国立大学法人東京大学(総長:五神 真/以下、東京大学)と住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎/以下、住友林業)は9月に産学協創協定を結び、『木や植物の新たな価値創造による再生循環型未来社会協創事業』を推進していくことになりました。
本事業は、木の最先端科学研究を通じて「木の価値」を高め、木質資源の循環利用でサーキュラーバイオエコノミーシステム(循環型共生経済)を構築、持続可能で人と地球環境にやさしい未来社会を実現するのが目的です。事業期間は10年、事業費は10億円です。木や植物の経済的価値の向上、森林資源の公益的価値の顕在化、木や植物と人の関係の定量化、の3つの視点から多角的にグローバル・コモンズ※1に資する協創を推進します。また、人材育成およびベンチャー企業の協業にも取り組みます。
※1「グローバル・コモンズ」…気候や生物多様性など、人類と地球のすべての生命に必須の地球の諸システムのこと。
1.取り組み内容
(1) 共同研究の実施および社会連携講座の設立
東京大学の卓越した知見および先端科学技術と住友林業の木材・住宅産業の知見および森林経営の経験を統合し、共同研究や探索研究に取り組み、さらには社会連携講座を設置して包括的に本事業を推進します。
(1)木や植物の経済的価値の向上:バイオマス科学をはじめとする木の科学によって、これまでの木材利用を越える新たな経済的価値を創出
・木造大型建築に関する研究
・木材成分から高性能なバイオプラスチックを創製する研究
・ナノテクノロジーの利用による高性能部材を開発する研究
・木材及び植物のゲノム選抜育種に関する研究
(2)森林資源の公益的価値の顕在化:多角的な視点から森林資源の公益的価値を可視化することで、有益な木材の計画的・安定的な供給に貢献
・土壌や立地環境が樹木の成長に与える影響の研究
(3)木や植物と人の関係の定量化:木が人に及ぼす安らぎ効果や都市緑化と生活など、木や植物と人との関係性を追求した価値の創出
・木が及ぼす快適性や知的生産性の効果の研究
(2) 未来社会協創基金(プレミアム基金)の設立
東京大学の未来社会協創基金の中に、住友林業の寄付でプレミアム基金を新設します。次の100年に向けて森を起点としたサステナブルな産業構造を構築するため、必要な学術研究や人材を育成し、その成果を社会に発信します。
(3) 人材育成・オープンイノベーションの取り組み等
SDGs達成に向けた課題解決できる人材育成、住友林業の持つ海外拠点を活かしたグローバルインターンシップ、社会人のリカレント教育、住友林業と東京大学関連ベンチャー企業との協業などにも取り組みます。
(4) 運営方法
「住友林業・東京大学『緑の再生循環型 未来社会協創事業』運営協議会」を東京大学内に設置し、両者が共有する課題の解決に向けて共同研究やプレミアム基金を実施します。具体的な事業の企画・予算・運営などについては同運営委員会が協議します。
2.背景
人類は地球温暖化がもたらす気候変動や海洋マイクロプラスチック問題などの環境破壊・資源の枯渇・生態系の破壊など、様々な課題に直面しています。これらの課題解決のためには、産業構造を化石資源利用型からバイオマス利用型へと変革する必要があります。日本では戦後の拡大造林により植林された木が本格的な伐採適齢期を迎えていますが、十分に活用されていません。森林資源の活用を促進し、持続可能な循環型共生経済を構築することが求められています。
東京大学は「地球と人類社会の未来に貢献する『知の協創の世界拠点』の形成」という構想を掲げ、人を含めた生物が共存共生する未来の地球を実現するため、「人間活動が引き起こした問題を、その活動を維持しながら解決する」という難問に正面から取り組んでいます。
住友林業は「木を活かすことで豊かな社会の実現に貢献する」という経営理念に基づき事業展開しています。豊かな生態系を支え、森林機能を維持・向上させる森を育成し、生物多様性の保全や木の積極的活用を図るとともに、新たな価値の創造に取り組んでいます。東京大学が持つ最先端の研究成果と、住友林業の330年にわたる森林経営の経験および木材・住宅産業の知見を活かし、森林資源の循環型共生経済を構築し新たなビジネスを創出することを目指します。
3.今後の展開
具体的な研究テーマは、東京大学、住友林業、および専門家によるラウンドテーブルディスカッションを定期的に開催して決定いたします。そこで新しい研究プロジェクトを立ち上げるなど、柔軟に展開を図っていきます。得られた成果は両者が共通して掲げる課題解決に向けてさらに展開を進めます。
以上
【参考資料】
・協創事業全体のイメージ
・サーキュラーバイオエコノミーシステム(循環型共生経済)のイメージ