いわき市台風19号と豪雨水害緊急支援から見えた世界の医療団からの2つの提言

世界の医療団(認定NPO法人) 特定非営利活動法人 メドゥサン・デュ・モンド ジャポン



世界の医療団は、2019年10月の台風19号、豪雨による災害被害を受けたいわき市にて、被災した住民がこころと体の健康を維持し必要な支援につながることを目的とする支援活動を行いました。市内4か所の避難所を含めた被災地域へ計8名の保健医療福祉従事者を派遣し、避難所での聞き取りと在宅避難者への個別訪問を行いました。約2ヶ月半の活動で計493名にアクセス、うち57名の要支援者については健康状態やニーズをインテークシートへ記録し、避難所の運営管理者、保健師または社協へ引継ぎを行いました。
世界の医療団は、東日本大震災の発生直後から約8年、緊急時から復興に至る過程を支援してきました。また、2016年には、熊本地震緊急支援を行いました。これらの災害支援では、地元支援機関や社会福祉協議会、行政機関との協働で、避難所や仮設住宅、復興住宅での被災者との交流や相談をベースとしたこころのケア活動を行い、段階的に住民の回復力(レジリエンス)を高める、地域社会に根差した仕組みづくりを行ってまいりました。
アウトリーチを中心とした活動を通して、またいわき市、県また県域を超える関係機関との対話を重ねて、可視化された課題を言語化し、また東日本大震災や熊本地震におけるこころのケア活動、各地でのコミュニティヘルス活動から得た知見と経験をもとに見えてきた課題や教訓をここに提言としてお伝えさせていただきます。
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提言1:被災者に積極的にアプローチするきめ細かいこころのケア

1. 心身の健康維持のためのアウトリーチ型支援

アウトリーチ型支援により、基礎疾患(持病)を悪化させない配慮のもと、災害により大きな負荷がかかったこころの健康回復をサポートできる

世界の医療団は、活動開始当初から、避難所と浸水地域の個別訪問を徹底して行い、健康状態に問題があっても考慮されていない避難所の避難者、家屋の泥かきや家財の片づけなど行政の支援から取り残されている在宅避難者が多くいることを確認しサポートしてきました。また、活動期間中、継続して同じ担当者が傾聴を行うことで、被災者との信頼関係を築くことができ、また基礎疾患や生活環境を把握することで、心身の状態などを考慮しながらも必要とされるケアを具体的に見出すことが可能になるなど有効な支援をすることができました。世界の医療団のこれまでの活動から、助けや助言、見守りがを最も必要とする方は自発的に発話や相談ができにくい状況にある方が多く、アウトリーチを中心とした聞き取りを行うことでよりサービスから疎外されるケースを減らすことができると考えます。 また、相談する場の設定として、プライバシーの確保、行きやすい場所、時間設定であるか(仕事をしている人も相談できるのか?体調がすぐれない方、移動手段を持っていない方もしくは自力での移動が困難な方に対しての配慮)を加味した形での提供が望ましいと思われます。
また、避難所でよく「困りごとがあるが、誰に相談してよいかわからない」という声を耳にしました。継続的に日々被災者と対話を重ねる職員を配置することで、健康状態の確認にとどまらず、他団体へのリファーラルを通して、初期の泥かきから食料品や衣料品の提供、12月に入ると暖房器具等の提供、さらに生活再建へのファイナンシャルプランナーの紹介など、多岐にわたる支援に繋げました。生活再建に向けた個別具体的なニーズを把握し適切なサービスの提供へとつなげることで、避難生活からくるストレスを軽減させることができます。



2. 多様性に配慮した生活環境の改善

在宅避難を含めよりよい生活環境を整えることが、心身の健康を支える基盤になる

食環境の調整(血糖値コントロールや栄養バランスに配慮する)や全ての方への入浴機会の提供、洋式トイレや多機能トイレの増設、段ボールベッドの設置などの生活基盤を整備することが、より心身の健康維持につながります。そのためには、避難所運営においても、積極的に避難者のニーズを汲み取り、きめ細かく対応することが求められます。避難所の食事は、単調になりがちで、特に基礎疾患を持つ避難者は栄養管理に苦労されていました。入浴についても、入浴施設への送迎があったにも関わらず 入浴時間が足りず、遠慮して入浴機会を失う方々、特に高齢の方に多く見られました 。
避難所は、高齢者、子ども、障害者、持病のある方、外国人、妊産婦、セクシャルマイノリティなど多様なジェンダー性を持った方々が集まります。すべての避難者が安心して安全に生活再建までの時間を健康的に過ごすことができる場にするために、個別の配慮が欠かせません。また、要配慮者は福祉避難所へ繋いでいくことが必要です。保健師やワーカーなどによる個別のアウトリーチを通じ、基礎疾患、日常生活動作能力、被災前の生活環境、生活再建への希望などの聞き取り、避難所運営へのフィードバック、関係機関へのリファーラルを行うことで、より細やかなニーズの把握と心身の健康を最優先とした生活環境の整備が可能になります。


