*本リリースは、AUDI AG配信資料の翻訳版です。
- AUDI AGロジスティクス部門とFormula 1®プロジェクトの相乗効果
- アウディ サプライチェーン責任者であるディーター ブラウンと、F1部門の同僚であるビョルン ブリックヴェデ、およびラース ロラックとの対談
- モータースポーツのパフォーマンスを支えるロジスティクス、市販モデル生産を推進する原動力
(ドイツ本国発表資料)2026年6月18日、インゴルシュタット/ヒンヴィール/ノイブルク アン デア ドナウ:20以上のレースが開催されるレースウィーク、グローバルなサプライチェーン、タイトなスケジュール、地政学的緊張、そしてあらゆるパーツを予定通りに適切な場所に届けるという絶え間ないプレッシャー。F1は、高性能な技術研究の実験場であるだけでなく、ロジスティクスにおける極限のテストの場でもあります。Audi Revolut F1 Teamがサーキットで直面する多くの課題は、アウディのサプライチェーンにとっても、規模こそ異なるものの馴染みのあるものです。物流のエキスパートたちによるディスカッションを通じて、両者が互いに何を学び合えるかが明らかになりました。
アウディ サプライチェーン責任者 ディーター ブラウン(Dieter Braun)は「会社に必要なものをひとつあげるとすればスピードです。それはサーキット上だけでなく、意思決定においても同じです」と述べています。これこそがまさに最大の強みであり、F1では、迅速な意思決定、明確な責任、そして正確な準備によって何を達成しうるのかがわかります。
パフォーマンス要因としてのロジスティクス
F1において、ロジスティクスはコース上のパフォーマンスを直接左右します。時間通りにサーキットに届かないものは一切使用することができません。輸送コストが高すぎれば、他に回せる予算が少なくなります。スイスのヒンヴィールに拠点を置くAudi Revolut F1 Teamのロジスティクス責任者 ビョルン ブリックヴェデ(Björn Brickwedde)は「ロジスティクスで削減した費用はすべて、開発やパーツに投資することができます」と説明しています。
F1のコストキャップの下では特に重要で、効率的なロジスティクスはパフォーマンスを左右する要因となります。ブリックヴェデは具体的な例として、返送物流の効率化、スペアパーツ在庫の最小化、スマートな輸送ルート計画、そしてアップデートパーツやコンポーネントを最も低コストで発送できる拠点の選定などを挙げています。「削減したすべての費用は開発に回す、それがラップタイムの向上へと繋がります」。
一方で、アウディのサプライチェーン部門は、車両の注文から顧客への納車に至るまで、顧客注文プロセス全体を設計、管理しています。この複雑なシステムには、約60カ国にまたがる数千社のサプライヤーが、1日あたり約100万個のパーツの流れを管理しています。この部門横断的なコアプロセスを最適化することは、コスト削減、在庫資産の圧縮、あるいはCO2 排出量の削減という面で大きな余地を生み出します。ブラウンは「私たちは指揮者としての役割を果たすことで、数億ユーロの収益を創出し会社に貢献できます」と述べています。
その規模感を示す例が一つあります。アウディ サプライチェーン部門は、単に統括を行うだけでなく、危機管理も行い、経験豊富な従業員がチームとして、短期的な課題を克服しています。ブラウンは、最後のAudi Q2の生産に関わる状況について語っています。代替のきかないディスプレイを積んだコンテナが、中国からドバイ経由でドイツへ輸送されていた際、中東で戦争が勃発しました。「海運会社は、私たちに相談することなく、突然インドの港へ寄港し、すべてのコンテナを陸揚げすることを決定しました」とブラウンは話します。商品はインド経由では間に合わなかったため、アウディはスリランカとトルコを経由する迂回ルートを手配しました。ブラウンは、「パーツはそれらが必要とされる半日前に到着しました。もし間に合わなければ、2,000台のAudi Q2を完成させて納車することはできなかったでしょう」と語ります。
ブリックヴェデが語る、メルボルンで開催されたFormula 1のシーズン開幕戦に関するエピソードも、これと非常に似ています。「開幕戦向けの追加輸送品は、チューリッヒからドバイ経由で輸送される予定でしたが、まさにその時に世界的な航空輸送の制限がおきました」と、キャンセルされた輸送ルートについて語ります。他のチームの貨物と同様に、重要なアップデートパーツも足止めされたのです。「私たちはF1 CargoおよびDHLとともに代替ルートを手配し、新しい通関書類を用意しました。関係者全員にとって神経をすり減らす試練でしたが、パーツは水曜日の夕方にメルボルンに到着し、現地の素晴らしいチームワークのおかげで、2台のマシンは最初のセッションまでに完全に組み上げることができました」。その結果、ロジスティクスチームは、Audi Revolut F1 Teamがモータースポーツの最高峰へのデビュー戦でいきなり初ポイントを獲得するための土台を築いたのです。
