干ばつに関する全球解析から生態系の「見えにくい脆弱性」を発見

 明星大学(東京都日野市、学長:冨樫 伸)理工学部の柳川亜季准教授と、鳥取大学国際乾燥地研究教育機構の藤巻晴行教授は、世界の陸域生態系を対象とした解析を実施しました。その結果、干ばつが悪化している地域だけでなく、干ばつ傾向が改善・横ばいであっても、生態系の耐性が低下している地域が存在することが明らかになりました。

 本研究成果は、国際学術誌 Scientific Reports に2026年8月16日付でオンライン公開されました。


■本研究におけるポイント—「干ばつの悪化」と「生態系の弱体化」のずれを全球規模で明らかに


世界の陸域生態系について、干ばつの長期変化と生態系レジスタンスの長期変化を同じ空間上で比較しました。

干ばつが深刻化している地域だけでなく、干ばつが悪化していない地域でも生態系レジスタンスが低下していることを明らかにしました。

干ばつの変化と生態系レジスタンスの変化の組み合わせは、草原、低木地、農耕地などの土地被覆によって異なることが示されました。

レジスタンスが低下する地域は、相対的に低い地形位置に分布する傾向もみられ、気象条件だけでなく、水文・地形条件や生態系固有の感受性が脆弱性を左右する可能性が示されました。

干ばつの強まりだけを基準に脆弱地域を判断すると、将来リスクの高い生態系を見落とす可能性があります。



■研究の背景— 干ばつが強まれば、生態系は弱くなるのか

 気候変動に伴い、世界各地で干ばつなどの極端気象による生態系への影響が懸念されています。生態系の脆弱性を評価する指標の一つに「レジスタンス(Resistance:生態系が干ばつに耐える力)」があります。これは、干ばつなどの極端な環境条件にさらされた際に、生態系が植生量や生産機能をどの程度維持できるかを表す指標です。一般的には、干ばつが長期的に深刻化すれば、生態系のレジスタンスも低下すると考えられます。そのため、生態系の将来的な脆弱性を評価する際には、干ばつの頻度や強度などの変化が重要な手掛かりとして利用されてきました。
 しかし実際には、干ばつが悪化している地域と、生態系が弱くなっている地域は本当に同じなのでしょうか。本研究ではこの点に着目し、世界各地の陸域生態系を対象として、「干ばつがどのように変化してきたか」と「生態系のレジスタンスがどのように変化してきたか」を同時に評価しました。

■研究内容と成果— 全球解析で見えてきた脆弱性の分布

 本研究では、2002年から2019年までの全球の陸域生態系を対象としました。人為的な水供給の影響を避けるため、灌漑地域を解析対象から除外しています。植物の状態については、人工衛星から得られる植生指数NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指数)を使用しました。また、干ばつの程度については、降水量と蒸発散の影響を考慮したSPEI(Standardized Precipitation Evapotranspiration Index:標準化降水蒸発散指数)を利用しました。

 約5分(5 arc-minutes)の空間解像度で、各地域について、以下の4つの特徴が長期的にどのように変化しているかを解析しました。


干ばつの継続期間

干ばつの発生頻度

干ばつの深刻度

干ばつの強度



 同時に、干ばつ発生時に植生機能をどの程度維持できるかを示す生態系レジスタンスについても、その長期変化を評価しました。そして、「干ばつが悪化/改善しているか」と「生態系レジスタンスが向上/低下しているか」を組み合わせて全球分布を比較しました。
 その結果、予想されるように、干ばつが悪化するとともにレジスタンスが低下している地域が確認されました。
 一方で、干ばつが悪化していない、あるいは干ばつ傾向が弱まっているにもかかわらず、レジスタンスが低下している地域も広く存在しました。さらに、このような組み合わせの分布は土地被覆によって異なっていました。また、最寄りの排水路からの相対的な高さを表す地形指標を比較したところ、レジスタンスが低下するカテゴリーは、相対的に低い地形位置に分布する傾向が認められました(添付図参照)。
 以上から、生態系の干ばつに対する脆弱性は、気象学的な乾燥化だけでは説明できず、地域の水文・地形条件や、それぞれの生態系が持つ干ばつへの感受性など、複数の要因によって形成されている可能性が示されました。

■研究の意義— 「干ばつが強まる場所」だけを見ていては、脆弱な生態系を見落とす可能性

 本研究の結果は、干ばつそのものが長期的に悪化していなくても、生態系のレジスタンスが低下している地域が存在することを示唆しました。したがって、生態系の保全や適応策を検討する際には、気候変動による干ばつの増加だけでなく、生態系がその気候変動に対してどのように応答しているかを同時に評価する必要があります。

 本研究で明らかになった、「干ばつ傾向と生態系レジスタンスの空間的な不一致」は、従来の気候指標のみでは捉えにくかった潜在的な生態系脆弱性を発見する手掛かりとなります。
 今後、生態系の種類や地形・水文条件、人為的影響などをさらに組み合わせることで、気候変動下で特に注意すべき地域を、より適切に特定できることが期待されます。

■論文情報

論文タイトル
Global mismatches between drought trends and ecosystem resistance reveal emerging ecosystem vulnerability
著者
Aki Yanagawa(明星大学 理工学部)
Haruyuki Fujimaki(鳥取大学 国際乾燥地研究教育機構)
掲載誌
Scientific Reports(Springer Nature)
公開日
2026年8月16日
DOI
10.1038/s41598-026-66947-7

■用語解説

生態系レジスタンス(ecosystem resistance)
干ばつなどの極端な環境変化が起こった際に、生態系が植生量や生産機能などをどの程度維持できるかを表す考え方。本研究では衛星植生データを用いて評価した。

NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指数)
人工衛星による赤色光と近赤外光の反射特性を利用して植物の状態を評価する指標。植生量や植物活動の把握に広く用いられている。

SPEI(Standardized Precipitation Evapotranspiration Index:標準化降水蒸発散指数)
降水量だけでなく蒸発散による水分損失も考慮し、乾燥・湿潤状態を評価する気候指標。

HAND(Height Above Nearest Drainage)
各地点が最寄りの河川・排水経路よりどの程度高い位置にあるかを示す地形指標。地形に伴う水分条件の違いを表す指標として利用される。

■研究助成

 本研究は、鳥取大学乾燥地研究センター共同研究(若手研究者奨励研究)および日本学術振興会科学研究費助成事業(JP24K03127、JP22K05716)の支援を受けて実施されました。

■研究内容に関する問い合わせ先

柳川 亜季(明星大学 理工学部 准教授)
E-mail:aki.yanagawa@meisei-u.ac.jp



▼本件に関する問い合わせ先
明星大学アドミッションセンター 学生募集・広報チーム
手塚龍之
住所:日野市程久保2-1-1
TEL:042-591-5670
メール:koho@meisei-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

この企業の関連リリース

この企業の情報

組織名
明星大学
ホームページ
https://www.meisei-u.ac.jp/
代表者
冨樫 伸
上場
非上場
所在地
〒191-8506 東京都日野市程久保2丁目1-1
連絡先
042-591-5111

検索

人気の記事

カテゴリ

アクセスランキング

  • 週間
  • 月間
  • 機能と特徴
  • Twitter
  • デジタルPR研究所