日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、Ciena Corporation(以下「Ciena」)、富士通株式会社(以下「富士通」)、日本電気株式会社(以下「NEC」)と共同で、IOWN Global Forum(以下、IOWN GF)(*1)にて策定されたOpen APN(*2)の基本機能の動作実証を実施します。Open APNアーキテクチャが市中の製品をベースに実現できることを実証し、世界市場での導入の加速に貢献します。
更には、Open APNの用途拡大に向け、必要な時に必要な対地間にて大容量低遅延通信を可能とする機能群の研究開発を進め、フィールド実証を開始しました。
またAPNによる大容量低遅延通信を低電力消費に実現するため、高性能なアナログ集積回路設計の経験が豊富なfJscaler IncをNTTエレクトロニクス株式会社(以下「NEL」)の子会社とする等により、光トランシーバ向け光電融合デバイスの開発体制をさらに強化します。
共同実証する各社の製品およびNTTでの実証内容については、2022年11月16日~18日に開催予定の「NTT R&Dフォーラム Road to IOWN 2022」(*3)にて紹介します。
1.背景
近年、インターネットやスマートフォンといった重要なイノベーションにより、社会のあり方は大きく変わってきました。社会の情報化がますます加速し、AIやIoT(Internet of Things)技術が生活シーンに取り入れられていくことで、私たちの暮らしは大きく変わると考えられています。
そのような中、扱うデータ量は年々増加の一途をたどっており、データセンター間の通信容量拡大頻度が高まることで、迅速な帯域増設が求められています。
一方で、人々の生活シーンへの一例として、ICTを導入した遠隔医療への期待も高まっています。遠隔医療においては、患者と医師をいつでも、どこにでもつなげることが求められており、また人命にかかわる場合もあるため、遠隔であることを意識させないナチュラルさ(低遅延、大容量)が求められています。
そこで、IOWN GFでは、これまでは主に通信事業者の施設間で使われてきた光波長パス(*4)を、データセンターや医療拠点などといったユーザ拠点を端点とすることを可能とするOpen APNアーキテクチャを策定し、2022年1月に発行しました。
図1 .Open APN概要とユースケース例
2.Open APNの共同実証
Open APNのアーキテクチャで定義されているネットワークノードは、Open ROADM MSA(*5)により定められた標準部品を所定の構成方法で組みわせることにより実現可能であり、これらの標準部品はCiena・富士通・NEC等の国内外の製品ベンダより既に製品化されています。そこで、これらの製品を活用し、Open APNのアーキテクチャに基づき大容量・低遅延な通信が実現できることを確認するフィールドでの共同実証を、2022年度第四四半期に製品ベンダと合同で実施します。本実証では、二拠点間での光波長パス生成などの機能確認、スループット・遅延などの性能確認、光波長パスの端点に配備する端末のマルチベンダ接続確認などを行います。
本実証結果は2023年度以降のAPNサービスに活用をめざすとともに、IOWN GFを通じて公開する予定であり、Open APNが世界の製品ベンダの既存製品をベースに実現できることの認知を広め、ユースケースの創造、世界での市場の拡大に貢献します。
3.必要な時に必要な対地間にて大容量低遅延通信を可能とする機能群の研究開発、実証
Open APNの用途拡大には、必要な時に、必要な対地間にて大容量低遅延通信を可能とする機能群の実現が重要となります。そこで、NTT研究所では、下記の機能群の研究開発に取り組み、ラボ環境において、その動作実証に成功しました(図2)。
(1) ユーザ拠点端末と通信事業者機器が連携・協調した、サービス条件を満足する光波長パスの自動設計開通機能、最適モード選択等の調整機能
(2) ユーザ拠点端末における光波長端点の設定管理機能、端末の認証状態に基づいた通信事業者機器における光信号の通過・停止機能
(3) 異なる種類の光ファイバを同一の光波長パスのままで接続可能とするアダプテーション機能(*6)
図2 .ユーザ拠点間のオンデマンドな光波長パス接続における機能要件
そして現在、実環境のファイバ長や損失レベルなどの様々な条件下で動作することを実証するために、首都圏でフィールド実証を開始しました。なお、本フィールド実証では、IOWN GFの成果に加えて、柔軟かつ相互接続性に優れたオープンな光伝送システムを促進する団体であるOpen ROADM MSAやTelecom Infra Project Open Optical & Packet Transport(*7)の成果も積極的に活用していきます。
今回のフィールド実証で得られた知見は、2023年度以降に予定されているIOWN GFにおけるアーキテクチャ策定活動に反映させながら、上記機能を搭載した製品の世界市場での導入を促すとともに、任意の拠点間でオンデマンドに光波長パスを提供するサービスの早期実現をめざします。
4.高速・低電力消費光トランシーバ向け光電融合デバイスの開発体制強化
APNサービスにおける大容量低遅延通信をより低電力消費に実現するため、光トランシーバ向け光電融合デバイスの開発体制を強化します。その一環として、高性能アナログ集積回路設計の経験が豊富な「fJscaler Inc.」(米国オレゴン州)をNELにより子会社化いたしました(*8)。今後はNELによる開発を推進し、2023年度以降のAPNサービスへの導入をめざします。
5.今後の展望
使用可能な光波長帯を拡大することでより多数の、より大容量な光波長パス通信を実現できるようにするとともに、5GやBeyond 5Gのモバイル通信サービスのための無線アクセス網との統合的な制御を実現し、大容量・低遅延・低電力消費な通信を固定、移動の双方で実現することをめざします。
<用語解説>
*1 IOWN Global Forum
これからの時代のデータや情報処理に対する要求に応えるために、新規技術、フレームワーク、技術仕様、リファレンスデザインの開発を通じ、シリコンフォトニクスを含むオールフォトニクス・ネットワーク、エッジコンピューティング、無線分散コンピューティングから構成される新たなコミュニケーション基盤の実現を促進する新たな業界フォーラム。
https://iowngf.org/
*2 Open APN
IOWN GFにてオープンにアーキテクチャ策定が行われているフォトニクス技術をベースとした革新的ネットワーク。
https://www.rd.ntt/iown/
*3 NTT R&Dフォーラム Road to IOWN 2022
URL:
https://www.rd.ntt/forum/
*4 光波長パス
光トランシーバ間で特定の波長を用いて接続されたコネクション。光トランシーバ間で波長を占有することで低遅延・大容量の通信が可能。
*5 Open ROADM MSA
ROADM(Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexer)システムをベンダ間で相互運用できるようにするためのインタフェースや、仕様を定義しているMSA(Multi Service Agreement)。
http://openroadm.org/
*6 アダプテーション機能
対応する波長帯の異なる複数の光ファイバ間を、光波長パスのまま電気変換することなく接続することを実現する機能。
*7 Telecom Infra Project Open Optical & Packet Transport
光ネットワークやIPネットワークにおけるオープンな技術、アーキテクチャ、インタフェースを定義することを目的としたプロジェクト。
https://telecominfraproject.com/oopt/
*8
https://www.ntt-electronics.com/new/information/2022/11/investment_in_fJscaler.html