自動車用の小型コネクターの評価装置を開発 

独立行政法人 産業技術総合研究所

電気接点で電気が流れるメカニズムを解明

■概要■ 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノシステム研究部門【研究部門長 山口 智彦】ナノ光電子応用研究グループ 清水 哲夫 主任研究員は、矢崎総業株式会社【代表取締役社長 矢崎 信二】(以下「矢崎総業」という)と共同で、銅板にスズメッキを施して製品化されている自動車ワイヤーハーネス用コネクターの小型・軽量化のための評価装置を開発した。 この装置は走査型電子顕微鏡中で金属同士の接触を観察しながらコネクターの接触荷重と電気抵抗を計測できる。この装置で作製した圧痕では、表面の酸化スズ膜が割れて、その割れ目から下地のスズが入り込んで良好な電気接点を形成していることを確認した。今回の電気接点に関する評価装置や計測結果は、信頼性や小型・軽量化が求められる自動車ワイヤーハーネス用コネクターの評価や製品設計の新指針に貢献するものと期待される。 なお、この技術の詳細は、2014年10月12~15日(米国中部時間)に米国・ニューオーリンズで開催される電気接点に関する国際会議(60th IEEE HOLM Conference on Electrical Contacts)で発表される。 ■ ポイント ■ ・電子顕微鏡中でコネクターの接触を観察しながら、接触荷重と電気抵抗を同時に計測 ・酸化スズ膜の割れ目にスズが入り込んで良好な電気接点が作られることを確認 ・自動車ワイヤーハーネス用コネクターの小型・軽量化の新製品開発につながると期待 --------------------------------------------------------------------------------------- 図や詳細はPDFからもご覧になれます  … http://digitalpr.jp/pdf.php?r=9049 --------------------------------------------------------------------------------------- ■ 開発の社会的背景 ■ より快適で安全な自動車を作るため、自動車に搭載される電子機器やセンサーの数は増加し続けている。それと共に低燃費化のために、電気配線の軽量化やコネクターの小型化が一層求められるようになってきている。しかし、コネクターの小型化には、これまでと同等か、それ以上の信頼性を確保することが欠かせない。自動車用のコネクター端子にはスズメッキした銅板が用いられているが、スズ表面にはスズ酸化膜が形成される。スズ酸化膜は絶縁体であり、その厚さは10 nm程度と非常に薄いことから、スズ酸化膜がコネクターの金属接触や電気抵抗にどのような影響を及ぼしているかを詳細に把握することはこれまで非常に困難であった。コネクターを小型化するため、スズ酸化膜表面の金属接触と接触電気抵抗との関連を詳細に解析する必要性が増していて、そのための新しい評価装置の実現が強く求められていた。 ■ 研究の経緯 ■ 産総研ナノシステム研究部門は、ナノメートルで動作するマニピュレーターの高度化をはかり、ナノ材料・デバイスのナノレベル物性計測を実施してきた。一方、矢崎総業を中心とする矢崎グループは、ワイヤーハーネスのシェアが世界トップクラスで、グループ内の矢崎部品株式会社がワイヤーハーネス、自動車用電子部品などを開発・製造している。 産総研と矢崎総業は、産総研の技術シーズと矢崎総業の技術ニーズのマッチングを図り、産業技術として確立することを目的とした組織的包括協定を2008年7月に締結した。2010年2月に自動車ワイヤーハーネス用コネクターを評価するために測定機能を追加、高精度化する共同研究に着手し、今回、電気接点の導電メカニズムをナノメートルスケールで分析評価できる専用装置の開発に至った。 ■ 研究の内容 ■ 今回開発した装置は、走査型電子顕微鏡の試料室内にナノメートルスケールで押し込み長さを調整できる高精度化したマニピュレーターを組み込んであり、接触荷重と精密な接触電気抵抗の計測ができる。 自動車のコネクターのモデル試料として、平坦なスズ基板上に酸化スズを成膜した試料(オスコネクターのモデル)と、先端曲率半径を数µm程度に加工したタングステンプローブ(メスコネクターのモデル)を用い、押し込み試験を行った。走査型電子顕微鏡中で観察しながら、タングステンプローブの押し込み深さ、接触荷重、接触電気抵抗を同時計測した。図1は、20秒おきに、500 nmずつタングステンプローブを試料に押し込んだときに測定した接触荷重と接触電気抵抗の値である。20秒ごとに接触荷重が増加し、これに伴い接触電気抵抗は107 [Ω]から105 [Ω]に減少している。 図2に1.6 µmの押し込み操作を行った圧痕表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。表面の酸化スズ膜が割れて、その割れ目に下地のスズが入り込んでいる様子が分かる。さらに、この試料を集束イオンビーム(FIB)装置により圧痕の断面(図2の A-A’に示した位置)が露出するように加工して走査型電子顕微鏡で観測した写真を図3に示す。酸化スズ膜が割れた部分にスズが入り込んでいる様子がより明瞭に分かる。さらに、酸化スズ膜が割れた部分でも、スズが入り込んでいないもの(図3A)、途中まで入り込んでいるもの(図3B)、表面まで入り込んでいるもの(図3C)が混在していることが分かる。 接触電気抵抗が大きく減少した圧痕には、酸化スズの割れとスズの入り込みが確認でき、それが電気接点の導通に大きく寄与していることが分かった。 今回開発した評価装置は、電気接点の導通メカニズムの解明に有用であり、自動車ワイヤーハーネス用コネクターの新製品開発への貢献が期待できる。 --------------------------------------------------------------------------------------- 図や詳細はPDFからもご覧になれます  … http://digitalpr.jp/pdf.php?r=9049 --------------------------------------------------------------------------------------- 図1 接触荷重と接触電気抵抗の関係 20秒間隔で、500 nmずつタングステンプローブを試料に押し込むと、接触荷重(青色)は、 20秒ごとに増加し、接触電気抵抗(赤色)は、押し込み途中で大きく減少している。 図2 今回開発した装置を用いて作製した圧痕の電子顕微鏡写真 酸化スズ層が割れて、その割れ目から下地のスズ(より白く見えている部分)が入り込んでいる。 図3 圧痕の断面構造の電子顕微鏡写真 FIBを用いて圧痕の側面が出るように加工し、図2のA-A’断面を電子顕微鏡で観察した。 酸化スズ膜が割れ、割れ目に下地のスズが入り込んでいる様子が断面観察から確認できる。 ■ 今後の予定 ■ 今後、産総研は、開発した装置を用いて微小領域での構造と接触電気抵抗との相関や、導電に要する接触荷重などに関するデータを取得するとともに、開発した装置が電気接点技術分野に必須の評価装置となることを目指してさらなる高精度化を進める予定である。矢崎総業は、自動車に強く求められている低燃費、安全性、快適さなどの要求を満たす小型軽量の自動車ワイヤーハーネス用コネクターの製品化を目指す。
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