バイオベンチャーの経営戦略の転換(ピボット)に関する論文で企業家研究フォーラム賞受賞
本論文は、企業家研究フォーラム学会が設ける2022年度第16回学会賞において企業家研究フォーラム賞(論文の部)を受賞しました。
研究成果のポイント
- 外部環境の把握ができている企業ほど、経営戦略の転換(ピボット)をしやすい
- CEOに創業メンバーが含まれていると、経営戦略の転換(ピボット)をしにくい
- 品質に対する管理意識が高い企業ほど、経営戦略の転換(ピボット)をしにくい
研究背景
本研究は、国内での大学等における医療系シーズの実用化における課題などを調査目的とした「医療系ベンチャーに関する意識調査」のアンケート結果から行った実証分析です。ベンチャーやスタートアップが起業し、出口(M&AやIPO)*2を目指すプロセスは、複雑に入り組んでいます。特にバイオ系のベンチャー企業は、事業の不確実性が高いことから、多産多死で黒字に転じるまで多くの資金や労力が必要です。こうした事業の不確実性に対応するにあたり、経営戦略の転換(ピボット)という経営現象が近時注目されています。
研究内容
本研究では、文部科学省科学技術・学術政策研究所第2調査研究グループおよび厚生労働省医政局経済課ベンチャー等支援戦略室が主体となり取得した、国内のバイオ系のベンチャー148社のアンケートデータを対象に、経営戦略の転換(ピボット)を行う要因について実証分析(共分散構造分析)を行いました。分析の結果、経営環境への対応の視点では、「外部環境適合ができている企業ほど、経営戦略の転換(ピボット)をしやすい」「品質に対する管理意識が高い企業ほど、経営戦略の転換(ピボット)をしにくい」という結果を見出しました。また「CEOに創業メンバーが含まれていると、経営戦略の転換(ピボット)をしにくい」という結果を見出し、経営者の心理的な側面から考察を示しています。
今後の展開
現在、経営戦略の転換(ピボット)をしたこと(またはしなかったこと)が、その後のベンチャーやスタートアップにどのような影響を与えるのかを追試する研究を継続しています。本研究の成果を含め、ベンチャーやスタートアップが経営戦略の転換(ピボット)を行う前後における実態把握を行い、経営戦略の転換(ピボット)を検討するうえでの有益な判断材料を提供していきたいと考えています。
p 値の有意水準: * 5%, . 10%。
受賞コメント
森口:本研究の成果がより多くのベンチャーやスタートアップの方のもとに届き、経営戦略の判断材料として活用いただけることを願っております。
山田:本邦の経営学における明示的な実証研究として、この研究がベンチャーの戦略転換の意義を明らかにしたことは、実務的にも、今後の理論発展にも示唆が富んでいると信じます。
黒木:このような光栄な賞をいただけることに大変驚いています。アンケート調査にあたりご協力いただきました厚生労働省科研費のメンバーおよび回答をいただきました事業者に心より感謝申し上げます。本研究の成果が日本の大学発・バイオベンチャー企業の振興につながることを期待します。
研究費
本研究は、科研費(19K01891)および平成30年度厚生労働科学研究費補助金(政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業))の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:バイオベンチャーのピボット―実態と要因分析―
Pivot of bio venture firms-The current situations and its determinants-
著者※:森口文博(流通科学大学)、山田仁一郎(京都大学経営管理大学院)、黒木淳(横浜市立大学) ※()内は現所属
掲載雑誌:日本ベンチャー学会誌『VENTURE REVIEW』№36
DOI:https://doi.org/10.24717/jasve.36.0_13
用語説明
*1 経営戦略の転換(ピボット):事業活動と経営資源、主要な注意の再配分または再構築を通じた企業の戦略的方向転換のこと。その企業の事業立地、経営戦略の変化そのものとしてとらえることができる。
*2 出口(M&AやIPO):ベンチャーやスタートアップが目指す成功のマイルストーンとされている。特にM&Aは、ベンチャー企業の出口の文脈ではベンチャー企業の売却を意味し、IPO(新規上場)と合わせて、ベンチャーキャピタルを中心とする投資家やベンチャー企業の創業経営者にとって、中長期的に投資を回収するという共通の手段として位置付けられている。