京都大学と住友林業 世界初の木材の宇宙曝露実験 2023年木造人工衛星(LignoSat)の打上げを目指して

住友林業株式会社

 国立大学法人京都大学(総長:湊 長博/以下、京都大学)と住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎/以下、住友林業)は「国際宇宙ステーション(ISS)での木材の宇宙曝露実験」を開始します。宇宙空間での木材の曝露実験は世界初です。2021年9月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)へ試験体の木材を引き渡し12月から約半年間、国際宇宙ステーション(ISS)で実験します。
 京都大学と住友林業は2020年4月「宇宙における樹木育成・木材利用に関する基礎的研究」に共同であたる研究契約を締結し「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project※1)」をスタートしました。2023年に木造人工衛星 (LignoSat※2)を打ち上げる計画です。電磁波・磁気波は木材を透過するのでアンテナや姿勢制御装置を衛星内部に設置でき、構造を簡素化できます。また、運用終了後、大気圏突入時に完全に燃え尽きるので微小物質(アルミナ粒子)が発生せず、よりクリーンで環境に優しい人工衛星の開発につながります。
 今回の実験は「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」の一環で、宇宙空間で木材がどのように劣化するのか、宇宙曝露前後の木材の微細構造の変化等を定量的に分析し、劣化メカニズムを解析します。本実験を通じて高機能な木材の開発に繋げ、地球での利用拡大に応用します。
※1 LignoStella(リグノステラ)は、Ligno(木)と Stella(星)からなる造語で本プロジェクトにて命名。
※2 LignoSat(リグノサット)は、Ligno(木)と 人工衛星(Satellite)からなる造語で本プロジェクトにて命名。

1.背景
 「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」は2023年に木造人工衛星(LignoSat)の打ち上げを目指して開発を進めています。木造人工衛星(LignoSat)を投入するのは高度400km前後の地球低軌道(LEO: Low Earth Orbitで、高真空(10-11気圧)なだけではなく様々な材料が劣化する極限環境です。人工衛星を木造にするためには宇宙環境で木材がどのように劣化していくのか確認する必要があります。

2.実験内容
 数種類の木材試験体(図1)を国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の船外曝露プラットフォーム(図2)上で宇宙空間に曝露します。約半年後に回収し地上で物性試験や顕微鏡での組織構造観察、X線による結晶構造解析をします。宇宙のような極限環境での木材劣化の有無や状況、メカニズムの解明に取組みます。ここで得た知見から宇宙空間での木材の劣化予測や対策を検討します。

3.期待される結果
 木材を国際宇宙ステーション(ISS)の軌道上で船外曝露すると、原子状酸素(AO: Atomic Oxygen)の衝突によって表面が僅かに消失します。これまでに木材を使った曝露実験はされていませんが、類似の研究や理論的考察から1年の曝露でも消失する表層は多くて1mm未満と考えられます。また、木材へのガンマ線照射実験などの例から考えて、銀河宇宙線(GCR: Galactic Cosmic Ray)や太陽エネルギー粒子(SEP: Solar Energetic Particle)に1年さらされても急激な強度低下は起きず、人工衛星の構造材料として利用可能だと予想されます。木材劣化のメカニズムを解明することで、極限環境での劣化抑制技術を開発し、木材の用途拡大への応用を目指しています。

4.今後のスケジュール 
 2021年9月   宇宙航空研究開発機構(JAXA)へ木材試験体の引き渡し
 2021年12月   国際宇宙ステーションの補給船に搭載し輸送
         船外実験プラットフォームにて約6か月の間、宇宙空間に曝露
 2022年6月頃  対象品をISS船内に回収し、補給船で地球に再輸送

5.共同研究体制
(1) 京都大学
 2016年、宇宙飛行士の土井隆雄氏が京大宇宙総合学研究ユニット特定教授に就任し、新規テーマ「宇宙における木材資源の実用性に関する基礎的研究」を立ち上げ、現在、大学院総合生存学館において真空中での木材の力学的性質や低重力・低圧力下での樹木の生育に関する基礎研究を進めています。


 
 
(2) 住友林業
 木の総合的な活用を目指し広く研究開発を進める拠点として筑波研究所を1991年に設立。街を森にかえる「環境木化都市」の実現をめざす研究技術開発構想「W350計画」を推進しています。筑波研究所では、今回の宇宙曝露での木材の劣化メカニズムの解明を含め、木の価値を高める研究技術開発を加速し、SDGs達成、脱炭素社会の実現に貢献していきます。



(3) 京都大学×住友林業
 木の価値を高める研究技術開発を通じて、宇宙での木材利用の道を拓き、人類の持続的な発展に寄与するというビジョンが一致。両者のリソースを集結し宇宙木材プロジェクトを推進しています。

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