株式会社ヤクルト本社と帝京大学医学部小児科学講座の児玉浩子非常勤講師(前客員教授・現帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科 学科長)がガラクトオリゴ糖の継続摂取による乳児の糞便中ビフィズス菌の増加を証明

株式会社ヤクルト本社(社長:根岸 孝成)と帝京大学医学部小児科学講座の児玉浩子非常勤講師(前客員教授・現帝京平成大学 健康メディカル学部 健康栄養学科 学科長)は、共同研究の成果として、育児粉乳で哺育される乳児にプレバイオティクスの一種であるガラクトオリゴ糖(※1)を継続的に摂取してもらうことにより、便中のビフィズス菌の占有率が増加し、腸内フローラが母乳栄養児型へ変動することを無作為化プラセボ対照二重盲検試験(※2)で明らかにした。これにより、ガラクトオリゴ糖の継続摂取が育児粉乳で哺育される乳児のおなかの健康に役立つ可能性が示された。なお、本研究成果は学術誌「Beneficial Microbes」に4月28日に公開された。


■背景
 ヒトの腸内にはさまざまな細菌が生息し、腸内フローラを形成している。新生児は無菌の状態で誕生するが、生後間もなく腸内フローラが形成される。乳児によってその形成過程が大きく異なること、また、ほとんどの乳児には、生後数週間のうちにビフィズス菌優勢のフローラ(ビフィズス・フローラ)が形成されることが報告されている。乳児にビフィズス・フローラが形成されることで、細菌性の感染症の罹患を防ぐと言われている。
 母乳栄養児はビフィズス・フローラが形成されやすく、その要因として、母乳中に含まれるオリゴ糖が上部消化管で吸収されずに大腸まで到達し、ビフィズス菌に選択的に利用されることが報告されている。
 乳児の哺育にあたっては母乳哺育が第一選択となるが、さまざまな理由から育児粉乳による哺育が行われる場合もある。育児粉乳による哺育においては、母乳哺育と比較して、乳児の糞便の大腸菌やクロストリジウムといったビフィズス菌以外の細菌の検出頻度が高いことが報告されている。
 これまでの研究で、ガラクトオリゴ糖はビフィズス菌に選択的に利用されること、成人を対象とした試験でビフィズス菌を増やすことが報告されている。
 そこで、本研究では、ガラクトオリゴ糖の摂取が、乳児のビフィズス・フローラの形成を促進するかを明らかにするため、ガラクトオリゴ糖を含む育児粉乳の継続摂取が乳児の腸内菌叢にもたらす影響を無作為化プラセボ対照二重盲検試験にて検証した。

■研究内容
 本研究は、育児粉乳で哺育されている乳児(生後31~54日目)35名をそれぞれ無作為に2群に分け、ガラクトオリゴ糖を含むガラクトオリゴ糖含有育児粉乳またはそれを含まないプラセボ育児粉乳にて2週間哺育を行った。哺育開始時および両育児粉乳による哺育開始から2週間後に糞便の提供を受け、腸内フローラおよび腸内環境の解析を行い、ガラクトオリゴ糖含有育児粉乳群とプラセボ育児粉乳群で比較を行った。

 保護者による試験の辞退、母乳哺育への切り替えにおいて試験への参加を見合わせた5名、試験開始時において糞便中にビフィズス菌が検出されなかった8名、計13名の乳児を除く22名を対象に解析を行った。結果は以下の通り。

