-
-
-
大脇淳(桜美林大学)、速水将人(北海道立総合研究機構)、榊原正宗(兵庫県立大学大学院)、中濵直之 (現所属:大阪公立大学、旧所属:兵庫県立大学 兼 兵庫県立人と自然の博物館)らの研究グループは、防風林を伐採・植林してから何年まで草原性の植物やチョウ類の生息地として機能しうるかを明らかにしました。
植林の伐採地は一時的に草原性生物の生息地になりうることが知られていますが、草原性生物の生息地として何年持続しうるのか詳細な年数は不明なままでした。本研究では、伐採後に植林して2~12年が経過した若い植林地で開花植物とチョウ類を調査しました。その結果、草原性チョウ類や開花植物の多様性は伐採後6年までは高いが、それ以降は急速に減少すること、絶滅危惧の草原性チョウ類も植林後6年までの若い植林地を利用することを解明しました。
本研究は、定期的に植え替えられる防風林において、草原性生物を保全する具体的な管理手法の構築に貢献する重要な成果です。草原性生物は、近年の草原の減少と関連して急速に姿を消しつつあります。植林後6年が経つ前に、植え替えられた若い防風林の周辺に新たな伐採地を作ることで、防風林としての本来の機能を維持しつつ、防風林景観において草原性植物やチョウ類を持続的に保全できることが期待されます。本研究成果は、2026年1月19日、国際誌「European Journal of Entomology」に掲載されました。
図1 本論文の概略図.若い防風林は草原性の植物やチョウ類の生息地として機能.イラストは森林業漫画家の平田美紗子氏
1.背景
20世紀以降、人の生活様式の変化にともなう草原面積の著しい減少により、草原性生物は急速に減少し、多くの生物が国や都道府県の絶滅危惧種として記載される状況になっています。このような中、近年では植林の伐採地、防火帯、送電線下の草地、スキー場などが草原性生物の生息地として注目されつつあります。植林の伐採地の場合、伐採後に再び木を植えるため、草原性生物の生息地としては一時的にしか機能しません。しかし、植林後何年間は草原性生物の生息地として機能するのか、詳細な年数はこれまで不明でした。
北海道十勝地域の広大な農業景観には、列状または格子状に植えられた防風林(その大部分は植林)が存在します。大きな枯れ枝が畑や道路に落ちることを避けるために、防風林は定期的に伐採されて植え替えられます。また、この景観には絶滅危惧の草原性チョウ類も生息することが知られています。このような特徴により、北海道十勝地域の防風林は、植林後何年まで草原性生物の生息地として機能するか調査する上で理想的な環境です。また、この防風林景観で絶滅危惧の草原性チョウ類を保全するためにも、絶滅危惧のチョウ類は防風林の若い植林地を利用するのか、するのであれば植林後何年まで利用するのかを明らかにする必要があります。
本研究では、草原性チョウ類や開花植物の多様性および絶滅危惧の草原性チョウ類の個体数は植林後何年まで高く維持されるのか、詳細な持続年数を解明することを目的としました。また、様々な環境変数も計測し、林齢か環境変数のどちらが植物やチョウを説明するか評価しました。
2.方法
北海道十勝地域の植林後2~12年(2年×2地点、3年、5年×2地点、6年、9年、12年)の8か所の若い植林地に30 mの調査ルートを設置し、5月と8月にそれぞれ1回ずつ調査しました(図1)。調査では、虫媒花の種と花序数、チョウの種と個体数をカウントしました。また、環境変数として、植えられた木の樹高、開空度、草丈、土壌湿度も計測しました。なお、土壌湿度は地点間でほとんど違いがなかったため、解析には使っていません。
3.結果
植物、チョウともに、種数や個体数(植物の場合は花序数)は林齢の増加とともに減少しました。虫媒花の開花数は植林後5年目以降に大きく減少しましたが、チョウの種数、個体数は6年目までは高く維持され、9年目以降は著しく減少しました。チョウでは草原性の絶滅危惧種も複数観察されました。いずれも6年目までは観察されましたが、9年目以降は観察されませんでした。林齢か環境変数のどちらが植物やチョウの種数・個体数、絶滅危惧の2種のチョウの個体数を説明するか評価したところ、全てのケースで林齢のみのモデルの方が環境変数のみのモデルより適合度の高いモデルが得られました。
4.今後の展望
