住友林業とIHI、「熱帯泥炭地コンサルティング」と「質の高い炭素クレジット」の事業化に向けて提携

住友林業株式会社

 住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎 本社:東京都千代田区/以下、住友林業)と株式会社 IHI(社長:井手 博 本社:東京都江東区/以下、IHI)は18日、「森林管理コンサルティング事業」と「自然資本の価値を最大化する持続可能なビジネスの開発」に向けた業務提携契約を締結しました。熱帯泥炭地※1を適切に管理するコンサルティング事業の実現に向けて協業を開始します。また、森林や土壌における炭素蓄積量など自然資本の価値を適切に評価することによる質の高い炭素クレジット※2の創出や販売に向けても連携していきます。

 住友林業は国内外で培ってきた森林の管理技術や、世界で唯一の成功事例であるインドネシアでの熱帯泥炭地の管理技術、及び地上測定データの蓄積が大きな強みです。
 IHIグループは長年の宇宙開発で培った人工衛星データの利用技術や、気象観測・予測技術が強みです。
 両社の強みを合わせ、熱帯泥炭地の管理技術を世界中に広く普及させる手法を開発し、2022年にコンサルティング事業として展開を開始することを目指します。また、広大な森林が吸収する二酸化炭素量を高精度で評価しモニタリングする手法を開発します。気候変動対策としての炭素吸収の価値だけでなく、生物多様性や水循環の保全、地域社会への貢献といった「自然資本※3」としての付加価値を加えることで「質の高い炭素クレジット」を創出することも目指していきます。日本企業の持つ高い技術力で世界の環境課題に取り組んでいきます。

※1 熱帯泥炭地とは…植物の遺骸が水中で分解されずに堆積して出来た土壌。
※2 炭素クレジットとは…取引可能な温室効果ガスの排出削減量証明。排出量を企業間や国際間で流通するときに、クレジットとして取り扱われ、その取引単位は、1t-CO2。
※3 自然資本とは・・・例えば森林が、二酸化炭素を吸収し、水をきれいにするように、価値のあるサービスを生み出すストック(資本)としての自然。


1.背景
 脱炭素社会の実現に向けて日本政府が2050年のカーボンニュートラル実現を宣言するなど、パリ協定に則って2050年に向けた各国政府・企業・投資家の動きが加速しています。さらに、日本政府は 2030年までの温室効果ガスの削減目標を2013年比26%から46%減に引き上げることを表明しています。森林は他の炭素削減手法と異なり、自ら二酸化炭素を吸収して固定できます。カーボンニュートラルの実現に向けて、森林はより一層重要な役割を果たします。
 森林は 二酸化炭素吸収源としてだけでなく、生物多様性を保全する価値にも近年注目が集まっています。2021年には中国の昆明で、第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)が開催され、新たな世界目標である「ポスト2020生物多様性枠組」が決定される予定です。

2.熱帯泥炭地の現状と課題
 熱帯泥炭地の土壌は大部分が水で構成され、残りは樹木などの植物遺骸が腐らずに堆積した有機物で構成されます。インドネシアやコンゴ盆地、アマゾンに分布しており、面積は全世界で5千万ha(日本の国土面積の約1.3 倍)以上、貯蔵する炭素量は約1,190億トン(2017年の世界の炭素排出量の10倍以上)と言われています。
 泥炭地は不適切な土地管理によって地下水位が下がり乾燥すると非常に燃えやすいため、水位管理が極めて重要です。泥炭火災がもたらす煙害や大気中への炭素放出は世界中で大きな問題となっています。2015年にインドネシアで発生した泥炭火災では合計460万haが消失し、8.9億トンの二酸化炭素を排出(その年の世界の二酸化炭素排出量の2.5%に相当)したと言われています。

3.「自然資本」としての森林の価値と炭素クレジットの現状と課題
 従来の技術で評価されている森林の炭素蓄積量は比較検証するための実測データの欠如により、その精度が課題となっています。森林資源は気候変動対策への貢献が大きいにも関わらず炭素蓄積量に対する炭素クレジットの価値が適正に評価されていないのが現状です。
 森林の適切な管理は生物多様性の保全や地域社会への貢献、さらに異常気象や火災を防ぐことによる防災・減災といった機能を生み出せます。それら「自然資本」としての価値を評価する仕組みはまだ出来ていません。
 特に途上国での森林は違法伐採・火災・農地への転換により消失するリスクが存在します。統計によると2015年から2020年までに年平均で約1,020万haの森林が消失していますが、このうち9割に当たる約928万haが熱帯に位置します。森林を適切に管理し、安全性を保つことも今後の大きな課題です。

