欲しい情報をAIから即得られる時代に「情報ノイズ」に触れる価値

〜書籍ダイジェストサービスの継続閲覧と、認知的柔軟性・コミュニケーション自信・ワークパフォーマンス改善との関連を確認〜

株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹、以下当社)は、株式会社情報工場(本社:東京都港区、代表取締役社長:藤井 徳久、以下情報工場)と共同で、書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を活用し、個人の専門・関心領域の外にある多様な知識や視点への継続的な接触が、認知や行動、ワークパフォーマンスに及ぼす影響を検証する実証実験を実施しました。

4週間の実証実験の結果、SERENDIPの利用後には、認知的柔軟性、異なる専門を持つ人とのコミュニケーションに対する自信、革新的なアイデアを職場に導入しようとする意欲の向上が確認されました。また、記事の閲覧数が多い参加者ほど、専門外情報に対する認知負荷が低下し、知識共有および自己評価によるワークパフォーマンスの改善量が大きいという関連が確認されました。

今後も両社は、生成AIや情報推薦によるパーソナライズが進む時代において、あえて専門外・関心外の情報、すなわち「情報ノイズ」に触れることが、人の視野や創造性、組織における知識共有や変革行動にどのような価値をもたらすのかを検証し、新たな人材育成・組織開発のあり方を支援することにつなげていきます。

【実験サマリー】 AI時代における多様な知への接触が、視野·コミュニケーション·変革行動·仕事の成果をどう変えるか

背景
近年の生成AIやSNS環境を支えるデジタルテクノロジーは、ユーザーの過去の嗜好に過剰に同調することで、人間が本来持つ「見たいものしか見ない」という確証バイアスを一層増幅させている懸念があります[1] [2]。

利用者の関心や行動履歴に合わせて情報を最適化する技術は、情報のアクセス効率性を高める反面、個人の価値観に合う情報だけに囲まれる状況を作り出しています。「フィルターバブル」とも呼ばれるこうした関心外の情報からの疎外や視野の固定化は私生活における思想の極性化等だけでなく、職域においては組織のイノベーションを妨げる要因として指摘されています[3]。

我々は、個人の専門・関心領域の外にあり一見すると現在の業務に直接結びつかない多様な知識や視点を「情報ノイズ」と定義しました。その上で、ビジネス、産業、社会課題、サイエンス、テクノロジー、リベラルアーツなど、幅広い領域の書籍の新規性や読みどころを紹介するサービス(SERENDIP)[4]を利用し、パーソナライズされていない異分野の知見へ継続的に接触することが、認知(視野の広さ、情報に対する態度等)および実際の行動(情報共有、ワークパフォーマンス等)にどのような変化をもたらすかを検証しました。

[1]Du, Y. (2025). Confirmation Bias in Generative AI Chatbots: Mechanisms, Risks, Mitigation Strategies, and Future Research Directions. arXiv preprint arXiv:2504.09343.
[2] Eg, R., Tønnesen, Ö. D., & Tennfjord, M. K. (2023). A scoping review of personalized user experiences on social media: The interplay between algorithms and human factors. Computers in Human Behavior Reports, 9, 100253.
[3] Zhao, S., Jiang, Y., Peng, X., & Hong, J. (2021). Knowledge sharing direction and innovation performance in organizations: do absorptive capacity and individual creativity matter? European journal of innovation management, 24(2), 371-394.
[4] https://www.serendip.site/



方法
実験には当社従業員35名(最終解析対象25名)が4週間参加し、週4本程度配信される書籍ダイジェスト記事を、ノルマなく閲覧しました。本実験では、SERENDIPの利用によって生じる認知・態度・行動の変化を多面的に捉えるため、①視野の広さ、②知的好奇心と学習志向、③専門外を含む情報態度、④周囲や社会との接続、⑤総合的アウトカムの5領域を設定し、各領域について複数の心理・行動指標を開始前、2週間後、4週間後に測定しました。主な評価指標は以下の通りです。

測定領域 主な指標・項目例
視野の広さ 認知的柔軟性、他者視点、知的謙虚さ
知的好奇心と学習志向 知的好奇心、成長マインドセット、学習意欲
専門外を含む情報態度 情報探索・評価に関する自己効力感、専門外情報への認知負荷・ノイズ感、初対面・異分野の相手とのコミュニケーション自信
周囲や社会との接続 仕事の意味・社会への視線、境界連結行動、変革マインド、知識共有・巻き込み行動、組織志向
総合的アウトカム ワーク・エンゲイジメント、自己評価ワークパフォーマンス

結果
SERENDIPの4週間の利用を通じて、参加者全体では、認知的柔軟性の向上、専門外の相手とのコミュニケーションに対する自信の向上、組織内で革新的なアイデアを実現しようとする意欲の向上が確認されました(Fig. 1)。

さらに、実験期間中の記事閲覧量に着目すると、多くの記事を閲覧した参加者ほど、専門外情報に対する認知負荷が低下し、知識共有行動および自己評価ワークパフォーマンスの向上幅が大きいことが示されました(Fig. 2)。

これらの結果から、専門・関心領域の外にある「情報ノイズ」への接触は、まず個人の認知や情報・他者への向き合い方に変化をもたらし、継続的な閲覧に伴って、知識共有やワークパフォーマンスといった行動・アウトカムにも関連する可能性が示唆されました。


結果1:情報ノイズへの接触機会を提供した対象者全体に与えた主な影響~認知面の変化

① 視野の広がり (Fig. 1a)
② 専門外への情報態度 (Fig. 1b)
③ 組織内での変革 (Fig. 1c)


