COVID-19患者における入院時の腎機能障害とその重症度が急性期の予後不良因子となることを証明
また、入院時の腎機能障害が高度なCOVID-19患者では、主要評価項目の発生リスクが有意に高いことも明らかになりました(図2)。本研究は厚生労働科学特別研究事業として国内8施設にCOVID-19のために入院した患者500名を対象とした多施設共同研究であり、COVID-19患者において入院時の腎機能障害と急性期予後との関連性を明らかにした国内初の研究です。この研究成果により、今後COVID-19患者の初期の腎機能障害が、重症化に影響する予測因子の一つになることが期待されます。本研究成果は日本腎臓学会誌「Clinical and Experimental Nephrology」に掲載されました。(2022年6月3日オンライン掲載)
研究成果のポイント
- COVID-19患者の約34%に入院時腎機能障害が認められた。
- 12%が院内死亡、ECMOおよび人工呼吸器の使用、ICU入室を必要とした。
- 入院時の腎機能障害は有意にこれらの発生リスク上昇と関連した。
- 腎機能障害の重症度や蛋白尿の有無が主要評価項目の発生リスクと関連した。
研究背景
COVID-19は、2019年12月に中国で初めて報告された重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2による新型呼吸器疾患です(参考文献1)。2021年10月8日時点で480万人以上がこの感染症により亡くなっており(参考文献2)、COVID-19患者の重症化・重篤化に関連する因子を特定することが非常に重要です。一方、腎機能障害は肺炎や尿路感染症などのさまざまな感染症の重症度や予後に影響する因子であり、COVID-19患者の腎機能障害の有無を把握しておくことは、その後の重症化リスクを判断するのに役立つ可能性があります。そこで研究グループは、厚生労働科学特別研究事業『Post-corona/with-corona 時代における持続可能な腎臓病診療・療養の堅牢な体制構築』(研究代表者:川崎医科大学 副学長/腎臓・高血圧内科学 主任教授 柏原直樹)による研究として、COVID-19の入院時の段階における腎機能障害が、その後の重症化や急性期死亡率の上昇と関連するかどうかを検討しました。
研究内容
本研究は、横浜市立大学附属市民総合医療センター、東京慈恵会医科大学附属病院、埼玉医科大学病院、横浜市立大学附属病院を含めた国内8病院にCOVID-19感染症で入院した500人(平均年齢51歳)を対象として行われました(調査期間: 2020年2月5日-12月31日)。本研究における腎機能障害の定義を、入院時の推定糸球体濾過量*2の減少(eGFR<60 mL/min/1.73 m²)または蛋白尿(尿定性法1+以上)としました。主要評価項目は院内死亡、ECMOおよび人工呼吸器の使用、ICU入室の複合条件としました。その結果、171例(34.2%)の患者に入院時の腎機能障害が認められ、主要評価項目は60例(12.0%)で観察されました。腎機能障害のある患者はない患者と比較して、主要評価項目が有意に多く発生(25.2% vs 5.2%)し、多変量解析*3の結果でも入院時の腎機能障害は主要評価項目の発生増加と有意に関連しました。
また、入院時の腎機能障害の程度や蛋白尿の有無と主要評価項目の発生頻度との間には有意な関連性が認められました。
今後の展開
これまでに、横浜市立大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・高血圧内科学教室では、2020年2月1日から5月1日までに循環器・腎臓・高血圧内科学教室関連の神奈川県内の6医療機関(横浜市立大学附属市民総合医療センター、神奈川県立循環器呼吸器病センター、藤沢市民病院、神奈川県立足柄上病院、横須賀市立市民病院、横浜市立大学附属病院)に入院したCOVID-19感染症患者151人を対象として、COVID-19感染症の病態に影響を与える背景や要因を解析するための多施設共同後ろ向きコホート研究(Kanagawa RASI COVID-19研究)を、臨床アウトカムを検討した日本における最初の研究として行っています(参考文献3)。その結果、高齢(65歳以上)、心血管疾患既往、糖尿病、高血圧といった要因が重症の肺炎と関連があることを明らかにするとともに、レニン-アンジオテンシン系阻害薬がCOVID-19感染症の重症化を予防する可能性も明らかにしました。今回は、厚生労働科学特別研究事業として、前回のKanagawa RASI COVID-19研究の参加施設に加えて、東京慈恵会医科大学附属病院、埼玉医科大学病院も参加し、より多くのCOVID-19感染症患者を対象に解析を行いました。
今回の研究成果により、COVID-19患者における初期の腎機能評価がその後の重症化の判断に役立つことが期待されます。また、Post-corona/with-corona 時代においても生活習慣病からの堅牢な診療体制構築を含めた包括的腎臓病対策の重要性があらためて示されたと考えられます。
