強力な抗マラリア活性をもつペプチド天然物の全合成に成功 ―複雑な天然物を効率よく作り上げる新たなペプチド合成技術を実現(北里大学)

北里大学

北里大学大村智記念研究所の生物有機化学研究室 廣瀬友靖教授、千成恒講師らの研究グループは、強力な抗マラリア活性を示す天然由来化合物「コシダシン(Koshidacin)AおよびB」の全合成に成功しました。本研究では、複雑ペプチド天然物を天然アミノ酸から効率よく構築する後期段階ネイティブペプチド改変(late-stage native peptide modification)」を実現しました。この研究成果は、2025年12月1日付(オンライン)で、アメリカ化学会が刊行する国際誌 JACS Auに掲載されました。 ■研究成果のポイント ・天然物コシダシンA/Bの全合成に成功。これまで人工合成が難しかった環状テトラペプチド天然物の構築を実現。 ・従来とは逆方向にペプチドを伸ばす合成法を確立。 あえて"逆方向"に伸長することで副反応を抑え、効率的な環状構造の構築に成功。 ・天然アミノ酸から出発し、最後に必要な改変を加える技術を開発。創薬化学への応用が期待。 汎用性が高く、他の天然物にも応用可能。抗感染症薬をはじめ、ペプチド医薬の開発基盤として有望。 ■研究の背景 マラリアは今なお世界で猛威をふるう感染症であり、薬剤耐性原虫の拡大が治療の大きな障壁になっています。海洋微生物由来の天然物コシダシン類は、強い抗マラリア活性を示しますが、12員環マクロ環状構造を含む複雑なペプチド骨格を持つため、人工的な合成難易度の高い化合物でした。天然物を人工合成できるようになると、  ・量を十分に確保できる  ・化学的に改変した誘導体を作ることで、機能(生物活性など)を調べられる  ・結果的に、新しい薬の候補を探索できる といった利点が生まれます。しかし、複雑なペプチド天然物を効率よく組み立てるには、新しい合成戦略が必要でした。 ■研究内容と成果 研究グループは今回、次の二つの戦略的アイデアを導入しました。 ①「後期段階ネイティブペプチド改変」 入手しやすい天然アミノ酸からペプチドの基本骨格を組み上げ、最終段階で必要な部分だけ選択的に化学修飾する方法です。 これにより、高度に反応性を制御しつつ工程数を削減することが可能になりました。 ②「逆ペプチド伸長法」 通常とは逆方向にペプチドを伸ばして環状構造を作るという、反応制御が困難なためにこれまで避けられてきた手法をあえて採用しました。 これが副反応の抑制に有効で、新しい環状テトラペプチドの構築戦略として機能することが示されました。 これらの技術を組み合わせることで、一般的な化学原料である天然アミノ酸から出発し、コシダシンA/Bの全合成に成功しました。 本成果は、複雑な天然物を効率よく構築するための新しいプラットフォームとして、天然物化学および創薬化学分野で広く応用される可能性があります。 ■今後の展開 本手法はコシダシン以外の複雑なペプチド天然物にも適用できると考えられ、  ・抗マラリア活性の作用メカニズムの検証  ・誘導体の作成による薬効改善  ・他の天然物を対象とした応用研究 など、創薬化学・化学生物学の幅広い領域での展開が期待されます。 ■論文情報 掲載誌:JACS Au 論文名:Late-Stage Native Peptide Modification Approach to the Total Synthesis of the Antimalarial Natural Products Koshidacins A and B 著 者:Hiroki Nakahara, Taichi Okano, Goh Sennari, Masato Iwatsuki, Toshiaki Sunazuka, Tomoyasu Hirose DOI:10.1021/jacsau.5c01394 ・本研究は 学術変革領域(A) "天然物が織り成す化合物潜在空間が拓く生物活性分子デザイン" [JP24H01789]、[JP23H04884]、JSPS科研費[JP24K18256]、[JP23K06197]、[JP25K09877]、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の課題番号[JP25ama121035]の助成を受けたものです。 ■用語解説 ※1 コシダシン(Koshidacin)  海洋由来の微生物から報告された天然化合物。強い抗マラリア活性を示すことが知られている。 ※2 ペプチド  アミノ酸が連結したもの。環状ペプチドはその連結体が輪っかに繋がったものを指す。 ※3 後期段階ネイティブペプチド改変  ペプチド骨格の基本構造を完成させた後に、特定の天然由来アミノ酸のみを選択的に化学修飾する合成技術。 ■問い合わせ先 【研究に関すること】  北里大学 大村智記念研究所  生物有機化学研究室  教授 廣瀬 友靖  e-mail:thirose@lisci.kitasato-u.ac.jp 【報道に関すること】  学校法人北里研究所 広報室  TEL:03-5791-6422  e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

その他のリリース

話題のリリース

機能と特徴

お知らせ