Figure 1|SERENDIP利用4週間における認知・態度・行動指標の縦断的変化
参加者25名を対象に、SERENDIP利用前(ベースライン)、利用2週間後、利用4週間後の3時点で質問紙調査を実施した。各パネルは、7件法尺度に基づく平均値(点)と95%信頼区間(エラーバー)を示す。

a. 視野の広さ:認知的柔軟性尺度「選択肢の認識」(「どんな状況においても自分には多くの行動の選択肢がある」)。4週間の上昇度8.5%、効果量d=0.45、P<0.01。
b. 専門外を含む情報態度:異文化コミュニケーション自信(「異なる専門や文化を持つ人との会話でも、たいていとても落ち着きリラックスしている」)。上昇度8.8%、効果量d=0.419、P<0.05。
c. 周囲や社会との接続:変革マインド「アイデア実現」(「革新的なアイデアを職場環境に体系的に導入しようとしている」)。上昇度11.2%、効果量d=0.365、P<0.01。

反復測定分散分析の結果、a–c のすべてでベースラインから4週間後にかけて有意な上昇が認められ、c では 2週間後から4週間後にかけても有意な上昇が認められた。


結果2:情報ノイズ(専門外の記事)閲覧数と変化量の関係
記事の閲覧数が多い人ほど、行動面を含む以下の項目の変化が大きくなりました。
① 専門外を含む情報態度(Fig. 2a)
② 周囲や社会との接続(Fig. 2b)
③ アウトカム(Fig. 2c)



Figure 2 | SERENDIPの閲覧量と認知・行動・ワークパフォーマンス指標の変化量との関係
参加者ごとの総閲覧記事数(本)と、SERENDIP利用前(ベースライン)から利用4週間後までの各指標の変化量(4週間後-ベースライン)との関係を示す。各点は参加者1名を表し、実線は傾向を示す回帰直線である。

a. 専門外を含む情報態度: 専門外情報の認知負荷(「自分の専門外の情報を理解するのは、かなり労力がかかると感じる」)。総閲覧記事数が多いほど変化量は低下し(順位相関係数 ρ = −0.527, P < 0.01)、専門外情報に対する認知負荷が軽減する傾向が認められた。なお、本項目は逆転的に解釈されるため、変化量の低下は改善を意味する。
b. 周囲や社会との接続: 知識共有(「有益だと思った情報は、チーム内で紹介するようにしている」)。総閲覧記事数が多いほど変化量は大きくなり(ρ = 0.424, P < 0.05)、知識共有行動の高まりが認められた。
c. アウトカム: 自己評価ワークパフォーマンス(「過去2週間(14日間)の間の勤務日におけるあなたの総合的なパフォーマンスは優れている」)。総閲覧記事数が多いほど変化量は大きくなり(ρ = 0.484, P < 0.01)、自己評価ワークパフォーマンスの向上が認められた。

総じて、SERENDIPの記事を多く閲覧した参加者ほど、専門外情報に対する心理的負担が低下し、知識共有行動およびワークパフォーマンスの向上が大きい傾向が示された。閲覧記事数に伴うスコア上昇量から試算すると、月間配信記事をすべて閲覧した場合、ワークパフォーマンスは尺度幅の約7.6%改善し、効果量は d = 0.318 と見積もられた。
* P < 0.05、** P < 0.01。uncorrected.

記事の閲覧数に伴うスコアの上昇量から試算すると、月間配信記事をすべて閲覧した場合、ワークパフォーマンスが尺度幅の約7.6%(効果量d=0.318)改善することが期待されます。また、一人当たりの投資費用に対する改善効果は、一般的な企業の健康経営施策にも匹敵する規模といえます。

これらの結果は、従業員の関心に合う情報だけを効率的に提供するのではなく、あえて「情報ノイズ」に触れる機会を組織内に設けることが、認知的柔軟性やコミュニケーションに対する自己効力感を高め、革新的アイデアの実現やワークパフォーマンスの改善を後押しする可能性を示しています。

まとめと今後の展望
本実験では、SERENDIPを通じて専門・関心領域外の多様な情報に継続的に触れることが、従業員の認知・態度・行動にどう関係するかを検証しました。4週間の利用を通じて、認知的柔軟性や異なる専門を持つ人とのコミュニケーションへの自信が高まり、革新的なアイデアの実現意欲や知識共有行動にもポジティブな変化が認められました。また、閲覧記事数が多い参加者ほど、専門外情報への認知負荷が低下し、知識共有や自己評価ワークパフォーマンスの向上幅が大きい傾向が確認されました。

これらの結果は、異分野の知識への接触が単なる知識量の増加にとどまらず、未知の情報や他者に向き合う心理的ハードルを下げ、知識共有や新しいアイデアの実践につながる可能性を示唆します。生成AIや推薦アルゴリズムによる情報最適化が進む中、一見すると仕事や関心に直接結びつかない“情報ノイズへの偶発的な接触”を意図的に取り戻すことが、思考の柔軟性や異分野へのアクセス、組織の変革行動を支える新たな人材・組織開発の方法となる可能性があります。

一方、本実験は単一企業・少人数・4週間・対照群なしの探索的研究であり、多くの指標は自己報告です。したがって、観察された変化を因果効果として断定することはできません。我々は今回の研究を端緒として今後も「AI・フィルターバブル時代に、人間に本当に必要なノイズとは何か」を探究し、自社やお客様の視野や事業創造性を広げる情報環境を実現できるよう支援していきます。



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組織名
株式会社NTTデータ経営研究所
ホームページ
https://www.nttdata-strategy.com/
代表者
山口 重樹
資本金
45,000 万円
上場
非上場
所在地
〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-9JA 共済ビル9階・10階
連絡先
03-3221-7011

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