNP:B型ナトリウム利尿ペプチドまたは脳性ナトリウム利尿ペプチドの略。心臓から血液中に分泌されるホルモンで、心筋にかかる血圧が高ければ高いほど多く分泌されるため心臓の負担を測る指標として用いられる。




参考文献
[1] 一般社団法人日本循環器学会 循環器疾患診療実態調査ウェブサイト
https://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/

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