【横浜市立大学】国家公務員の外来医療費、府省間で2倍以上の差

横浜市立大学

~国会審議時間が長い府省ほど医療費が高い傾向~

 慶應義塾大学 総合政策学部 専任講師の佐藤 豪竜(さとう こうりゅう)が率いる研究チームは、霞が関の10府省の本府省で働く国家公務員について、外来医療費と国会対応業務との関係を調べました。2016~2023年の医療費を性別・年齢構成の違いを考慮して比較すると、1人当たりの月額は外務省の2,374円から厚生労働省の5,125円まで、2倍以上の差がありました。また、各府省の政策分野を担当する国会の常任委員会について、職員1人当たりの審議時間が1%長い府省ほど、外来医療費が0.25%高い傾向がみられました。府省ごとの勤務実態を把握し、業務負担が大きい府省における健康管理の支援を検討するなど国家公務員の「働き方改革」の必要性を示唆する結果となりました。論文は、労働衛生の国際的な専門誌に掲載されました。
 

背景
 日本の国家公務員は、政策立案や予算編成、国会対応など、国の行政を支える重要な業務を担っています。こうした公務の公共性を踏まえ、国家公務員には、原則として労働基準法が適用されません。
国家公務員の長時間勤務につながる主要な業務の一つが、国会対応です。国会議員からの質問を受け、答弁案や資料を短時間で準備する必要があるほか、質問通告の遅れや関係府省との調整により、対応が長時間に及ぶこともあります。
 一方、国家公務員の健康に関するデータは限られており、こうした業務負担と健康状態との関連は、これまで十分に明らかにされていませんでした。そこで本研究では、国会の常任委員会における審議時間を国会対応業務の負担を示す指標として、国家公務員の外来医療費との関連を分析しました。

対象と方法
 財務省が実施する「連合会を組織する共済組合における医療状況実態統計調査」から、2016~2023年の各年4月に審査されたレセプトの約5%を抽出したデータを使用しました。対象は10府省の本府省に所属する18~50歳の被保険者で、分析に用いた外来レセプトは6,454件、延べ被保険者数は252,830人年でした。入院については、件数が少なかったため分析対象としていません。
 府省別の1人当たり外来医療費は、抽出率で補正した上で、性別と年齢を標準化して算出しました。国会会議録をウェブ・スクレイピングし、各府省の政策分野を担当する衆参両院の常任委員会について、年間審議時間を集計しました。この時間を本府省の被保険者数で割った値を、職員1人当たりの業務負担の指標としました。予算委員会は府省ごとに帰属させることが難しいため、集計に含めていません。分析では、前年の審議時間と翌年4月の外来医療費との関連を府省・年単位で分析しました。

結果
 性別・年齢調整済みの1人当たり月額外来医療費が最も高かったのは厚生労働省で、5,125円でした。次いで法務省が5,056円、農林水産省が4,637円でした。厚生労働省では、特にメンタルヘルス関係の医療費が目立ちました。一方、医療費が最も低かったのは外務省で、2,374円でした。次いで財務省が3,016円、経済産業省が3,246円でした。
 8年間の累積の国会審議時間が最も長かったのは厚生労働省の2,534時間で、2位の内閣府(1,528時間)を1,000時間以上上回りました。国会審議時間と外来医療費の関連を分析したところ、前年の職員1人当たり審議時間が1%長い府省ほど、翌年4月の外来医療費が0.25%高い傾向がみられました(95%信頼区間:0.04~0.46%)。

考察と本研究の意義
 府省によって国会対応業務の量や外来医療費の状況が大きく異なることが示されました。外来医療費は健康状態だけでなく、受診のしやすさや受診行動も反映します。医療費が低い府省でも健康問題が少ないとは限りません。こうした点を踏まえ、業務負担が大きい府省で、勤務状況と健康状態を把握し、適切な産業保健の支援を行うことが重要です。
 なお、今回の研究は、あくまで国会審議時間と外来医療費の「相関関係」を示したものであり、「因果関係」を示したものではありません。今後は、国家公務員の労働時間、ストレス、健康状態を結びつけた、より大規模で詳細な研究が求められます。


発表論文
Sato K., Kato H., Inoue K., Kondo N., Kawachi I. Parliamentary Workload and Outpatient Medical Costs Among Japanese National Civil Servants: An Ecological Study in Kasumigaseki. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 2026;52(6):680–688.
doi:https://doi.org/10.5271/sjweh.4338

共著者
横浜市立大学国際商学部 准教授 加藤 弘陸
京都大学大学院医学研究科 教授 井上 浩輔
京都大学大学院医学研究科 教授 近藤 尚己
ハーバード大学公衆衛生大学院 教授 イチロー カワチ

謝辞
 本研究は、厚生労働科学研究費補助金(25FA1006)の支援を受けて実施しました。また、個票データをご提供いただいた財務省に感謝申し上げます。なお、本研究の分析および内容について厚生労働省と財務省は一切関与しておらず、本研究の内容は両省の見解を示すものではありません。

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