フローリストの人材不足と技術レベル差が課題の花業界/技術レベルをバッジで見える化、年功序列主義から実力主義へシフト
花と緑に関する事業を展開する第一園芸株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役社長:伊藤昇、三井不動産グループ)は、フローリストの人材不足と技術レベル差が課題の花業界で、フローリストの育成と離職防止への取り組みとして社内教育機関「第一園芸アカデミー」を2019年に発足しました。発足から4年、試行錯誤しながら運営し続けた結果、発足前と比べフローリストの離職率が半減した取り組みをご紹介します。
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花きの出荷額はピーク時から約40%減 花離れが進み年々縮小する生花マーケット
花は生活に彩りを添えてくれるアイテムです。しかし、花きの産出額は減少傾向にあり、1998年の6,300億円をピークに減少が続き、2017年では3,700億円と約40%減少しました。また、1人当たりの年間購入額も年々減少し花離れが進んでいます。さらに、コロナ禍でイベント・宴会等の中止や延期が相次いだことで市場取扱金額も大きく下落。花業界の生き残り競争は激化しています。
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フローリスト不足が課題 技術の属人化で店舗や個人の技術差も生じ始める
花屋は「華やかできれい」というイメージと実際の仕事の過酷さのギャップが大きい上、花を扱う技術の習得には長い時間がかかるため、一定以上の技術を持つ人材が常に不足しています。コロナ禍のウェディング施設等の雇控えの影響で、未経験者はコロナ前よりも集まるようになったものの、技術力のある経験者は簡単には集まりません。3月の送別シーズンや5月の母の日などの需要が拡大するシーズンは毎年人手不足という課題を抱えています。
さらに、店舗では「お客様の要望に応えて、その日に入荷した花でその場でブーケを作る」という業務が一般的なため、画一的な手順やマニュアルも存在せず技術は属人化されています。また、技術力の高い人ほどこのような技術を要する業務に時間を割くため、専門的な技術を他フローリストに共有する余裕がないという課題もあります。第一園芸でもフローリストの教育は各店に任せていましたが、店舗や個人によって技術の差が生まれ始めていました。
今後ますます競争が激化する中で生き残っていくためには、社員のモチベーションを維持し離職防止に努めながら、会社全体の技術を底上げし優秀なフローリストを育てていく必要がありました。
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技術を見える化し実力主義へ転換 社内教育機関「第一園芸アカデミー」発足
そこで第一園芸では、全国のショップやフラワースタジオに勤務するフローリスト全員(約170名)を対象に、社内教育機関「第一園芸アカデミー」を2019年に発足しました。第一園芸アカデミーでは、これまで属人化されていた技術のノウハウをマニュアル化し研修を実施。また、技術試験を導入しその結果によって等級をつけ、各自の技術レベルを見える化する取り組みを行い、技術力の底上げを行いました。
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「第一園芸アカデミー」概要
①属人的だった技術ノウハウをマニュアル化。トップデザイナーによる研修を実施
これまで属人化されてきた花の扱い方やデザインに関する技術のノウハウを第一園芸ルールとしてマニュアル化し、それを基にトップデザイナーが研修を実施。日本一のフローリストである第一園芸のトップデザイナーの新井光史や、一流のフローリストであるOBなどが講師を務め技術を継承する。
②年24回の技術試験を実施
受講者に自らの技術やステージを認識させるため、技術試験を年24回実施。受験者全員が同じ花と花器を使い、それぞれフリースタイルでいける形式。枝ものの使い方、花の使い方、所作などが試験官に細かくチェックされる。横並びで同じ課題に挑むため、他者と比べられることによる競争意識も生まれる。
試験の様子
③等級バッジを導入し技術レベルを見える化
技術試験の結果に応じて等級がつけられ、2級以上にはバッジが与えられる。等級で色分けすることによりスタッフの技術レベルが一目でわかるようになった。現在、特級0人、1級5人、2級33人、それ以下は、3級68人、4級34人、5級3人。店頭に立ち接客できるのは原則3級以上。
第一園芸アカデミーバッジ/左から、特級・1級・2級
④人事制度を整備しキャリアパスを明示
従来、優秀なフローリストは店長等の管理職に登用されることがほとんどだったが、管理職以外のデザイナーのような技術職へキャリアを積む人事制度を整備。
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実力主義へシフトすることに現場では不安も
