住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎)と神戸大学(学長:藤澤 正人)は共同で、日本国内の緑化樹木9種について高温下での生理的反応を明らかにしました。神戸大学大学院農学研究科・石井弘明准教授ら研究グループと実施した本研究の目的は、高温下での樹種別の耐性、順応性を解明し、都市の温暖化に適応した緑化を推進することです。研究結果は国際科学雑誌 「TREES」※に掲載されました。
※TREES:ドイツの学術誌。森林生理学や森林生態学分野の研究論文を専門としている。
試験に用いた9 種の樹木の中でヤマモモとシラカシの光合成能力は高温でも低下せず、また加温で育成することにより光合成能力はさらに上昇しました。つまり、高温への耐性が高いとともに高温環境に順応したといえます。その一方で、生息域が暖温帯から亜熱帯であるタブノキは加温で育成しても、高温環境へは順応しませんでした。よって生息域にとらわれず樹種ごとの高温耐性と順応性*のスクリーニングを行うことが重要です。
*高温耐性と順応性 高温耐性 高温環境で光合成能力の低下が小さいこと
順応性 高温環境で生育していく過程で高温耐性を獲得すること
■研究内容
1) 調査対象樹木 9種
・常緑高木 タブノキ、シラカシ ・落葉高木 ケヤキ、モミジバフウ
・常緑中高木 ヤマモモ、シマトネリコ ・落葉中高木 ハナミズキ
・常緑低木 ネズミモチ ・外来種 トウネズミモチ
2) 検証方法
①外部環境での地域間比較 北海道紋別市/茨城県つくば市
寒暖両地域(北海道紋別市/茨城県つくば市)で9 種の苗木を育成し、温度の違いによりどのような反
応が見られるかを比較
②温室環境内比較
温暖化を想定して温室内および温室内でさらに加温したビニールハウス内*(写真)で苗木を育成し、
温度の違いによりどのような反応が見られるかを比較
*5月から9月の5か月間苗木を入れて、日中は45℃を超える高温状態で実験
上記①、②の2 パターンの試験結果から葉の高温耐性や光合成の最適温度などを測定し分析、考察しました。
■今後の展開
住友林業と神戸大学は、温暖化という地球規模の課題に対して2019 年から共同研究しています。神戸大学大学院農学研究科では、熱ストレスに対する光合成機能の低下や、高木・老齢木の水分移動など、植物の生理的な反応を詳細に分析しています。住友林業筑波研究所では樹木など植物のもつ機能や特性、都市緑化、国内外の樹木の生産効率を高める育種・育苗・育林技術の研究等、研究技術開発を通じて木の可能性を追求し、木の価値を高めることに注力しています。
持続可能で美しい都市緑化を実現するためには高温への耐性が高く、高温条件に順応できる植物を選択・植栽する必要があります。住友林業と神戸大学は気候変動が顕著となる今後を見据え、更に多くの都市緑化樹木の高温環境下での反応、特性について検証を続けます。
住友林業グループは街を森にかえる「環境木化都市」の実現をめざす研究技術開発構想であるW350計画を推進しています。そこから派生する技術を基に事業活動で生み出す「経済的価値」に加えて、温室効果ガス排出の抑制、生物多様性の保全、労働安全や雇用確保など「環境的価値」と「社会的価値」からなる「公益的価値」を高める経営に取り組み、SDGs達成、脱炭素社会への実現に貢献していきます。
【参考】 論文情報 (
https://link.springer.com/article/10.1007/s00468-021-02119-6)
(1)タイトル
Tolerance and acclimation of photosynthesis of nine urban tree species to warmer growing conditions
DOI: 10.1007/s00468-021-02119-6
(2)著者
Hara Chinatsu, Inoue Sumihiro, Ishii H. Roaki, Okabe Momoko, Nakagaki Masaya, Kobayashi Hajime
(3)掲載誌
Trees: Structure and Function
以上