乳酸菌の「由来」で抗菌力が変わる。茶葉由来乳酸菌が歯周病菌に対して高い抗菌作用を示すことを解明
研究のポイント
- 茶葉および大麦若葉由来の乳酸菌は、歯周病菌に対して強い抗菌作用を示した。
- 同じ菌種であっても、「どこから分離されたか」により機能が大きく異なることを明らかにした。
- 歯周病菌の増殖抑制に加え、病原因子遺伝子の発現も抑制することを確認した。
研究の背景
歯周病は成人の歯の喪失原因の一つであり、全身疾患とも関連する重要な疾患です。このため、歯周病菌(※1)の増殖や病原因子を抑制する新たな予防手法の開発が求められています。
近年、乳酸菌などのプロバイオティクス(※2)による口腔ケアへの関心が高まっていますが、その機能は菌種や菌株によって異なることが知られています。一方で、乳酸菌がどのような環境(由来)から得られたかによる機能の違いについては、十分に明らかになっていませんでした。
そこで本研究では、異なる植物由来から分離した乳酸菌の抗菌作用を比較し、由来と機能の関係を検討しました。
研究の内容・成果
本研究では、茶葉、大麦若葉、ニンジン、発酵野菜などから合計80株の乳酸菌を分離し、歯周病菌に対する抗菌作用を比較しました。その結果、以下のことが明らかとなりました。
①バイオフィルム形成の抑制
茶葉由来乳酸菌の約96%、大麦若葉由来乳酸菌の100%が、歯周病菌Porphyromonas gingivalisのバイオフィルム形成を有意に抑制しました(図1)。
②菌の増殖抑制
茶葉および大麦若葉由来乳酸菌は、歯周病菌の増殖を有意に抑制しましたが、ニンジンや発酵野菜由来では顕著な効果は確認されませんでした(図2)。
③抗菌スペクトル
一部の乳酸菌は、Porphyromonas gingivalisおよびFusobacterium nucleatumに対して抗菌活性を示しました(図3)。
④ 病原因子の抑制
歯周病菌の接着や組織破壊に関与する遺伝子(fimA、kgp、rgpAなど)の発現が、茶葉および大麦若葉由来乳酸菌によって抑制されました(図4)。
さらに、同じLactiplantibacillus plantarumであっても、茶葉由来株は強い抗菌活性を示す一方、発酵食品由来株では効果が弱いことが確認され、菌種よりも由来環境が機能に強く影響する可能性が示されました。
各植物由来(茶葉、大麦若葉、ニンジン、発酵野菜)から分離した乳酸菌の培養上清を用いて評価した。茶葉および大麦若葉由来乳酸菌において、バイオフィルム形成の有意な抑制が確認された。
茶葉および大麦若葉由来乳酸菌は、歯周病菌の増殖を有意に抑制した一方、ニンジンおよび発酵野菜由来乳酸菌では顕著な抑制効果は認められなかった。
Porphyromonas gingivalisおよびFusobacterium nucleatumに対して、一部の茶葉および大麦若葉由来乳酸菌で阻止円が確認され、抗菌活性が認められた。
(図4)乳酸菌培養上清がPorphyromonas gingivalisの病原因子遺伝子発現に及ぼす影響(ヒートマップ)。
接着因子(fimA等)およびプロテアーゼ関連遺伝子(kgp、rgpA等)の発現が、茶葉および大麦若葉由来乳酸菌により抑制されることが示された。
本研究により、乳酸菌の機能は菌種だけでなく「どのような環境(由来)から得られたか」によっても大きく左右されることが明らかとなりました。これにより、従来の菌種・菌株選択に加え、「由来」という新たな観点から機能性乳酸菌を設計する可能性が示されました。今後は、茶葉由来乳酸菌が産生する抗菌物質の同定や、その作用機構の詳細な解明を進めるとともに、歯周病菌に対する有効性の検証をさらに深めていきます。また、これらの知見をもとに、日常的な健康維持に資する製品開発への展開を検討していきます。
当社は、お茶をはじめとする自然由来素材の価値を科学的に解き明かす研究を、長年にわたり継続してきました。今後も、基礎研究を大切にしながら、発酵や微生物を含む幅広い研究領域に取組み、人々の健やかな暮らしに資する知見の創出を目指してまいります。
Source-Dependent Antimicrobial Activity of Plant-Derived Lactic Acid Bacteria against Periodontal Pathogens
掲載誌:
Bioscience of Microbiota, Food and Health
著者:
Yuji Tsujikawa, Junya Yamamoto, Mami Naito, Iwao Sakane
辻川勇治、山本純也、内藤真実、坂根巌
(※2) プロバイオティクス:健康に有益な働きをもたらす生きた微生物のこと。
(※3) バイオフィルム:細菌が表面に付着して形成する集合体で、外部からの影響を受けにくく、歯周病の進行に関与する。
(※4) 培養上清:細菌を培養した後に得られる上澄み液で、細菌が産生した代謝物などを含む。
(※5) ディスク拡散法:抗菌物質の効果を評価する方法の一つで、試料を含ませたディスク周囲に形成される阻止円の有無や大きさにより抗菌活性を判定する。
(※6) 病原因子遺伝子:細菌が感染や組織破壊を引き起こす際に関与する遺伝子。本研究では接着因子やプロテアーゼ関連遺伝子などを評価した。