研究費
本研究は、厚生労働科学特別研究事業『Post-corona/with-corona 時代における持続可能な腎臓病診療・療養の堅牢な体制構築』(研究代表者:川崎医科大学 副学長/腎臓・高血圧内科学 主任教授 柏原直樹)により実施されました。
論文情報
タイトル:Chronic Kidney Disease and Clinical Outcomes in Patients with COVID-19 in Japan
著者:Ryosuke Sato*, Yasushi Matsuzawa, Hisao Ogawa, Kazuo Kimura, Nobuo Tsuboi, Takashi Yokoo, Hirokazu Okada, Masaaki Konishi, Jin Kirigaya, Kazuki Fukui, Kengo Tsukahara, Hiroyuki Shimizu, Keisuke Iwabuchi, Yu Yamada, Kenichiro Saka, Ichiro Takeuchi, Naoki Kashihara, Kouichi Tamura.
掲載雑誌:Clinical and Experimental Nephrology
DOI:10.1007/s10157-022-02240-x
共同研究グループ
・川崎医科大学: http://www.kawasaki-jinzo.net/staff
柏原直樹 副学長/腎臓・高血圧内科学 主任教授
・東京慈恵会医科大学: https://jikei-kidneyht.jp/staff
横尾 隆 内科学講座(腎臓・高血圧内科)主任教授
・埼玉医科大学: http://saitama-nephrology.com/staff/okadahirokazu/
岡田浩一 腎臓内科 教授
・国立大学法人熊本大学: https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kihonjoho/yakuin
小川久雄 学長
・神奈川県立循環器呼吸器病センター:http://junko.kanagawa-pho.jp
・藤沢市民病院:https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/hospital/
・神奈川県立足柄上病院:http://ashigarakami.kanagawa-pho.jp
・横須賀市立市民病院:https://www.jadecom.or.jp/jadecomhp/yokosuka-shimin/html/
・横浜市立大学医学部 救急医学教室:http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~er-urahp/
・横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター : https://www.ycu-cardiac.jp
・横浜市立大学附属病院:https://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/
・横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学教室:https://yokohama-medicine.org
用語説明
*1 体外式膜型人工肺 (Extracorporeal membrane oxygenation:ECMO):重症の呼吸不全患者または心不全患者に対して行われる、人工肺とポンプを用いた体外循環回路により心臓と肺の補助をする治療法。
*2 推定糸球体濾過量:腎臓が老廃物を尿へ排泄する能力を示しており、この値が低いほど腎臓の働きが悪いということになります。
*3多変量解析:多くの対象について、2つ以上のデータ(身長や体重、年齢、病期、採血値など)がある場合、これらの変数の相互関連を分析する方法。
参考文献
1.Li Q et al, N Engl J Med 2020;382:1199–207
2.WHO Coronavirus (COVID-19) Dashboard. https://covid19.who.int/ Accessed.
3.Matsuzawa Y, Ogawa H, Kimura K, Konishi M, Kirigaya J, Fukui K, Tsukahara K, Shimizu H, Iwabuchi K, Yamada Y, Saka K, Takeuchi I, Hirano T, Tamura K. Renin–Angiotensin System Inhibitors and Severity of Coronavirus Disease-2019 in Kanagawa, Japan: A Retrospective Cohort Study. Hypertens Res 2020;43:1257-66