1枚の心電図からAIが心房細動リスクを瞬時に評価
―実臨床665例で有用性を検証―
藤田医科大学(愛知県豊明市 学長:岩田仲生)医学部循環器内科学(ばんたね病院)の祖父江嘉洋教授らの研究グループは、岐阜ハートセンター(岐阜県岐阜市)との共同研究により、AI(人工知能)を搭載した12誘導心電計(AI-ECG)※1を用いて、通常の洞調律心電図から心房細動※2のリスクを迅速に評価できるかを実臨床データで検証しました。665例の実臨床データを解析した結果、AIが心房細動のリスクが高いと判定した患者ほど実際に心房細動を有する割合が高いことが明らかになりました。さらに、AIがどのような情報をもとに心房細動のリスクを判定しているのかを解析したところ、AIは従来の臨床的なリスク指標であるCHA₂DS₂-VAScスコアに加えて、心電図から得られる情報を活用することで、従来の指標を補完する役割を担う可能性があることが示されました。
本研究は、実際の診療現場に導入されているAI搭載心電計の有用性を多施設共同研究で検証したものです。健康診断や一般外来で日常的に行われる心電図検査にAIを活用することで心房細動の早期発見や脳梗塞予防への応用が期待されます。
本研究成果は、米国の心血管領域の国際学術誌「JACC: Advances」(2026年8月号)に掲載され、オンライン版が2026年7月26日(米国東部時間)に公開されました。
論文URL:https://doi.org/10.1016/j.jacadv.2026.103036
<研究成果のポイント>
- AI搭載の12誘導心電計を用いて、通常の洞調律心電図から約2秒で心房細動リスクを評価できるか、665例の実臨床データで検証しました。
- AIが高リスクと判定した患者ほど心房細動の有病率が高く、日常診療における心房細動スクリーニングへの有用性が示されました。
- AIの説明可能性(Explainability)を解析した結果、AIは既存の臨床リスク評価を補完する役割を担うことが示され、循環器領域におけるAI医療の適切な活用に重要な知見となりました。
<背 景>
心房細動は最も頻度の高い持続性不整脈であり、脳梗塞や心不全など重篤な心血管疾患の原因となります。一方で、自覚症状に乏しく発作性に出現することも多いため、診断されないまま経過する患者も少なくありません。そのため、通常の診療で心房細動の高リスク患者を早期に見つけ出すことが重要な課題となっています。
近年、人工知能(AI)を用いて通常の12誘導心電図から心房細動リスクを評価する技術が開発されています。しかし、多くはAIアルゴリズムの開発や研究環境での性能評価にとどまり、実際の診療現場でどの程度有用なのか、またAIがどのような情報を基に判断しているのかについては十分に検証されていませんでした。
<研究手法・研究成果>
本研究では、藤田医科大学ばんたね病院と岐阜ハートセンターの2施設において、40歳以上の665名を対象に、AI搭載12誘導心電計(FCP-9900)を用いて解析を行いました。AIは通常の洞調律心電図を約2秒で解析し、心房細動リスクをLow、Mid-Low、Mid-High、Highの4段階に分類しました。
解析の結果、AIによるリスク判定が高くなるほど心房細動の有病率が高く、High群ではLow群と比較して約3.5倍高いオッズ比を示しました。さらに、AIの判断根拠を可視化するSHAP解析※3を行った結果、AIは単独で従来の臨床リスク評価を上回るものではなく、CHA₂DS₂-VAScスコアなどの既存の臨床情報と組み合わせることで、より有用なリスク評価が可能になることが明らかとなりました。
図. AIによる心房細動リスク分類と実際の心房細動との関連
AI判定が高リスクになるほど心房細動を有する割合が高く、高リスク群では低リスク群に比べ約3.5倍高い関連を認めた。
<今後の展開>
本研究は、AI搭載12誘導心電計を実際の診療現場で評価した多施設共同研究であり、AI搭載12誘導心電計の実臨床における有用性を示す重要な知見となります。
今後は、健康診断や一般外来などで日常的に行われる心電図検査へAI解析を組み合わせることでこれまで見逃されていた心房細動高リスク患者を効率よく抽出し、早期診断や脳梗塞予防につながることが期待されます。また、本研究で示されたAIの説明可能性に関する知見は、循環器領域におけるAI医療の社会実装を進める上でも重要な基盤となることが期待されます。
<用語解説>
※1 AI(人工知能)を搭載した12誘導心電計(AI-ECG)
人工知能を用いて通常の12誘導心電図を解析し、心房細動などの疾患リスクを推定する技術です。
※2 心房細動(Atrial Fibrillation:AF)
心房が不規則かつ高速に興奮する不整脈で、脳梗塞や心不全の原因となる代表的な疾患です。
※3 SHAP解析
AIがどの情報を重視して予測したかを可視化する解析手法で、AIの説明可能性(Explainability)を高めるために用いられます。
<文献情報>
論文タイトル:
AI-ECG Risk Stratification for Atrial Fibrillation: Real-World Performance and Explainability
著者:
松尾 幸輝1、祖父江 嘉洋1、三宅 泰次2、竹田 和也3、渡邉 英一1、松尾 仁司2、井澤 英夫4
所属:
1. 藤田医科大学 医学部内科学・第2(ばんたね病院 循環器内科)
2. 岐阜ハートセンター 循環器内科
3. 藤田医科大学ばんたね病院 放射線部
4. 藤田医科大学 循環器内科学
DOI:
10.1016/j.jacadv.2026.103036