スピードはアウディ サプライチェーンにおける重要な要因
このレースシリーズは、量産モデルの製造においてはしばしば抽象的に捉えられがちな、迅速な意思決定の重要性を鮮明に浮き彫りにします。ブラウンは次のように述べています。「レースでは、戦略的な判断を誤ったとき、その影響を即座に実感することになります。たとえばピットレーンを出るタイミングが遅れたときなどです。アウディのビジネス視点では、意思決定の影響が現れるまでに時間がかかることが多いですが、その結果はレースと同様に深刻なものになり得ます。危機的な状況における決定の遅れは問題ですが、計画段階における決定の遅れも同様に問題であり、たとえば長期的な投資を伴う場合、その影響が大きいため、私のチームや関連部門にとって特に大きな挑戦となっています」。
F1への参戦は、この考え方を具体的に示すよい例です。ブラウンは、オンラインミーティングの背景画像にAudi R26を使用しています。それは、単にモータースポーツへの情熱からだけでなく、サプライチェーンにおいてもスピードが重要であるという組織全体に対するメッセージでもあります。F1は、適切なタイミングで実行される優れた解決策は、手遅れになってからの完璧な解決策よりも価値があることを示しています。
リヤウイングを機内持ち込み手荷物に入れなければならないとき
最もエキサイティングな事例は、計画と臨機応変な対応が交差する瞬間に生まれます。ブリックヴェデは、レース運営におけるパーツの限られた供給について、次のように語っています。「私たちはパーツの生産を非常に効率的に管理しています。これはコストキャップが一因でもありますが、私たちが本当に必要であると確信しているものだけをサーキットに持ち込むようにしているためです。予期せぬ事態が発生した場合は、その場で臨機応変に対応しなければなりません。緊急時には、パーツをできるだけ早くサーキットで使えるように、チームメンバーが自らの荷物に必要なコンポーネントを入れて運ぶこともあるのです。極端な場合には、リヤウイングのパーツを運ぶことさえあります」。
パワーユニットにおいても時間的余裕はほとんどありません。ノイブルク アン デア ドナウのAudi Formula Racingロジスティクス責任者 ラルス ロラック(Lars Rolack)は、マイアミでのレースウィーク中における、高電圧バッテリーの緊急返送について語ります。高電圧バッテリーは危険物であり、特別な通関および輸送規制があって、さらにノイブルクでの分析時間が限られているという条件の中で、わずか数日後には次のレースへとバッテリーを再び発送しなければなりませんでした。「バッテリーは月曜日の朝にノイブルクの施設に到着し、水曜日の夕方にはモントリオールに向かいました」。
アウディ サプライチェーン部門でのプロセスは一般的に予測しやすいものの、先見性と柔軟性の組み合わせは、依然として極めて重要な成功要因です。例えば、供給のボトルネックや、自然災害、あるいは地政学的混乱といった今やニューノーマルともいえる状況に直面した場合、重要性が高まります。ロラックは、F1プロジェクトに移る前は、AUDI AGのロジスティクス部門で働いていました。「計画業務をしていた経歴と経験は役に立ちましたが、レース物流は非常に即応性が求められるビジネスであり、私たちは皆、そのスピード感に極めて短期間でマインドセットを変えていく必要がありました」。アウディのサプライチェーン部門が、複雑な数理アルゴリズムも活用しながら、世界中の数千社にのぼる異なるサプライヤーと、多種多様なプロセスを管理しています。一方で、F1プロジェクトで重要となるのは、組織力と人的ネットワークです。ロラックは、「ここで何かが滞ったとき、私は本能的に電話を取ります。プロセスがシンプルで、チーム内のコミュニケーションラインが短いおかげで、問題を非常に迅速に解決することができます」と述べています。
レジリエンス:組織、チーム、人々
F1は、リアルタイムの環境下でレジリエンスを鋭く研ぎ澄まします。レーススケジュールの変更、輸送機関のキャンセル、輸送ルートの不確実性、そしてレース中の事故など、常に予期せぬ挑戦が突きつけられます。潜在的なリスクが予見できる場合、輸送サービスプロバイダーと事前に複数のシナリオを構築しておくことで、不測の事態が起きても物流ネットワーク全体が即座に最適かつ能動的なアクションを起こせる体制を整えています。
