東京農工大学、木造建築物の炭素貯蔵量を推定 ~「Scientific Reports」で発表 住友林業が建築物データを提供~

住友林業株式会社

 東京農工大学(学長:千葉 一裕)は10月27日、過去およそ50年間に民間企業が建設した木造建築物の炭素貯蔵量※1の推定方法に関する研究成果をオープンアクセスジャーナル「Scientific Reports」※2で発表しました。建築物データを住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎)が提供し、両者が共同で推定手法の検証をしました。本研究成果により、木造建築物の炭素貯蔵量をより高い精度で把握、推測することができます。
 
<研究の背景>
 2011年に開催されたCOP17(Conference of the Parties,締約国会議)で、「伐採木材製品」(Harvested Wood Products、以下HWP)の炭素量変化を各国の温室効果ガスの吸収量または排出量として計上することが合意されました※3。HWPは森林から伐採された後も炭素貯蔵機能を持つため、気候変動緩和に向けその有効活用は重要な施策となります。これまで民間企業での地球温暖化対策に関する取り組みの多くは二酸化炭素排出量削減を目的としており、HWP等の炭素貯蔵源の検討は不十分でした。「地球温暖化対策の推進に関する法律」※4や「Science Based Target」※5を通じて企業努力が一層求められるなか、企業でのHWP活用の重要性が高まっています。
 HWPを有効活用するためにはまずHWPの炭素貯蔵量を正確に把握する必要がありますが、企業におけるHWPの炭素貯蔵量を推計する方法論は確立されていませんでした。本研究ではHWPの用途の中でも最も多くの炭素を貯蔵する木造建築物を対象とし、企業が建設した建築物におけるHWPの炭素貯蔵量の推定方法を検討しました。

<研究の内容>
 対象の建築物は住友林業が1969年から2021年までに建設した木造住宅とし、HWPの炭素貯蔵量を推計する2つの手法である直接計数法(以下、DIM)とフラックスデータ法(以下、FDM)が使用可能か検討しました。その結果HWPの投入量データを利用するFDMは対象年度全期間で使用可能であり、HWPの現存量データを利用するDIMは2021年度時点のみで使用可能とわかりました。FDMでは木造住宅の減衰傾向をどう仮定するかが結果に大きく影響すると明らかになったため、2021年時点での築年数ごとの住宅現存数とそれぞれの年で建設した住宅数を用いて住宅残存率を求め、これに最も適合する減衰関数とそのパラメータである半減期※6を解析しました。その結果、半減期を66~101年とし減衰関数に対数正規分布を用いることが最も適切であると証明されました。
 この半減期はIPCCが提示している35年※7を大きく上回っており、住友林業の木造住宅は長期にわたり炭素を貯蔵することが示されました。今後もデータを継続的に取得することで、木造建築物の炭素貯蔵量推定の精度向上が可能です。

<今後の展開>
東京農工大学 :
本研究により民間企業が建設した建築物の炭素貯蔵量の推計方法を確立することができました。今後はさらに多くの製品や構造物なども対象とする研究へと展開します。本推計方法を多くの企業で活用しHWPの炭素貯蔵量の正確な把握を通じて木材の有効活用を支援することで脱炭素に貢献します。

住友林業 :
住友林業グループは国内外で森林経営から木材建材の調達・製造、木造建築、木質バイオマス発電まで「木」を軸とした事業を展開しています。「木」を植林、伐採・加工、利用、再利用という住友林業の「ウッドサイクル」を回すことで森林による二酸化炭素吸収量を増やし、木材の有効活用で炭素を長く貯蔵し続けます。本研究を通じて木造建築物の炭素貯蔵量をより正確に把握することが可能になり、同時に住友林業の木造住宅は長期にわたり炭素を貯蔵することが明らかになりました。今後も「木」の魅力を最大限に活かす建築物を通して、付加価値の高い商品とサービスを提供し脱炭素社会を実現します。


※1. 本文での炭素貯蔵量とは木材中に取り込まれている炭素の量を表す。
※2. 一次研究論文を扱う、オープンアクセスの電子ジャーナル。自然科学(生物学、化学、物理学、地球科学)のあらゆる領域を対象とす
  る。https://www.natureasia.com/ja-jp/srep
※3. 京都議定書第二約束期間においては、HWP(Harvested Wood Products)の炭素量の変化を評価し計上するルールが認められている 
  (炭素貯蔵効果)。HWPの算定ルールが適用されるのは、国内の森林のうち「森林経営」を行っている育成林から生産された「製材」、  
  「木質パネル」、「紙」。
※4. 環境省, 地球温暖化対策推進法(2021)
※5. Science based targets. Ambitious Corporate Climate Action. https://sciencebasedtargets.org/ (2022).
※6. 半減期とは木造住宅の残存率が50%となる築年数を表す。例えば、ある年に建設された100棟の木造住宅が50棟まで減った時の経過年
   数を示す。一般的には建築物の平均寿命と定義される。
※7. IPCCが提示するガイドラインhttps://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/2019rf/index.html (2019) 
  IPCCとは国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)の略。


■論文情報
タイトル : 「Estimation of carbon stocks in wood products for private building companies」
掲載雑誌名: Scientific Reports, 12, Article number 18112 (2022)
著  者 : 【東京農工大学】大学院農学府 松本 遼人氏
               大学院農学研究院 加用 千裕准教授、船田 良教授
       【University of Natural Resources and Life Sciences Vienna】Christian Lauk上級研究員
       【住友林業】森林・緑化研究センター 中村 健太郎研究センター長、喜多 智マネージャー
掲載先  :  https://doi.org/10.1038/s41598-022-23112-0

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