杏林大学 保健学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻の早坂友成 准教授を筆頭著者とする研究グループは、医学部精神神経科学教室の精神科医師,心理師とともに、双極症およびうつ病でうつ病相を呈する患者を対象に、作業療法セッション中の行動観察から得られる「作業遂行特性」が双極症とうつ病の鑑別診断に役立つかどうかを検討しました。本研究は、杏林大学医学部付属病院精神神経科で実施されている、治療抵抗性うつ病の鑑別診断を目的とした1週間の入院評価プログラムのデータを後方視的に解析したものです。日々の臨床において精神神経科の医師,心理師と作業療法士が連携しながら蓄積してきた観察データをもとに、杏林大学医学部と保健学部が共同で研究を進めた点が本研究の大きな特徴です。
筆頭著者・責任著者
早坂 友成 准教授(保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻,医学部精神神経科学教室)
研究のハイライト
双極症とうつ病は、うつ病相における症状像が類似しており、問診や自己報告だけでは鑑別が難しい場合が少なくない。
医学部精神神経科学教室に勤務する作業療法士と、精神神経科の医師、心理から構成される研究グループが、作業療法場面での行動観察により得られる「作業遂行特性」を用いて双極症とうつ病の鑑別を試みた。
抽出された66項目の作業遂行特性のうち、「作業が乱雑」「精神運動性の調整障害」「テキストを見ずに自己判断で作業を進める」の3項目が、双極症群でうつ病群より有意に高頻度であった。
この3特性を用いた判別分析により、全体正判別率80.4%(AUC=0.765、特異度94.3%)の精度が確認された。
研究概要
杏林大学 保健学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻の早坂友成 准教授を筆頭著者とする研究グループは、医学部精神神経科学教室の精神科医師,心理師とともに、双極症およびうつ病でうつ病相を呈する患者を対象に、作業療法セッション中の行動観察から得られる「作業遂行特性」が双極症とうつ病の鑑別診断に役立つかどうかを検討しました。本研究は、杏林大学医学部付属病院精神神経科で実施されている、治療抵抗性うつ病の鑑別診断を目的とした1週間の入院評価プログラムのデータを後方視的に解析したものです。日々の臨床において精神神経科の医師,心理師と作業療法士が連携しながら蓄積してきた観察データをもとに、杏林大学医学部と保健学部が共同で研究を進めた点が本研究の大きな特徴です。
研究背景・目的
双極症とうつ病はいずれも罹患率が高く、本人および社会に大きな負担を及ぼす気分障害ですが、うつ病相においては症状像が類似しており、自己申告に基づく症状評価だけでは鑑別が困難な場合があります。特に双極症では軽躁エピソードが本人にも周囲にも見過ごされやすく、治療抵抗性のうつ病として長期間うつ病と誤診され、適切な治療導入が遅れるケースが指摘されています。
一方、作業療法場面では、課題への取り組み方、作業の進め方、対人的なふるまいなど、症状評価尺度だけでは捉えきれない、より実生活に近い行動を直接観察することができます。そこで本研究グループは、精神神経科医,心理師と作業療法士が日常的に連携している臨床基盤を活かし、絵画・造形などの創作活動を用いた構造化された作業療法セッション中の行動特性に着目し、双極症とうつ病を行動レベルで判別できるかを検証しました。
研究成果
2015年1月から2019年3月までに、治療抵抗性うつ病の鑑別診断を目的として杏林大学医学部附属病院に入院した双極症患者21名およびうつ病患者35名を対象に、作業療法セッション中の行動を質的内容分析により整理し、66項目の作業遂行特性として抽出しました。両群を比較した結果、「作業が乱雑」「精神運動性の調整障害」「テキストを見ずに自己判断のみで作業を進め」の3項目が、双極症群でうつ病群よりも有意に高頻度に認められました。
これら3つの作業遂行特性を説明変数とした判別分析の結果、全体の正判別率は80.4%でした。ROC解析ではAUC 0.765(特異度94.3%、感度57.1%)と中等度の判別精度を示しており、症状評価だけでは判別が難しい場面において、作業療法場面での行動観察が双極症とうつ病の鑑別診断を補完しうる客観的な情報を提供できる可能性が示唆されました。
本研究は、症状の自己申告に頼りがちな精神科診療の現場において、作業療法士による行動観察という客観的な視点を取り入れることの臨床的意義を示すものであり、医学部の精神科医療と保健学部の作業療法学の知見を融合させた学部連携研究の成果といえます。
掲載論文
発表雑誌名:Frontiers in Psychiatry
論文タイトル:Occupational performance characteristics in patients with bipolar disorders: discriminant analysis with major depressive disorders
DOI:
https://doi.org/10.3389/fpsyt.2026.1844682
著者:Tomonari Hayasaka, Izumi Nagashima, Miku Hoshino, Koji Teruya, Yasuyuki Matumoto, Masami Murao, Taku Maruki, Masako Watanabe, Takeshi Katagiri, Mariko Kurihara, Yuki Oe, Yoshikazu Takaesu, Takashi Tsuboi, Koichiro Watanabe, Hitoshi Sakurai
著者(日本語表記):早坂 友成1,2、長島 泉1,2、星野 実来3、照屋 浩司4、松本 泰之2、村尾 政実2、丸木 拓2、渡邊 雅子2、片桐 健2、栗原 真理子2、大江 悠貴2、髙江洲 義和5、坪井 貴嗣2、渡邊 衡一郎2、櫻井 準2
所属:1 杏林大学保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻 2 杏林大学医学部精神神経科学教室 3 杏林大学医学部附属病院精神神経科 4 杏林大学保健学部 5 琉球大学大学院医学研究科精神病態医学講座
用語の解説、注釈
双極症:気分の高揚(躁状態・軽躁状態)とうつ状態を繰り返す気分障害。
うつ病:意欲低下や興味・関心の喪失を中心とした抑うつ気分が持続する気分障害。
作業遂行特性:作業療法場面での課題への取り組み方や対人的なふるまい等、観察可能な行動特徴。
▼本件に関する問い合わせ先
杏林大学 保健学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻
早坂 友成
メール:hayasaka@ks.kyorin-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/