腸内細菌由来の遺伝子を用いた疾患リスク評価法を開発
~免疫疾患・精神疾患の非侵襲的診断への応用に期待~
藤田医科大学(愛知県豊明市)消化器内科学、医科プレ・プロバイオティクス講座(廣岡芳樹教授)らの研究グループは、腸内細菌が持つ特定の遺伝子(nan遺伝子※1)を定量的に測定することで、免疫疾患や精神疾患のリスクを非侵襲的かつ迅速に評価する新たな手法を開発しました。この手法は、特にムチン分解に関連する腸内細菌のひとつRuminococcus gnavus※2(以下R. gnavus)などのLachnospiraceae科の細菌に着目しています。
研究成果は、2024年11月9日に「Microbiology Research Journal International」にオンライン掲載されました。
論文URL:https://journalmrji.com/index.php/MRJI/article/view/1503
〈研究のポイント〉
- nan遺伝子の検出: 腸内細菌のnanA遺伝子に特異的なプライマーセットを設計し、次世代シーケンシング(NGS)でR. gnavusやBlautia、Dorea属などのLachnospiraceae科細菌の存在を確認しました。
- 疾患との関連性: アレルギー誘発マウスと攻撃的行動を示す犬さらに潰瘍性大腸炎(UC)※3患者のサンプルを解析した結果、nan遺伝子レベルが疾患の状態と関連していることが示されました。
- 非侵襲的評価: 糞便サンプルを用いたnan遺伝子の定量的PCR(qPCR)測定により、免疫疾患や精神疾患のリスクを非侵襲的に評価できる可能性が示唆されました。
〈背 景〉
腸内細菌叢は、宿主の免疫系や神経系に大きな影響を与えることが知られています。特に、R. gnavusなどのLachnospiraceae科細菌は、ムチン分解を通じて腸内環境に影響を及ぼし、免疫応答や行動に関連する可能性があります。本研究では、これらの細菌が持つnan遺伝子に着目し、そのレベルを測定することで、免疫疾患や精神疾患のリスクを評価する新たな手法を開発しました。
〈研究手法と結果〉
nan遺伝子クラスター内で高度に保存されているnanA遺伝子のコンセンサス配列をターゲットとするプライマーセットを設計しました。nanレベルと免疫疾患または精神疾患との関連性を調査するために、腸内のnanレベルを定量化するqPCRを実行し、フルクタン投与の有無にかかわらずアレルギー誘発マウスと、攻撃行動の有無にかかわらずイヌの腸DNAを分析しました。さらに、nanレベルが免疫疾患の臨床状態を反映しているかどうかを評価するために、潰瘍性大腸炎 (UC)の患者45人から糞便サンプルを採取し、nanレベルを分析しました。
その結果、nanプライマーセットを使用してさまざまな腸サンプルから増幅されたDNAフラグメントのNGS分析により、R. gnavusとBlautiaおよびDorea種を含むLachnospiraceae科の他のメンバーからのnanA配列の存在が確認されました。このプライマーセットを使用したnanレベルのqPCR定量化により、未処理のマウスと比較してアレルギースコアが低いことが知られているフルクタンで処理されたアレルギー誘発マウスは、nanレベルが大幅に低下したことが明らかになりました。さらに、攻撃的な犬のnanレベルは、非攻撃的な犬のnan レベルよりも大幅に高かったです。注目すべきことに、 UC患者のnanレベルも、健康な対照群と比較して大幅に上昇しました。
〈今後の展望〉
本研究で開発されたnan遺伝子のqPCR測定法は、非侵襲的かつ迅速に疾患リスクを評価する手法として広く応用される可能性があります。特に、免疫疾患や精神疾患の早期診断、さらには予防的な介入のためのツールとして期待されています。今後、さらに大規模な臨床研究を実施し、本手法の実用性を高めることを目指します。
〈用語解説〉
※1 nan遺伝子: 腸内細菌が持つ遺伝子の一つで、特にムチン分解酵素の生合成に関与します。
※2 Ruminococcus gnavus: 腸内細菌の一種で、Lachnospiraceae科に属します。腸内ムチンの分解能力を持ち、腸内環境や健康に重要な役割を果たします。
※3 潰瘍性大腸炎(UC): 大腸に炎症が起きる慢性疾患で、腹痛や下痢などの症状を引き起こします。
〈文献情報〉
●論文タイトル
Assessment of Risk for Immune and Psychiatric Disorders Using qPCR-Based Monitoring of the nan Gene in Gut Microbiota: A Non-invasive Approach
●著者
長坂光雄1、藤井匡1,2,3、鎌野俊彰1、三原誠也4、舩坂好平1、大野栄三郎1、茂木千恵4、廣岡芳樹1,2、栃尾巧1,2,3
●所属
1 藤田医科大学 医学部 消化器内科学
2 藤田医科大学 医学部 医科プレ・プロバイオティクス講座
3 株式会社バイオシスラボ
4 ヤマザキ動物看護大学 動物看護学部
●掲載誌
Microbiology Research Journal International
●掲載日
2024年11月9日
●DOI
10.9734/mrji/2024/v34i111503