本研究より、防風林では植林後2~6年は絶滅危惧種を含む草原性チョウ類や植物の生息地となりうるが、9年目以降は生息環境として機能しなくなることが明らかになりました。したがって、防風林景観で絶滅危惧種を含む草原性のチョウ類や植物を保全するためには、植林後6年経つ前にチョウの移動距離の範囲内に伐採地を作る必要があります。この知見は、防風林景観で草原性生物を保全するためにはどこをどのように植え替えればよいか、景観スケールでの防風林管理計画を構築する際の重要な指針になります。
また、植物やチョウの多様性は環境変数を測らなくても林齢のみでほぼ判断できるという結果は、林業管理者が生物多様性を考慮した管理計画を構築する上で有用と考えられます。環境変数の計測は手間がかかりますが、林齢のみに基づいて防風林の管理計画を立てることができれば、林班図に基づいて省力的に管理計画を構築できると期待されます。
本研究では、北海道十勝地域の防風林で最もよく植えられるカラマツ植林のみを対象としました。しかし、アカエゾマツが植えられることも少なくありません。樹種によって成長速度が異なるので、樹種によって草原としての持続年数は異なる可能性があります。また、植林後7~8年の植林地を調査できなかったため、この間の林齢の状況は不明です。さらに、若い植林地でも植生やチョウ群集にはバラツキがありました。今後、これらの点を解明することによって、防風林の機能と生物多様性を両立させる、より詳細な防風林管理計画の立案が可能になると考えられます。
<研究プロジェクトについて>
本研究は、プロ・ナトゥーラ・ファンド第33期、北海道立総合研究機構、日本学術振興会科学研究費補助金基盤B(課題番号21H02221/23K21209)の助成を受けました。
<共同研究者>
大脇淳 桜美林大学 リベラルアーツ学群
速水将人 北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場
榊原正宗 兵庫県立大学大学院環境人間学研究科
中濱直之 大阪公立大学大学院農学研究科(当時の所属:兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 兼 兵庫県立人と自然の博物館 自然・環境再生研究部)
※大脇と速水の本研究における貢献度は同等である。
<協力機関>
北海道水産林務部林務局治山課・北海道河西郡更別村
<参考図>
図2 調査地の風景.a, 2年目の植林地; b, 5年目の植林地; c, 9年目の植林地; d, 6年目の植林地で交尾する準絶滅危惧種ゴマシジミのペア.なお、aに写った男性は第三著者。
<論文情報>
【タイトル】
Clearcut areas aged 2-6 years in shelterbelts support high diversity of butterflies and flowering plants, including endangered grassland butterflies, in the Tokachi District of Hokkaido, northern Japan
タイトル和訳|十勝地域の防風林における2~6年の伐採地は草原性絶滅危惧種を含むチョウ類と開花植物の高い多様性を保持する
【著者】
Atsushi Ohwaki(大脇淳), Masato Hayamizu(速水将人), Masamune Sakakibara(榊原正宗), Naoyuki Nakahama(中濱直之)
【雑誌・巻など】
雑誌:European Journal of Entomology
巻:123
ページ:1–12
出版年:2026年
DOI: 10.14411/eje.2026.001
<研究に関するお問い合わせ>
桜美林大学リベラルアーツ学群
准教授 大脇 淳
Tel:042-797-8573 E-mail:ohwaki_a@obirin.ac.jp
地方独立行政法人北海道立総合研究機構
森林研究本部 企画調整部 普及グループ
Tel:0126-63-4164 E-mail:forestry@hro.or.jp
▼本件に関する問い合わせ先
学校法人桜美林学園 総合企画部広報課
TEL:042-797-9772
FAX:042-797-9829
メール:webadmin@obirin.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/