学校法人トヨタ学園 豊田工業大学(学長 中野義昭、愛知県名古屋市)大学院工学研究科 椎原良典准教授(研究代表者)、国立大学法人 大分大学(学長 北野正剛、大分県大分市)理工学部 岩下拓哉准教授、国立大学法人 豊橋技術科学大学(学長 若原昭浩、愛知県豊橋市)大学院工学研究科 足立望准教授、戸髙義一教授らは、テネシー大学・オークリッジ国立研究所のTakeshi Egami教授と共同で、不規則な構造を持つ金属ガラスの中に潜む変形核の正体が、協調して動く数十個の原子集団であることをシミュレーションで明らかにしました。本研究成果は、2026年2月13日(日本時間)Nature Springer社のオープンアクセス学術誌「Nature Communications」に掲載されました。
〇発表のポイント
「金属ガラス」は、原子が規則的に並ぶという金属結晶の常識が通じない異形の素材です。原子構造が不規則であるため変形の起点となる原子を特定できず、その正体は半世紀以上も謎のままでした。
研究者らは、変形のトリガーとなる原子群を特定できる独自手法「原子凍結解析」を開発しました。原子シミュレーションを通じて、金属ガラスの変形起点が数十個程度の原子集団からなる「協調運動」であることを見出しました。
本成果は、未だ謎が多いガラス変形メカニズムの“はじまり”を解明したもので、金属ガラスに留まらない多様な不規則材料において、変形・破壊の定量予測と材料設計に資する統一的な理論基盤を与えるものです。
〇研究概要
金属ガラスは、原子が規則正しく並んでいない非晶質の金属であり、その高い強度、弾性、耐摩耗性、耐食性などの優れた特性が期待されています。一方で、前触れなく突然壊れてしまう脆さが大きな問題です。この脆さは、材料の一部に変形が集中しズレた領域が帯状に生じるせん断帯が形成され、そこから一気に破壊へ進むことで起こる、と説明されてきました。しかし、そもそもせん断帯がどこからどのように生まれるのか、その起点と成長のメカニズムは半世紀以上にわたり分かっていませんでした。
せん断帯の前駆現象として、原子が局所的に再配置する様子が原子シミュレーションの中で確認されており、これをSTZ(Shear Transformation Zone)と呼びます。このSTZの“はじまり”を担う原子集団を特定できれば、せん断帯の発生を定量的に予測することが可能となり、その物質の壊れにくさの向上に向けた材料設計の指針確立につながります。しかし、不規則に原子が配置された金属ガラスでは、STZを駆動する原子集団の最小単位やそこで共通する特徴(パターン)を抽出することが難しく、変形核となる原子集団の特定が困難でした。
本研究では、原子シミュレーションのデータから「変形のトリガー(引き金)になった原子の動き」を切り分けて追跡できる独自手法「原子凍結解析」を開発しました。CuZr金属ガラスを対象に解析した結果、変形の“はじまり”は、弾性的に互いの運動を拘束し合っていた数十個程度の原子が突如として同時に協調して動きはじめる、「協調運動」によって引き起こされることを突き止めました。研究チームはこの集団を、STZのトリガーとなる核、「STZコア」と名付けました。
STZコアの解析を通じて、それらが変形前から材料内部の特定の場所に存在している「弱点」ではないことが明らかになりました。初期構造からは明確な前触れ、あるいは、顕著な特徴は読み取れず、これらの変形核は外部からの力に応じて材料中のさまざまな場所でその都度励起され、速やかに収まります。つまり、STZコアは材料中に埋め込まれた材料欠陥ではなく、負荷に応じて現れる動的な変形の起点であることが分かりました。
「原子凍結解析」による計算の中では、ひとつのSTZコアの励起がトリガーとなり、周囲で別のSTZコアが次々に誘発される様子が捉えられました。このことは、STZコアの雪崩的な連鎖がやがてせん断帯の形成や大きな塑性流動へつながるとする、変形メカニズムの一端を示しています。
本成果は、金属ガラスの脆さを左右する、原子レベルでせん断帯が生まれる“はじまり”の正体を明らかにしたものです。変形メカニズムの起点が明確になったことは、金属ガラスに限らず、ポリマーガラス、ゲル、粒状物質など、不規則な構造をもつ固体材料に共通する変形現象を、協調運動という「素過程」から統一的に理解するための理論構築に役立つと期待されます。こうした理論は、割れやすいと考えられてきたガラスを「粘り強く使う」ための設計指針を与えると同時に、土砂崩れのような巨視的な破壊現象を素過程から捉える新たな理論的枠組みの確立につながる可能性があります。
〇論文の詳細情報
タイトル: Cooperative atomic motion during shear deformation in metallic glass
著者名: Yoshinori Shiihara, Takuya Iwashita, Nozomu Adachi, Yoshikazu Todaka & Takeshi Egami
雑誌: Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-026-68308-4
https://www.nature.com/articles/s41467-026-68308-4
※本研究は JSPS科研費22B206などの支援を受けて行われたものです。
〇お問い合わせ先
研究内容に関するお問い合わせ
豊田工業大学 大学院工学研究科 椎原 良典
電話:052-809-1749 Mail:shiihara(at)toyota-ti.ac.jp
大分大学 理工学部 岩下 拓哉
電話:097-554-7950 Mail:tiwashita(at)oita-u.ac.jp
報道に関するお問い合わせ
豊田工業大学 広報・入試室 渉外広報グループ
電話:052-809-1764 Mail:s-koho(at)toyota-ti.ac.jp
大分大学 総務部 総務課 広報係
電話:097-554-7376 Mail:koho(at)oita-u.ac.jp
豊橋技術科学大学 総務課 広報・地域連携室広報係
電話:0532-44-6506 Mail:kouho(at)office.tut.ac.jp
※(at)を@マークにおきかえてください。
▼本件に関する問い合わせ先
広報入試室 渉外広報グループ
芹澤
住所:名古屋市天白区久方2丁目12-1
TEL:0528091764
FAX:0528091721
メール:s-koho@toyota-ti.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/