3. 適切なコミュニケーション

被災者の立場に立った情報共有と双方向的なコミュニケーションが、誰も取り残さない、適切で安心感を与える支援に繋がる

被災当事者に対し、速やかかつ正確な情報を伝えることが重要です。介助が必要な方への福祉避難所の案内、感染症予防や食中毒に関する注意喚起、社会福祉サービス、補償に関する情報、どれも命綱とも言うべき必要不可欠な情報です。要求したり情報入手できた人だけが情報を活用できる状況はいわゆる情報格差を生み出し、被災者コミュニティに分断を招きかねません。例え、緊急時であっても、掲示板を見た人だけ、問い合わせた人だけが福祉サービスを受けられるような不公平が起きてはなりません。
また、緊急援助から復興の過程において、一方的な情報提供だけでなく、被災者の意思や希望を反映した支援方針を立てることが求められます。避難所などでは曖昧な情報や噂話が多く飛び交うことがあり、そうしたことが集団内に混乱や不安を引き起こす原因となるため、情報伝達には留意が必要です。
その時々の支援の在り方や方向性について、要望調査や意見交換を通じた被災当事者の意思と選択を尊重したコミュニケーション、参加型で透明性のある意思決定過程が望まれます。被災者、避難者の立場に沿ったコミュニケーションと情報共有は、心理的不安を軽減させ、また、被災者の自主的な生活再建を後押しする一助にもなりえます。


提言2:行政、地域、市民の協働による被災者に寄り添う災害対応

1. 外部組織との協働体制の構築

自治体として、外部組織との協働の重要性を認識し、積極的な緊急支援の受援・連携調整体制を整える

国内各地で災害が多発する今、地域における災害に備えた体制作りや取り組み、地域を越えた連携が被害の軽減や早期の復興につながることが認識されつつあります。きめ細かい配慮が必要な被災者を含め、誰も取り残さない支援を実施していくには、地域内外の民間団体と連携しケアに取り組むことが必要です。
災害対応で中心的な役割を担う自治体行政には、人命を左右する避難指示や避難所の開設といった現場対応だけでなく、被災状況の全体像の把握、災害対応方針の策定、それらに基づく各支援実施団体間の調整、内外への速やかな情報発信と共有など、地域、セクターを越えた広域の協働体制を構築する役割があります。実際、緊急時においては、支援を実施する自治体の行政自体が被災しており、被災地域外からの公的支援、民間団体との協働体制を構築することで、より円滑で細やかに復旧復興への枠組み作りを進めることが可能になります。外部からの支援を活用して、柔軟に災害規模に応じた体制構築が実現できれば、的確かつ迅速な初動対応が可能となり、被害の拡大防止にもつながります。
また、個々の行政の職員も被災当事者であることが多く、特に長期化する災害対応では、通常業務に加えて災害対応を担っていくことの負担やストレスがかさんできます。外部からの支援を導入することで、災害現場で支援対応する側にも必要な支援サービスやケアを提供することができます。





2. 平時の関係づくり

平時から災害に強い地域づくりのために、地元地域のみならず、地域の枠を超えて関係構築をする

世界の医療団での国内外の活動地でも行政機関、現地支援団体、外部組織などが情報交換と共有する場を設けています。各組織が持つ強みや関係性を活かした関係性の構築は、災害即応力の強化にもなります。こ平時から防災、災害対応について共通のビジョンと戦略が整っていれば、より効果的な対策が講じられます。
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災害対策において、自治体が担う役割としてハード・ソフト両面を軸にした防災・減災・復興への対策や計画策定、実行が挙げられますが、そのいずれも被災者の立場に沿った配慮や取り組みが欠かせません。
地域社会はもちろんのこと、被災者一人ひとりによって被災状況や被災以前の環境や生活状況、こころや身体の状態も違います。
あらゆる社会とすべての個人の復興において、安全かつ安定した居住環境は基盤となるものと考え、それは被災前、被災後、そして避難している間においても、個人間、地域での格差なしに確保できる体制づくりが望まれます。


 

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