【名城大学】「シス型ζ-カロテン」の高い紫外線吸収能と抗酸化・抗糖化活性を確認~リコピン生合成中間体から、次世代カロテノイド素材へ~

名城大学

名城大学大学院総合学術研究科を修了した伊藤充哉氏(論文筆頭著者)と、本田真己准教授、ならびにハリマ化成株式会社の澤田和美研究員、中村健人チームリーダーらからなる研究グループは、微生物を活用して産生したζ-カロテン注1)が、紫外線(UV-A)に対する高い吸収能に加え、抗酸化作用(一重項酸素消去活性注2))および抗糖化作用注3)を有することを明らかにしました。さらに、本ζ-カロテンが高い吸収性や加工適性が期待される「シス型」注4)であることを見出すとともに、特定のシス異性体種は長期保管中も異性化しにくく、安定に維持されることを明らかにしました。 名城大学大学院総合学術研究科を修了した伊藤充哉氏(論文筆頭著者)と、本田真己准教授、ならびにハリマ化成株式会社の澤田和美研究員、中村健人チームリーダーらからなる研究グループは、微生物を活用して産生したζ-カロテン注1)が、紫外線(UV-A)に対する高い吸収能に加え、抗酸化作用(一重項酸素消去活性注2))および抗糖化作用注3)を有することを明らかにしました。さらに、本ζ-カロテンが高い吸収性や加工適性が期待される「シス型」注4)であることを見出すとともに、特定のシス異性体種は長期保管中も異性化しにくく、安定に維持されることを明らかにしました。 一般に、リコピンやアスタキサンチンなど多くのカロテノイドは、自然界では二重結合が「トランス型」として主に存在し、トランス型はシス型に比べて結晶性が高く、体内吸収性が低いことが知られています。加えて、シス型は長期保管中にトランス型へ異性化しやすく、その不安定さが実用化の課題とされてきました。しかし本研究では、微生物で生産した主要なシス型ζ-カロテンが長期保管後もトランス型をほとんど生成せず、シス型を維持できることが示されました。 本研究成果は、2026年6月18日に米国化学会(American Chemical Society)が刊行する国際学術誌「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に掲載されました。 図1: シス型ζ-カロテンとカロテノイド類(フィトエン、リコピン、β-カロテン)の 紫外線吸収能、抗酸化作用および抗糖化作用の比較(異符号間に有意差あり、p < 0.05) 【本件のポイント】 ・微生物によって産生されたζ-カロテンは、吸収性や加工適性の観点で有望とされる「シス型」であることを示した。 ・ζ-カロテンは、長期保管中も安定にシス構造が維持されることを示した。 ・ζ-カロテンは光照射によって異性化し、生産時に主生成となるシス異性体とは異なる種類のシス型が増加する挙動を明らかにした。 ・シス型ζ-カロテンは、紫外線のうちUV-A領域(320–400 nm)に対して高い吸収能を示した(図1)。 ・シス型ζ-カロテンは、一重項酸素消去活性に基づく高い抗酸化作用を示した(図1)。 ・光異性化により主要成分となる9-シス型ζ-カロテンは、優れた抗糖化作用を示した(図1)。 ・以上より、シス型ζ-カロテンは次世代カロテノイド素材として、化粧品・食品分野への応用が期待される。 【背景】 ζ-カロテンは、トマトの赤い色素として知られるリコピンが生合成される過程で生じる「中間体」のカロテノイドで、植物や微生物など自然界に広く存在します。一方、食品中などでの含有量は主要カロテノイド(リコピン、β-カロテン、ルテイン等)に比べて一般に少なく、高純度品の精製も難しいため、素材としての物性や機能を詳細に検証した研究は限られていました。 ハリマ化成は近年、地球環境産業技術研究機構(RITE)との共同研究により、ζ-カロテンを多量に蓄積するコリネ型細菌注5)の開発に成功し、研究開発から実生産検討までを見据えたシス型ζ-カロテン生産体制の構築を進めています。さらに名城大学の本田らのグループは、長年培ってきたカロテノイド異性体の分離・精製技術を基盤として、ζ-カロテンの幾何異性体を高純度で得るための精製戦略を確立し、構造同定まで可能とする体制を整えました。これらの進展により、ζ-カロテンを「中間体」としてではなく、独立した素材として物性・機能を体系的に評価する本研究の実施に至りました。 【研究内容】 (1)ζ-カロテンの精製と構造解析 本研究では、微生物によって産生されたζ-カロテン、およびその光照射生成物を対象に、順相クロマトグラフィー注6)による分離・精製を行いました。その結果、計4種類のζ-カロテン異性体を高純度で精製することに成功しました。さらに、精製した4種について核磁気共鳴(NMR)測定注7)により構造解析を行ったところ(図2)、とくに、ζ-カロテンの主要異性体が、9位および9′位(分子の両側)で二重結合がシス化した「9,9′-ジシス型」であることを明らかにしました。