(1)ガラクトオリゴ糖含有育児粉乳の継続摂取が乳児の腸内フローラに及ぼす影響
 ガラクトオリゴ糖含有育児粉乳群ではプラセボ育児粉乳群と比較して、哺育2週間後における糞便中のビフィズス菌占有率 (図1.A)およびビフィズス菌の菌数(図1.B)が有意に増加した。
 また、母乳哺育においてはビフィズス菌占有率の増加により、育児粉乳哺育に比べて糞便中の微生物構成の多様性が減少することが報告されている。そこで、微生物構成の多様性を示す3つの多様性指数(※3)について追加解析を行った。
 腸内フローラ構成の均等度を表すShannon index(※3-2)(図2.A)はガラクトオリゴ糖含有育児粉乳群でプラセボ育児粉乳群と比較して、有意に減少した。また、微生物集団の菌種数の期待値を表すChao 1 index(※3-1)(図2.B)と系統組成の多様性を示すPhylogenic diversity index(※3-3)(図2.C)においてもガラクトオリゴ糖含有育児粉乳群で減少傾向が認められ、糞便中のビフィズス菌の占有率の増加とともに母乳栄養児型に変動していることが示された。

(2)ガラクトオリゴ糖含有育児粉乳の継続摂取による安全性
 ガラクトオリゴ糖含有育児粉乳摂取による有害事象は観察されなかった。

■考察および今後の期待
 無作為化プラセボ対照二重盲検試験により、ガラクトオリゴ糖含有育児粉乳の継続的な摂取が乳児の糞便中のビフィズス菌占有率およびビフィズス菌の菌数を有意に増加させることが明らかとなった。さらに、母乳栄養児の腸内フローラのひとつの特徴である糞便中の細菌構成の多様性の減少も認められた。
 これらの結果から、ガラクトオリゴ糖含有育児粉乳による哺育は、乳児の腸内フローラを母乳栄養児に形成されやすいビフィズス・フローラに変動させていることが示された。
 ビフィズス・フローラは、乳児の健康に好影響を与えることが報告されている。ガラクトオリゴ糖含有育児粉乳による哺育により、乳児の腸内フローラをビフィズス・フローラに変動させていることは、乳児の健全な成長にとって重要な意義があると考えられる。

【用語の説明】
(※1)ガラクトオリゴ糖
 大腸でビフィズス菌を増加させ、整腸作用を示す機能性のオリゴ糖の一種。
(※2)無作為化プラセボ対照二重盲検試験
 試験参加者を無作為に群分けした上、その内訳については試験参加者だけでなく試験の実施に関わる医師や看護師などの試験実施者が知りえない状況で実施される。また、色や味を似せて有効成分を含まないプラセボ飲料を比較対照として使用。無作為化プラセボ対照二重盲検試験により得られた成果は、より科学的信頼性の高い成果といえる。
(※3)細菌構成の多様性
 ヒトの腸内には、様々な菌がお互いにバランスを保ちながら存在しており、複雑な微生物生態系が形成されている。この微生物生態系がどれだけ多様であるかを比較するために、さまざまな「多様性指数」が用いられている。本研究では、多様性を評価するための代表的な3つの指数(Chao 1 index、Shannon index、Phylogenic diversity index)を用いた。
(※3-1)Chao 1 index
 腸内に存在する菌の種類が多いほど、より多様であると考えることができる。しかし、腸内には百兆個の細菌がいるので、どれくらいの種類の菌が存在するかをすべての細菌について調べることは困難である。そこで、本研究では3000個の菌株を識別するDNA配列を調べ、それを元にどれくらいの種類の菌がそこに存在するかの期待値(Chao 1 index)を計算して比較を行った。
(※3-2)Shannon index
 例えば、A、B、C、Dの4種類の菌から構成される集団があって、その比率が25:25:25:25の集団と、70:10:10:10の集団があった場合、「均等度」の観点から、前者の方が多様と考えることができる。この均等度を数値化したもので、数値が大きいほど多様であることを表す。
(※3-3)Phylogenic diversity index
 一方、菌種数と均等度が同一でも、その集団を構成する菌種の系統的な類似性が異なれば、多様性が異なる。例えば、同じビフィズス菌に属する4菌種から構成される集団と、ビフィズス菌、乳酸桿菌、大腸菌、バクテロイデス属細菌それぞれ1菌種から構成される集団では、後者の方が多様であると考えることができる。この系統学的な多様性を数値化したもので、大きいほど多様であることを表す。

※図版は添付PDFを参照。

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