【横浜市立大学】植物が自分の力で立つ仕組みを解明

横浜市立大学

~2つの植物ホルモンが茎の「伸びる場所」と「曲がる向き」を分担し、自立性を支える~

 横浜市立大学木原生物学研究所 嶋田幸久教授、奥村将樹助教、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 筧雄介主任研究員(研究当時:横浜市立大学特任助教)らの研究グループは、植物ホルモンの一つであるブラシノステロイド(BR)*1が、もう1つの植物ホルモンであるオーキシン*2と協調して働くことで、植物の自立性*3を制御していることを明らかにしました。BRは茎の上下軸に沿って、どこが伸長領域(伸長・屈曲できる領域)で、どこが支持領域(伸長・屈曲できない領域)なのかを決めていることを発見しました。さらに、BRとオーキシンが協調して働くことで、植物が重力に逆らって上へ曲がる重力屈性*4が起きることも発見しました。これらの仕組みが組み合わさって、植物がまっすぐ立ち続ける「自立性」が実現されることを、モデル植物シロイヌナズナを用いて明らかにしました(図1)。
 植物の自立性(倒れない能力)は農作物の収量に直結する重要な性質であり、本成果は倒れにくい作物の開発につながると期待されます。
 本研究成果は、米国植物生物学会が発行する植物科学分野の国際科学誌「Plant Physiology」に掲載されました(オンライン公開2026年6月18日)。

研究成果のポイント
  • 植物ホルモンのBRが、茎の上下軸に沿って「伸びて屈曲できる領域」と「伸びずに支える領域」を決めていることが自立性を実現するために重要であることを明らかにした。
  • BRとオーキシンが互いに依存し合って働くことで、重力屈性が起きることを発見した。
  • 重力に対して、オーキシンが曲がる「向き」を、BRが屈曲できる「場所」を決め、2つのホルモンが協調して働くことで3次元空間における植物の動きが説明できるようになった。自立性の制御機構の解明は、作物の倒伏*3抵抗性とも深く関わるため、倒れにくく収量の高い作物の開発に役立つと期待される。

図1:植物が自立する仕組み。
(A)茎は先端側のやわらかく伸びて屈曲できる領域と、根元側の硬く体を支える領域に分かれる。(B)BRは先端に多く、細胞をやわらかく保っている。根元ではBRが減って二次細胞壁ができ、不可逆的に硬くなる。(C)横に倒れたときは、オーキシンが曲がる向きを、BRが屈曲できる場所を決め、2つのホルモンが協調して茎を起こす。先端では2つの植物ホルモンが効き、両方の濃度が高い側がよく伸びることで曲がり起き上がり、根本は硬くて曲がらずに体を支えることで植物は伸びながら重力に逆らって立ち続けられる。

研究背景
 植物は成長に伴って自分の重さや風・重力に耐えながら直立し続ける必要があります。こうした能力は農学の分野では倒伏耐性として作物の収量の観点から研究されてきましたが、植物が自ら立ち続ける能力そのものに着目した先行研究はありませんでした。そこで本研究グループは、この能力に新たに着目し、「self-standability(自立性)」という言葉で初めて呼ぶことにしました。茎が伸びて成長するのは先端の領域で、その下の組織は先端と自分自身の重さを支えなければなりません。つまり、茎を上下軸(図1AのZ軸)に沿って先端の「伸長領域」と根元の「支持領域」に分けることが、自立性の確立と維持に重要です。しかし、重力屈性などの左右方向の成長制御はよく研究されてきた一方で、この上下方向の領域分けがどのように制御されているのかは分かっていませんでした。
 また、植物ホルモンのBRとオーキシンは、いずれも茎伸長を促進し、両者には相乗効果があることも知られていました。しかし、なぜ2つのホルモンが重複した機能をもつのか、この機能が植物に与えるメリットは長らく不明でした。また、従来の茎切片を用いた実験系では、先端から供給されるオーキシンのみが断たれてしまうため、両者の関係を十分に評価できないという課題もありました。
 
研究内容
 研究グループはまず、シロイヌナズナの花茎*5とリョクトウ(緑豆)の茎を用いて、BRが生合成され働く場所を詳しく調べました。その結果、BRの生合成やシグナル伝達、体内のBR濃度は、いずれも盛んに伸びている先端領域で高く、根元では低いことが分かりました。BRが多い場所が、よく伸びて屈曲できる場所と一致していたのです。
 次に、茎にBRを多く与えると茎は長く伸びましたが、うまく体を支えられずに垂れ下がり、自立性が失われました(図2)。逆にBRが欠乏すると、伸びて屈曲できる領域が短くなり、重力に応じた曲がりも弱くなりました。さらに、先端と根元の中間にある特定の領域(BR依存的な「移行領域」)では、BRを与えると「伸びない領域へと変化する運命」を「伸びて屈曲できる領域として留まる」ように変えられました。一方、完全に支える領域になった根元は、後からBRを与えても伸びる組織には戻らないことが分かりました。
 
図2:BR処理による自立性の喪失。対照(無処理)の茎はまっすぐ立つが(左)、BR(ブラシノライド:BL)を与えると茎が長く伸びて倒れ、体を支えられなくなる(右)。BRの量が茎の自立性に重要であることを示す。
 