4.取り組み内容
(1) 住友林業が保有する技術と今後の役割
 住友林業がインドネシアの泥炭地で行う植林事業では年間を通して地下水位を安定化し、泥炭火災を防ぐ管理技術を確立しています。これは5年の歳月をかけて地形測量やボーリング調査を実施し、さらに10 年に渡る現場での試行錯誤を続けた結果です。
 また、同じくインドネシアで管理する10万 ha 以上の森林で樹木や泥炭土壌に関する地上データを蓄積してきました。このように大面積で長い期間続けてきた取り組みは世界で唯一のものです。
 住友林業は、これまで蓄積した森林や泥炭地に関する地上データをIHIと共有し、さらにIHIが開発した観測技術の実証や精度検証の場として国内外の社有林を活用します。
 さらに、炭素クレジットを創出するための森林の取得や森林の適切な管理、持続可能な林業の実施による森林の活用、生物多様性の保全や地域社会貢献といった役割を担います。


(2) IHIが保有する技術と今後の役割
 IHIグループは68年にわたりロケット開発や衛星推進装置などを手がけ、日本の宇宙開発の中核を担ってきました。人工衛星のデータ利活用の分野にも長年取り組んできており、衛星データや AI・IoT 技術を活用した高度な長期気象予測技術など独自のソリューションを確立しています。またグループ会社の明星電気株式会社では気温・気圧・雨量などの気象データを観測する気象観測技術を有しており、世界広く公官庁等へ機器を納入しています。
 今回の協業では、これらIHIグループが保有する知見と技術で、泥炭地の地下水位情報を地上で計測できる泥炭地情報観測機器を開発します。この観測機器のデータに、気象情報や人工衛星データを組み合わせ、住友林業が保有する地上データと融合することで年間を通して地下水位を安定に保つための地下水位予測システムを構築します。
 また、「質の高い炭素クレジット」の創出に向けても、これまで培ってきた人工衛星データ利用や気象観測技術を活用することで、「自然資本」としての価値を評価する具体的手法を確立していきます。


 

(3) 住友林業×IHIが目指す事業
 熱帯泥炭地の保全と適正な管理はカーボンニュートラルの実現、生物多様性や水循環の保全による人類の生存基盤の安定化にとって危急の課題です。そして適切な管理には、水位管理を始めとする技術を、低コストで容易な技術として普及させる必要があります。
 今回の協業では住友林業が既に確立した管理技術を、IHIが開発する地下水位予測システムによって、インドネシアをはじめ熱帯泥炭地を有する国々に広めるための技術開発を進めます。そして世界の森林で本技術を実際に導入・運用するためのコンサルティング事業として、2022年のビジネス化を目指します。
 また、森林資源の炭素吸収能力のみならず、生物多様性や水循環の保全、地域社会への貢献といった「自然資本」としての価値を可視化していき、正当に評価することによる「質の高い炭素クレジット」の創出や販売に向けて両社は連携していきます。
 上記の取り組みで得られた成果を国際的な場や科学論文で発表し、国際的に認められるモデルを目指します。世界の抱える環境課題を解決するための持続可能なビジネスを構築します。

 住友林業は国内外で森林経営から木材の調達、加工、流通、建築、そして林地未利用木材や建築廃材などを燃料とするバイオマス発電事業まで展開しており、バリューチェーンの至る所で炭素固定や CO2排出量の削減に貢献できます。事業活動で生み出す「経済的価値」に加えて、温室効果ガス排出の抑制、生物多様性の保全、労働安全や雇用確保など「環境的価値」と「社会的価値」からなる「公益的価値」を高める経営に取り組み、SDGs達成、脱炭素社会への実現に貢献していきます。
 IHIは今回の協業を自然と共存する持続性の高い事業へ成長させるとともに、「美しい地球」を守るため、地球規模の課題解決として、脱CO2・循環型社会と防災・減災の実現に向けて取り組んでいきます。また、水素・アンモニアやカーボンリサイクル、航空機電動化など多彩なソリューションを提供し、カーボンニュートラル社会の実現を目指します。
 
以上

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