弘前大学(青森県弘前市)大学院医学研究科 分子病態病理学講座(水上 浩哉 教授、類家 英史 助手)を中心とする医学研究科研究グループは、岩木健康増進プロジェクトデータを用いて痛覚に関連する新しい一塩基多型(SNP)を解明しました。本研究成果は、2026年7月27日付で神経疾患の病態解明を扱う国際的神経科学ジャーナルである『Neurobiology of Disease』にオンライン掲載されました。
■本件のポイント
弘前大学大学院医学研究科 分子病態病理学講座(水上 浩哉 教授、類家 英史 助手)を中心とする医学研究科研究グループは、岩木健康増進プロジェクトデータを用いて痛覚に関連する新しい一塩基多型(SNP)注1を解明しました。
痛覚は皮膚における細い神経により感知されます。糖尿病における神経障害では痛覚の変化が早期から明らかになりますが、その程度には個人差があります。そこでみられる個人差に関与する遺伝要因(SNP)を2017(平成29)年の岩木健康増進プロジェクトのデータを用いて検討しました。
本研究においてSNPのrs482912が痛覚と相関があることが解明されました。rs482912はLAMP3というタンパクをコードする遺伝子の変異です。そのSNPを有する方では、痛覚が鋭敏であり、糖尿病や前糖尿病状態、肥満に対し痛覚が維持されます。しかしながら、高血圧にはその効果が少ないことが解明されました。
さらに、剖検注2皮膚組織を用いた評価により、このSNPにより皮膚に軽度の炎症注3が惹起され、痛覚の維持をもたらしていることがわかりました。この研究によりLAMP3のSNPにより、皮膚に軽度の炎症がもたらされ、痛覚の維持に関与するという新たな経路の解明がなされました。
この成果は神経疾患の病態解明を扱う国際的神経科学ジャーナルである『Neurobiology of Disease』に2026(令和8)年7月27日(月)付でオンライン掲載されました。
■本件の概要
糖尿病の合併症の一つである神経障害はその合併症のなかでも頻度が高く、早期に発症します。その症状に痛覚の低下があります。しかしながらその程度は個人差があります。たとえ血糖注4管理がよくても神経障害を発症する場合がありましたが、その理由はこれまで不明でした。
そこで、2017(平成29)年度の岩木健康増進プロジェクトのデータを利用し、痛覚の個人差に関与するSNPを検索しました。その結果、LAMP3遺伝子のミスセンス変異注5(rs482912)が痛覚の程度に関連する候補として同定されました。その遺伝子型のCT/CC型保有者はTT型に比べて痛覚が鋭敏で、血糖値の悪化、HbA1cの高値、肥満などの代謝ストレス下でも痛覚が維持されました。
一方で、高血圧ではCT/CC型保有者でも痛覚が維持されず、鈍麻になりました。さらに、皮膚組織における単一細胞RNA解析注6により、LAMP3陽性の成熟樹状細胞注7が炎症、抗原提示、神経免疫シグナルに関連する経路を活性化していることが示されました。剖検標本における皮膚組織解析では、CC型でLAMP3陽性細胞やCD8陽性T細胞注8の皮膚における数が高くなっておりましたが、神経線維の数そのものには差がみられませんでした。
これらの結果は、LAMP3のSNPが代謝ストレス下における痛覚感受性の個人差に関与し、初期の感覚変化における神経免疫相互作用の重要性を初めて明らかにしました。
■専門用語の解説
(注1)一塩基多型(SNP):DNA配列の1か所の塩基(A、T、G、C)の違いによる遺伝的な個人差です。病気のかかりやすさや体質の違いに関与することがあります。
(注2)剖検:主に病院で亡くなった方の臓器や組織を詳しく調べる検査です。病気の原因や病態の解明、研究に役立てられます。
(注3)炎症:けがや感染などに対して体を守るために起こる生体反応です。発赤、腫れ、痛みなどを伴い、慢性的な炎症はさまざまな病気に関与します。
(注4)血糖:血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度を指します。血糖値が高い状態が続くと糖尿病やその合併症の原因となります。
(注5)ミスセンス変異:遺伝子の変化によってタンパク質を構成するアミノ酸が別のアミノ酸に置き換わる変異です。タンパク質の働きに影響を与える場合があります。
(注6)単一細胞RNA解析:細胞を1個ずつ解析し、それぞれの細胞でどの遺伝子が働いているかを調べる最新の解析技術です。組織内の多様な細胞の特徴を詳しく理解できます。
(注7)成熟樹状細胞:免疫細胞の一種で、体内に侵入した病原体などの情報をT細胞に伝え、免疫応答を開始する役割を担います。成熟樹状細胞はその機能が十分に発達した状態の細胞です。
(注8)CD8陽性T細胞:免疫細胞の一種で、ウイルスに感染した細胞や異常な細胞を攻撃・排除する働きを持ちます。「キラーT細胞」とも呼ばれます。
■論文情報
雑誌名:Neurobiology of Disease
タイトル:Peripheral Pain Threshold, Glycaemic Status, and LAMP3 Genetic Variation: A Community-Based Analysis
著者名:類家 英史*1、水上 浩哉*1#、王 朕超*1、櫛引 英恵*1、石田 水里*2、遅野井 祥*1,3、樽澤 武房*1,3、佐々木 崇矩*1、涂 逸*1、小笠原 早織*1、板矢 晶子*4、阿部 純弓*4、熊谷 玄太郎*5、玉田 嘉紀*6、藤田 征弘*3、三上 達也*7、伊東 健*8、石橋 恭之*5、袴田 健一*4、村下 公一*2、中路 重之*7
*1 弘前大学大学院医学研究科 附属バイオメディカルリサーチセンター 分子病態病理学講座
*2 弘前大学健康未来イノベーション研究機構
*3 弘前大学大学院医学研究科 内分泌代謝内科学講座
*4 弘前大学大学院医学研究科 消化器外科学講座
*5 弘前大学大学院医学研究科 整形外科学講座
*6 弘前大学大学院医学研究科 附属健康・医療データサイエンス研究センター 医療データ解析学講座
*7 弘前大学大学院医学研究科 附属教育研究施設 健康未来イノベーションセンター 先制医療学講座
*8 弘前大学大学院医学研究科 附属バイオメディカルリサーチセンター 分子生体防御学講座
# 責任著者
▼本件に関する問い合わせ先
弘前大学大学院医学研究科 附属バイオメディカルリサーチセンター
分子病態病理学講座 教授 水上 浩哉
住所:青森県弘前市在府町5番地
TEL:0172-39-5025/5026
メール:hirokim@hirosaki-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/