ディーター ブラウンは自身の視点から、レジリエンスは、組織のレジリエンス、チームのレジリエンス、そして個人のレジリエンスという3つのレベルで構成されていると説明します。特に新型コロナウィルス感染症の危機を通じて、アウディは明確な責任体制、レジリエンスのあるチーム、そして個々人のレジリエンスがいかに重要であるかを学びました。彼の結論は次のようなものです。「組織は、平時であっても危機的な状況においても、効果的に機能できるよう構成されていなければなりません」。
デジタル化とAI:双方にとってのメリット
アウディは人工知能に関して、その組織的規模と絶え間ないイノベーションへの追求により、F1のロジスティクスチームにとって学びの多い重要なインサイトを提供しています。ブラウンは、次のように述べています。「私たちは、AIにはかつてのインターネットと同じくらい大きな変化をもたらす可能性があると確信しています。そして、私たちの働き方を根本的に変えていくでしょう」。しかし、彼は明確な区別の重要性を強調しています。「大きなExcelスプレッドシートがすべてAIというわけではありません。私たちはAIを使わないデジタル化ソリューションも数多く導入していますが、それらも同様に大きな前進をもたらしています」。
ブラウンとそのチームは、組織の中で二つのアプローチを推進しています。一つは、ボトムアップアプローチで、シーケンスエラーの解決など、具体的な問題に対する的を絞った改善です。そしてもう一つは、トップダウンアプローチで、受注から納車までのプロセス全体を可視化し、AIの活用ポイントを体系的に検証します。ブラウンは、「AIの力を借りてこのプロセスを最適化することは、効率性の向上、計画精度の向上、そして成果の品質改善に対して極めて大きな効果をもたらします。その中で私たちは、新型モデルの立ち上げ計画や、多様なデータソースと過去の実績値を体系的に組み合わせることによる、高精度の装着率予測などに注力しています。AIはここから信頼性の高い予測を導き出すことができ、それこそがまさにAIがもたらす付加価値の本質なのです」と、説明します。
このアプローチは、F1プロジェクトにも活用できます。これまで、AIは主にヒンヴィール、ノイブルク、そしてビスターの拠点でバックグラウンドで使用されてきました。ロラックは、次のように述べています。「AIは、絶え間なく押し寄せるデータの処理に間違いなく役立っています」。物流自体におけるAI活用は、まだそれほど普及していませんが、活用に対する期待は明確に存在しています。「特に輸送管理の分野に関しては、大きな可能性があります」。
同時にブラウンは、盲目的に信頼するべきではないと警鐘をならします。「現時点では、批判的に検証することなく、AIにネットワーク全体の設計を任せるようなことは決してしません」。代わりに、業務をセクションごとに“細分化”し、結果を繰り返し確認すべきであると、彼は述べています。
後手に回ることなく、早期に行動を起こす
もうひとつの注力領域は、開発プロセスの初期段階からロジスティクスを組み込むことです。ブラウンは、製品デザインがその後のサプライチェーンにいかに大きな影響を与えるかについて、次のように説明しています。例えば、ある部品の形状によって、コンテナに収まるパーツの数が半分になってしまうこともあります。したがって、ロジスティクス部門は規定された事項を計画するだけでなく、制約条件を積極的に改善しなければなりません。ガイドラインを明確にし、インテリアデザインのような製品パッケージのバリエーションを最小限に抑え厳選するとともに、部品の標準化を計画的に進めて工数を削減したり、複雑性を管理しやすくし、サプライチェーン全体のプロセスを合理化することができます。F1チームは現在、貨物のスペースを可能な限り最小限に抑える最適化された輸送コンテナの開発に力を入れ、クリエイティブに取り組んでいます。
共有された学習システム
アウディとレーシングチームのロジスティクスチームは、規模こそ異なるものの、本質においては変わりません。どちらも複雑さを管理し、リスクを予測し、ネットワークを運営し、そして重要な局面で確実に成果を出さなければなりません。F1の環境は、これらの要求をさらに強くつきつけるとともに、世界中の何百万人もの観客の前でそのすべてを披露することになります。アウディにとって、これは二重のメリットをもたらします。F1プロジェクトは、企業のプロセス運用の専門知識、デジタル化の経験、そして組織としての強みにおいて恩恵が受けられます。また、サプライチェーン部門は、F1の現場で求められる意思決定のスピード、一貫性、そしてロジックから学ぶことができます。あるいは、ブラウンはこう締めくくります。「意思決定の中には、決断を先延ばしにして状況が好転するものばかりではありません」。