なお、これら4種のζ-カロテン異性体のNMR分析は、世界的なカロテノイド研究の権威として知られ、これまで200種類以上の新規カロテノイドの同定実績を有する一般財団法人生産開発科学研究所の眞岡孝至博士により実施されました。 図2: 本研究で同定した4種類のζ-カロテン異性体 (2)光異性化特性の解明 精製した4種類の幾何異性体(トランス型、9-シス型、9,9′-ジシス型、9,13,9′-トリシス型)それぞれに白色LED光を4日間照射し、照射中の異性体組成の変化を評価しました。その結果、いずれの異性体も光照射により異性化反応が進行し、主要な異性体が9-シス体へと移行することを明らかにしました(図3)。多くのカロテノイドは、光照射により異性体組成がトランス型へ収束する傾向が知られていますが、ζ-カロテンは、光照射下で9-シス型が優勢となるという特徴的な挙動を示し、既報のカロテノイドとは異なる光異性化特性を有することを明らかにしました。 図3: 光照射によるζ-カロテンの異性化挙動: (A)トランス型、(B)9-シス型、(C)9,9′-ジシス型、(D)9,13,9′-トリシス型 (3)熱異性化特性の解明 精製した4種類の異性体(トランス型、9-シス型、9,9′-ジシス型、9,13,9′-トリシス型)を暗所30℃で21日間保管し、保管中の異性体組成の変化を調べました。その結果、いずれの異性体も緩やかに他の異性体へ変化しました(図4)。一般に、他のカロテノイドでは長期保管中にシス型からトランス型への異性化が進みやすく、この不安定さが実用化上の課題となっています。一方、9,9′-ジシス型ζ-カロテンは、本条件下ではトランス型を生成しませんでした。つまり、9,9′-ジシス型は長期保管中もシス型構造を維持しやすく、実用上有利な安定性を有することが示されました。 図4: 暗所、30℃での保管によるζ-カロテンの異性化挙動: (A)トランス型、(B)9-シス型、(C)9,9′-ジシス型、(D)9,13,9′-トリシス型 (4)紫外線吸収能の評価 2種のシス型ζ-カロテン(9-シス型、9,9′-ジシス型)について紫外線吸収能を評価しました(図1)。その結果、シス型ζ-カロテンは、参照した他のカロテノイド(フィトエン、リコピン、β-カロテン)よりも高いUV-A領域(320–400 nm)の吸収能を示しました。例えばエタノール中では、9-シス型および9,9′-ジシス型のUV-A吸収能はいずれもリコピンの約4.5倍に達しています。これは、シス型ζ-カロテンの光吸収帯がUV-A領域に重なるためです。さらに、シス型ζ-カロテンの吸光係数は380 nm付近で約6.5〜8.0万 M⁻¹cm⁻¹と、化粧品で広く用いられるUV-A吸収剤(ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル)の吸光係数(約3.4〜3.9万 M⁻¹cm⁻¹)に対し優位と考えられます。なお、市販のUV吸収剤には化学合成品が多く、近年は原料の由来や環境配慮の観点からも代替素材への関心が高まっています。この点でζ-カロテンは、天然由来のUV-A吸収素材として展開が期待されます。 (5)抗酸化・抗糖化活性の評価 抗酸化作用として一重項酸素消去活性と、皮膚関連の生物活性として抗糖化作用を評価しました。主要なシス型ζ-カロテン(9-シス型、9,9′-ジシス型)と参照カロテノイドに加え、代表的な対照化合物(抗酸化:没食子酸[もっしょくしさん;ポリフェノールの一種]、抗糖化:アミノグアニジン)と同一条件で比較しました(図1)。その結果、シス型ζ-カロテンの一重項酸素消去活性はリコピンやβ-カロテンに比べるとやや劣るものの、強力な活性を示しました。とくに没食子酸と比較して、10倍以上高い一重項酸素消去活性を示しました。また、9-シス型のζ-カロテンはグルコース–タンパク質反応系に基づく評価において極めて高い抗糖化作用を示し、リコピンやβ-カロテンに加え、代表的な抗糖化剤であるアミノグアニジンと比較しても高い活性を示しました。以上より、シス型ζ-カロテンは抗酸化作用にとどまらず、紫外線吸収能と抗糖化作用も併せ持つことから、単なる抗酸化剤を超える機能性成分として、化粧品・食品素材への応用が期待されます。 【今後の予定】  今回得られた知見を活かして、化粧品原料としての実用可能性を追求し、安全性評価や量産体制の構築などの検証を進めていきます。 【補足事項】 補足1)ハリマ化成株式会社からのプレスリリースはこちら: https://harima.co.jp/newsroom/2026/0602100000.html 補足2)本取り組みで使用したコリネ型細菌は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」事業において、「高吸収型天然カロテノイドの大量生産システム実証」(2022~2024年度)の一環として、ハリマ化成とRITEがNEDOの補助を受けて開発を推進した菌株である。 