【横浜市立大学】患者さんの「信頼」と「理解」が逆紹介を後押し
患者体験から地域医療連携につながる心理経路を初めて定量化
横浜市立大学医学部血液・膠原病内科学の吉見竜介准教授、同大学大学院国際マネジメント研究科の原広司准教授らを中心とする研究グループは、大病院から診療所への患者紹介、いわゆる「逆紹介*1」に対する患者選好*2に関連する要因を解析しました。その結果、医師全般に対する高い信頼と高いヘルスリテラシー*3が逆紹介に対する肯定的な選好と関連すること、さらに良好な患者経験価値*4が医師への信頼やヘルスリテラシーを介して患者逆紹介選好と間接的に関連することを明らかにしました。医療サービスを効率的かつ効果的に提供し地域医療連携を円滑に進めるためには、逆紹介を促進することが重要です。本研究成果により、患者自身が逆紹介の意義を深く理解し、医師への信頼を高めながら、安心して地域の診療所で診療を継続できる環境を整えるための効果的な施策立案に資するものと期待されます。
なお、本研究は吉見准教授が本学の国際マネジメント研究科SIMBAプログラム(社会人向けのMBAコース)*5在学中に主指導教員だった原広司准教授の指導の下に行った研究であり、本学の医経連携(医学と経済・経営の連携)の成果の一つです。
本研究成果は、BMC Health Services Research誌に掲載されました(2026年9月7日公開)。
研究成果のポイント
- 患者逆紹介選好は、医師全般への信頼とヘルスリテラシーが高いほど強い。
- 高い患者経験価値は、医師全般への信頼とヘルスリテラシーを介して間接的に高い逆紹介選好と関連している。
- 逆紹介を促進するには、医師と患者さんの信頼関係の構築、ヘルスリテラシーの向上、良好な患者経験価値を生む診療環境の整備が有効な可能性を示唆。
研究背景
大病院が高度・専門医療を担い、病状が安定した患者さんの継続診療を地域の診療所やかかりつけ医へ移す「逆紹介」は、地域医療連携を実装する重要な仕組みです。患者さんの通院負担や大病院の外来の混雑を減らし、限られた医療資源を適切に使う上でも重要です。一方、日本では医療機関を自由に選べるため大病院への受診希望が根強く、患者さんが主治医の変更や地域医療機関への移行に不安を抱くケースが見受けられます[1,2]。そこで、本研究では、制度面ではなく患者側の心理・情報理解に着目し、医師への信頼、ヘルスリテラシー、患者経験価値という要素が患者逆紹介選好にどう結びついているのかを、先行研究で開発した19項目からなる患者逆紹介選好尺度(Patient Preference Questionnaire for Reverse Referral:PQR-19)*6[3]を用いて検証しました。
研究内容
過去6カ月以内に大病院(400床以上)に入院した経験があり、その疾患で何らかの医療機関に通院している20歳以上の患者さんを対象として、インターネットによる横断調査を行い、293人よりアンケートの回答を得ました。各因子の測定には、以下の標準化された尺度を使用しました。
- 患者逆紹介選好:PQR-19
- 医師全般への信頼:Abbreviated Wake Forest Physician Trust Scale(A-WFPTS)医師全般版
- ヘルスリテラシー:The 14-item Health Literacy Scale(HLS-14)
- 患者経験価値:The Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems Clinician & Group Survey(CG-CAHPS)の総合的評価
以上の結果から、患者さんが良好な医療体験(患者経験価値)を得ることが、医療への理解(ヘルスリテラシー)や医師を信頼できるという状態につながり、それらが逆紹介を前向きに捉えるうえで重要な要素となる可能性が示されました。
今後の展開
本研究は、「患者経験価値」「医師全般への信頼」「ヘルスリテラシー」という患者側の要素を一つのモデルに統合し、逆紹介制度が実際に機能するためには患者自身の受容と参加が重要である可能性を定量的に示しました。このことは、逆紹介を推進するにあたり、「説明する」「信頼を築く」「患者さんと一緒に選ぶ」という実装策を考えるための行動科学的な土台となります。
本研究は横断研究であり、因果関係の正しさや実際の逆紹介受諾率への効果までは明らかにできていません。そのため今後は、
①逆紹介を勧める理由と逆紹介による患者さんの利点を平易な言葉で説明する
②teach-back法や視覚的教材などを利用して理解を助け、理解度を確認する
③共同意思決定(shared decision-making)により逆紹介先を一緒に選ぶ
④病状変化時には速やかに大病院へ再紹介できることを伝える
といった介入の効果を前向きに検証することが必要です。
研究費
本研究は、JSPS科研費(JP25K11691)の支援を受けて実施されました。
論文情報
著者:Ryusuke Yoshimi, Yutaro Nemoto, Hirotaka Kato, Koji Hara
掲載雑誌:BMC Health Services Research
DOI:https://doi.org/10.1186/s12913-026-15556-1
用語説明
*1逆紹介(reverse referral):大病院が病状の安定している患者さんを紹介元であるかかりつけ医や地域の診療所等へ紹介すること。
*2選好(preference):経済主体が効用に基づいて選択肢をランク付けする順序。本研究では、「逆紹介を受け入れないこと」よりも「逆紹介を受け入れること」の方が好ましい選択肢であると考える程度。
*3ヘルスリテラシー(health literacy):健康や医療に関する情報を入手し、理解・評価したうえで、自身の健康管理や意思決定に活用する力。
*4患者経験価値(patient experience):患者さんが医療機関で受けるケアやサービスを通じて実際に経験した事柄を患者自身の視点から評価する概念であり、医療の質を評価する重要な指標の一つ。
*5SIMBA:横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科の社会人向けのMBAコース。主に社会課題領域をテーマとした研究指導を行っており、Social Innovation MBAを略してSIMBA(シンバ)と呼んでいる。
SIMBA紹介ページ:https://www.yokohama-cu.ac.jp/int_manage/program/simba.html
*6Patient Preference Questionnaire for Reverse Referral(PQR-19):当研究グループが開発した19項目からなる患者逆紹介選好尺度。質問票により、かかりつけ医評価、逆紹介受容性、治療継続性、病勢評価の4領域から患者さんが逆紹介をどの程度好ましい選択肢と捉えるかを評価。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/20250819yoshimi.html
参考文献など
[1] 田村誠、 福田敬、 宮城恵子、宮城敏夫「逆紹介された患者の通院行動と機能分化に対する態度」 病院管理、2002、39 (Suppl.): 141
[2] 吉見竜介「膠原病領域における病診連携の促進と行動経済学の応用について. 令和4年度YCU病院経営プログラム特別研究報告書」公立大学法人横浜市立大学、2023、p. 243-253
[3] 吉見竜介、根本裕太郎、加藤弘陸、原広司「地域医療連携における患者逆紹介選好尺度PQR-19の提案」日本公衆衛生学雑誌、2025、72 (11): 853-861