一方、運営する中で不安の声もあがりました。これまで現場では年功序列主義が当たり前となっていましたが、横並びで試験を行い各自に等級をつけることで個人の技術力の差が顕在化し、その結果軋轢を生むこともあり、「実力主義」へシフトすることに対する不安や不満が生じました。
ただ、花業界で生き残っていくためには、フローリストそれぞれの技術を見える化し、技術力とモチベーション向上を図ることが必要です。現場を管理する店長と根気よく対話を重ね、第一園芸アカデミーの必要性や重要性を理解してもらいました。
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フローリストの離職者が半減 コンテストグランプリ受賞者も
これらの活動を4年間継続した結果、徐々にフローリストの技術も向上し、2020年9月に行われたコンテスト「Flower Art Award 2020 in TOKYO MIDTOWN」では、トップデザイナーとペアを組んだ受講者のフローリストがグランプリを受賞しました。
Flower Art Award 2020 in TOKYO MIDTOWNグランプリ受賞 保屋松(ほやまつ) 千亜紀・新井 光史ペア
また、第一園芸アカデミー発足前の数年と比較すると、フローリストの離職者が半減するという結果にもつながりました。第一園芸アカデミーを通じて技術を磨き、それぞれのキャリアパスが明確になったからではないかと考えています。
昨今の人材不足や、属人化され技術レベルにバラつきが生じていた課題に対し、第一園芸アカデミーでの技術のマニュアル化と研修、試験の導入により技術レベルを見える化することで、全社の技術力を底上げし、これらの結果につなげることができました。将来的には、フローリストへの教育プログラムとして外販することも検討していく予定です。
第一園芸ではこれからも124年間培ってきた技術や知識を継続的な研修と試験でスキルを保持し、会社の価値を上げ続けて、花とみどりのプロフェッショナルとして花き業界のトップランナーであり続けます。
■取材対象者
新井 光史
フローリスト日本一を決めるジャパンカップで内閣総理大臣受賞した第一園芸のトップデザイナー。
第一園芸アカデミーでは特別講義や試験官などを担当。デザイナーとして技術を伝承することの大切さ・難しさやコンテストに向けての心構え等のコメントがとれます。
志村 紀子
“自分がうけて気持ちの良いサービス”と“ヒールで臨む、凛とした花いけのスタイル”がモットーのデザイナー。
第一園芸アカデミーでは特別講義や試験官などを担当。一流ホテルでの経験が豊富で現場と講師の両目線での話ができます。構え等のコメントがとれます。
村上 功悦
新井の花いけを見て第一園芸に入社した若手のホープ。4月に開催されるコンテストにも新井と一緒に出場予定。
生徒として教育を受ける立場、社内審査を通過してコンテストに出場する立場からのコメントがとれます。
<今後の第一園芸アカデミーの取材機会>
年に約30回の試験を実施しております。普段の花屋では目にすることが無いような、決められた時間・寸法で、丸や三角などの図形を花を使って作成する様子が見どころです。受講生の花に向き合う真剣な姿勢や審査員の真剣な採点の様子もご取材いただけます。(次回は2022年7月開催予定。)
■第一園芸株式会社 概要
第一園芸は、花と緑のプロフェッショナルとして創業124年を迎える、三井不動産グループの企業です。店舗やオンラインショップでの個人/法人向け商品の販売、婚礼装花、オフィスビルや商業施設などの都市緑化や公園・庭園などの造園・管理を手がける緑化事業、季節の空間装飾事業など、幅広い事業を展開しています。今後も第一園芸は、花と緑に囲まれ豊かで潤いのある、そして持続可能な社会の実現を目指して挑戦しつづけます。
所在地:東京都品川区勝島1丁目5番21号 三井物産グローバルロジスティクス勝島20号館
代表者:代表取締役社長 伊藤昇
創業:1898年(設立1951年)
資本金:4億8千万円
株主:三井不動産株式会社(100%)
URL:
https://www.daiichi-engei.jp/
■三井不動産グループのSDGsへの貢献について
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/esg_csr/
三井不動産グループは、「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、人と地球がともに豊かになる社会を目指し、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を意識した事業推進、つまりESG経営を推進しております。当社グループのESG経営をさらに加速させていくことで、日本政府が提唱する「Society5.0」の実現や、「SDGs」の達成に大きく貢献できるものと考えています。
※本リリースはSDGs(持続可能な開発目標)の目標8「働きがいも経済成長も」の達成に貢献しています。