https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101562.html https://www.nedo.go.jp/content/100981872.pdf 補足3)本研究におけるζ-カロテン異性体の構造解析は、一般財団法人生産開発科学研究所の眞岡孝至博士の協力のもと、核磁気共鳴(NMR)測定により実施した。 https://seiken-site.or.jp/pages/151 補足4)本研究における抗糖化活性の評価は、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)の瀬戸山央博士の協力のもと実施した。 https://researchmap.jp/sphagnum 補足5)本研究成果は、論文筆頭著者である名城大学の伊藤充哉が2025年度カロテノイド若手の会(2025年11月8日)にて発表し、最優秀発表賞を受賞した。 https://www.carotenoid.jp/37danwakai/carotenoid2025.pdf 【研究助成】 本研究の一部は、科学研究費助成事業 基盤研究(C)(25K08968)および国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「官民による若手研究者発掘支援事業」からの支援により行われました。 【用語の解説】 注1)ζ-カロテン ζ-カロテンは、トマト色素で知られるリコピンを生合成する際の中間体で、自然界に広く存在し食経験もある一方、天然での含有量が少なく高純度試薬が高価なため、研究事例は極めて限定的である 注2)一重項酸素消去活性 紫外線などで生じる反応性の高い酸素種(一重項酸素)を消去し、酸化ストレスを低減する能力 注3)抗糖化作用 糖とタンパク質が結びついて起こる「糖化」の進行を抑え、糖化由来の加齢関連生成物の生成・蓄積を抑制する作用 注4)シス型 分子内の二重結合まわりの置換基が同じ側に位置する配置(反対側に位置するものがトランス型)で、カロテノイドは一般に天然ではトランス型が主として存在する 注5)コリネ型細菌 人や環境中にも見られる細菌の一種(Corynebacterium sp.)で、アミノ酸などの有用物質(食品関連原料)を作る産業用微生物としても知られる 注6)順相クロマトグラフィー 極性の高い固定相(シリカなど)に対し、低極性溶媒を移動相として用いて成分を分離するクロマトグラフィー法で、異性体などの分離に優れる 注7)核磁気共鳴(NMR)測定 強磁場中で原子の共鳴信号を測定し、化合物の骨格構造や官能基配置などを解析する構造決定法 【掲載論文】 雑誌名: Journal of Agricultural and Food Chemistry タイトル: Spectral Characterization, Isomerization Behavior, and Antioxidant Activity of ζ-Carotene Geometric Isomers: From Biosynthetic Intermediates to Functional Ingredients (ζ-カロテン異性体の分光学的特性、異性化挙動、抗酸化活性:生合成中間体から機能性素材へ) 著者名: Mitsuya Ito, Yuki Nishimura, Kazumi Sawada, Kako Matsumoto, Kento Nakamura, Ou Setoyama, Takashi Maoka, and Masaki Honda 掲載日時: 2026年6月18日に電子版に掲載 https://doi.org/10.1021/acs.jafc.5c17774 【本件に関するお問い合わせ先】 ・研究内容に関すること 名城大学大学院総合学術研究科/理工学部 准教授 本田真己(ほんだ まさき) TEL:052-838-2284 E-mail:honda@meijo-u.ac.jp ハリマ化成株式会社研究開発カンパニー チームリーダー 中村健人(なかむら けんと) 研究員 澤田和美(さわだ かずみ) TEL:029-847-5080 E-mail:rd-biotech@harima.co.jp ・広報担当 名城大学渉外部広報課 Tel: 052-838-2006 Email: koho@ccml.meijo-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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