葉の気孔を計測するAIアシスト機能搭載顕微鏡システムの開発 

気候変動に対応した育種への応用に期待

 横浜市立大学木原生物学研究所 爲重才覚 特任助教(新潟大学 特任助教兼任)と清水健太郎 客員教授(チューリッヒ大学 教授兼任)の研究グループ、および名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所WPI-ITbM 戸田陽介 特任助教(科学技術振興機JSTさきがけ研究者、株式会社フィトメトリクス 代表取締役社長兼任)、名古屋大学同研究所 木下俊則教授らの研究グループは、顕微鏡画像から気孔を認識するAI技術と、それを動かすための小型コンピューターを利用して、リアルタイムに画像解析する安価な新しい顕微鏡システムを開発しました。本システムは、画像品質を確認しながらデータ収集と解析を行うことができ、実際にコムギの気孔を認識・計測したところ、精度の高い結果を得ることができました。今後はこの技術を利用してコムギなど作物種の気孔の数や大きさを決める遺伝子の同定など、育種学的な成果につなげていくことを目指します。
 本研究成果は、「Frontiers in Plant Science」誌に掲載されました。(日本時間2021年7月29日13時)

研究成果のポイント
  • コムギや近縁植物の気孔の数とサイズを測る顕微鏡システムを開発した。
  • 他の様々な顕微鏡観察に応用できる。
  • 顕微鏡観察と同時にリアルタイムに解析を行うことで多面的に研究を支援できる。
  • ソフトウェア、ハードウェアともに非常に低予算で構築できる。
図1:顕微鏡、カメラ、画像処理用コンピューターを接続して葉のサンプルを観察している様子

研究背景
 植物の葉の表面には気孔と呼ばれる小さな穴があり、気孔を通して光合成に必要なCO2や酸素のガス交換が起こります。そのため、気孔の数が多く大きいほど光合成効率は高くなりやすい一方、同時に水分が失われて乾燥し枯れやすいため、その植物が育つ環境に応じて最適な気孔の数と大きさは異なると考えられます。世界的な気候変動に対して、今後、各地の環境で対応した作物品種を育成していくには、環境に適応できる様々な形質を付与する必要があります。その一つとして、気孔の数や大きさは重要な形質といえます。
 気孔の数や大きさの異なる品種を育成したり、気孔の数や大きさを決める遺伝子を見つけて利用したりするには、多様な品種の葉を顕微鏡で観察して気孔の数や大きさのデータを多数収集する必要があります。しかし、茎、葉、穂の大きさ等の比較的容易に計測できる形質に比べ、気孔は顕微鏡観察を行わなければ測れない形質であるため、データ収集の労力が大きく時間がかかります。そこで、研究グループでは、顕微鏡を使った観察・計測の作業をアシストする一種のAI(深層学習モデル)を搭載した顕微鏡システムを開発することでデータ収集を効率化することを目指しました。

研究内容
 本研究では、名古屋大学発ベンチャーである株式会社フィトメトリクスの協力を得て、気孔を計数・計測する画像解析システムを低予算でかつ誰でも構築できる方法論と、顕微鏡観察時にリアルタイムの画像解析を可能とするインターフェースを開発しました。撮影と同時に計測結果をエクセルなどで扱えるデータとして出力することで、大きく作業効率を向上させることができました。
 実際にこのシステムを使ってコムギおよび近縁種の葉の気孔を計測したところ、葉の向軸側(表側)と背軸側(裏側)で気孔の数が異なる様子や、ゲノムサイズに比例して気孔サイズが異なる様子、気孔の密度とサイズが負の相関を示すこと、といった気孔に関する計測データを効率的に収集することができました。

図2:コムギの葉の表皮サンプル(表面インプリント)の顕微鏡像(右上)とそれをAI(深層学習モデル)で処理して気孔を検出している様子(右下)。気孔を緑色の枠で示してある

今後の展開
 今後、本システムを活用していくことで、気孔の形質に関連する遺伝子の発見や機能解析、それらを利用した新品種開発のスピードの加速化が期待されます。
また、本システムを様々な研究分野の顕微鏡観察で応用できるよう、同じハードウェアを使ってさらに汎用性を拡張する計画です。

研究費
 本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ「情報科学との協働による革新的な農産物栽培手法を実現するための技術基盤の創出」およびCREST「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」、日本学術振興会科学研究費助成事業などの支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル: An Affordable Image-Analysis Platform to Accelerate Stomatal Phenotyping During Microscopic Observation
著者: *Yosuke Toda
1,2,3, *Toshiaki Tameshige4,5, Masakazu Tomiyama2, Toshinori Kinoshita3, and Kentaro K. Shimizu4,6

1 JSTさきがけ
2 株式会社フィトメトリクス
3名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所
4横浜市立大学木原生物学研究所
5 新潟大学理学部
6 チューリッヒ大学 進化生物・環境学研究所

掲載雑誌: Frontiers in Plant Science
DOI:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2021.715309/full




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E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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