 これまで実験材料にすることが困難だった「インタクトな(傷つけていない)茎」を用い、BRとオーキシンそれぞれの合成阻害剤を同時に処理して回復させる実験系を新たに確立しました。その結果、両方を止めると茎の伸長はほぼ完全に失われ、どちらか一方のホルモンだけを補っても回復せず、両方を補って初めて回復することが示されました。つまり2つのホルモンが、相乗効果だけでなく互いに依存して働く(相互依存性がある)ことを初めて明らかにしました。
 茎全体の遺伝子の働きを網羅的に調べたところ、根元の「支える領域」では、今回新たに同定されたBRDS*6という遺伝子群の働きが高まっていることがわかりました。この遺伝子群は硬い二次細胞壁を作るセルロース、キシランやリグニンの合成に関わる遺伝子で構成されており、これらの遺伝子はBRによって抑えられていることが分かりました。従来、BRは細胞壁をつくる遺伝子群の働きを一様に高めると考えられてきましたが、本研究はBRが、やわらかい一次細胞壁*7の形成を促す一方で、硬い二次細胞壁*7の形成は抑えるという、相反する制御を担っていることを初めて示しました。
 重力を受けて茎が曲がるとき、曲がりの目印となるオーキシン応答遺伝子は、伸びる領域でも支える領域でも同じように左右非対称に働きました。それにもかかわらず、実際に曲がるのはBRによって細胞壁がやわらかく保たれた領域だけでした。これらの結果から、オーキシンが曲がる「向き」を、BRが屈曲できる「場所」を決め、両者が協調して三次元空間での茎の成長・重力屈性・自立性を実現するというモデルにまとめられました(図1)。

今後の展開
 農作物が倒れる「倒伏」は、収穫量を大きく損なう深刻な問題です。特に現代の農法では、肥料を多く与えることで背丈が高くなり倒れやすくなることが課題となっています。実際、1970年代の「緑の革命」で収量を飛躍的に高めた半矮性(背の低い)品種の多くは、BRやジベレリンに関わる遺伝子の変異をもつことが知られています。
 本研究で明らかになった、BRが茎を上下軸に沿って「伸びる場所」と「支える場所」に分けるしくみは、自立性を制御する新たな手がかりとなります。今後は農作物にこの知見を応用することで、倒れにくく収量の高い品種の開発につながることが期待されます。

研究費
 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS科研費 19H02957(嶋田幸久)、26K09356(奥村将樹))の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル:Brassinosteroids define the stem elongation zone of stems along the apical-basal axis to coordinate gravitropism and self-standability in Arabidopsis
著者:Yusuke Kakei, Masaki Okumura, Chiaki Yamazaki, Akari Kimura, Nodoka Ishiyama, Hinako Kashima, Rina Kawashima, Akiko Sato, Takayuki Hoson, Kouichi Soga, Shozo Fujioka, Hitoshi Mori, Yusuke Kamiyoshihara, Ayumi Yamagami, Takeshi Nakano, Tadao Asami, Yukihisa Shimada
(筧雄介・奥村将樹は共同筆頭著者、嶋田幸久は責任著者) 
掲載雑誌:Plant Physiology(米国植物生物学会)
DOI:https://doi.org/10.1093/plphys/kiag359
 

 


 
用語説明
*1 ブラシノステロイド(BR):植物ホルモンの一種。細胞の伸長や分裂、環境応答などを調節する。本研究では、茎の先端で細胞をやわらかく保って伸長させ、硬い二次細胞壁の形成を抑える働きをもつことが示された。
*2 オーキシン:植物ホルモンの一種。細胞の伸長や分裂、光や重力に対する屈性(曲がり)を調節する。重力屈性では、茎の下側に多く分布して下側をよく伸ばし、曲がる「向き」を決める。
*3 自立性/倒伏:植物が自分の重さや風・重力に耐えて体を支え、立ち続ける性質を自立性という。これが失われて作物が倒れることを倒伏といい、収量の低下を招く。
*4 重力屈性:植物が重力の方向を感じ取り、それに応じて器官の成長方向を変える性質。横に倒した茎が上向きに曲がって起き上がる反応など。オーキシン以外の植物ホルモンの関わりは不明瞭だった。
*5 花茎(インフロレッセンス・ステム):花や蕾をつける茎。本研究ではシロイヌナズナの花茎を主な材料に用いた。
*6 BRDS遺伝子群:本研究で同定・命名した、茎の中でBRによって発現が抑えられる遺伝子群(Brassinosteroid-Down-regulated in Stem の略)。硬い二次細胞壁をつくる遺伝子が多く含まれ、BRが少ない根元側で強く働いて支持組織の形成を担う。
*7 一次細胞壁/二次細胞壁:植物の細胞を包む壁。成長中の細胞がもつ伸び縮みできるやわらかい壁が一次細胞壁。成長を終えた細胞の内側にセルロースやリグニンが厚く沈着してできる硬い壁が二次細胞壁で、これが体を支える支持組織となり、一度形成されると元には戻らない。

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