甲南大学大学院自然科学研究科博士課程1年の川端裕也さん、理工学部の田中孝明教授、井上剛志教授らの研究グループは、超新星残骸 RX J1713.7−3946のX線観測データを解析し、衝撃波上流に存在する磁場の強さを、観測で初めて決定することに成功しました。超新星残骸の衝撃波上流の磁場の強さは、粒子がどの程度のエネルギーにまで加速されるかを左右する最も重要なパラメータですが、これまで、観測から決定することが困難でした。研究グループは、超新星残骸の外側に広がる多数の「ホットスポット」に着目し、その分布から、磁場の強さを決定しました。さらに、この磁場の強さでは、RX J1713.7−3946が粒子に高エネルギーを与えることができず、この超新星残骸における粒子加速の限界を観測的に示しました。本研究成果は、超新星残骸が宇宙線をどこまで高いエネルギーに加速できるのかを理解する上で重要な成果です。なお、本研究成果はネイチャーの姉妹誌であるCommunications Physicsに掲載されました。
<研究成果のポイント>
星が爆発した残骸の磁場の強さを、観測から明らかに
星の爆発が粒子をどこまで加速できるのかについて、重要な示唆
宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子の起源に迫る新たな手がかりが得られた
1. 背景
地球には宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子が絶えず降り注いでいます。しかし、この粒子が宇宙のどこで、どのようにして高いエネルギーを得ているのかは完全に解明されていません。宇宙線を生み出す有力な候補とされ、星が大爆発を起こした痕跡である超新星残骸※1では、超新星爆発によって放出された物質が周囲の星間物質中を超音速で膨張することで、衝撃波が形成されます。衝撃波付近では、粒子が磁場による散乱を繰り返すことで少しずつエネルギーを獲得し、光に近い速度まで加速される「衝撃波統計加速」という機構によって、宇宙線が生成されていると考えられています。実際に超新星残骸の観測によって、衝撃波で粒子加速が起こっている証拠が得られています。粒子加速において重要な役割を果たすのが、衝撃波上流の磁場です。粒子がどの程度のエネルギーまで加速されるかは、この磁場の強さによって決まります。しかしながら、これまで、その強さを観測から決定することは困難でした。
2. 研究成果
研究グループは超新星残骸RX J1713.7−3946※2(図1)に注目し、米国のチャンドラ衛星※3によるX線データを解析しました。その結果、衝撃波の外側の領域に、周囲よりもX線で明るく輝く「ホットスポット」が存在することが分かりました。ホットスポットは、衝撃波で加速された粒子の一部が衝撃波の上流へ拡散し、そこに存在する濃いガスの塊と相互作用することで生じる、高エネルギー電子によるシンクロトロン放射として説明できます。このホットスポットの広がりを用いることで、衝撃波上流で拡散した粒子がどこまで伝播しているかを知ることができます(図2)。粒子の伝播距離は磁場の強さに依存するため、観測から求めた伝播距離を用いて、衝撃波上流の磁場の強さが約10マイクロガウスであることを初めて決定しました。
図1:XMM-ニュートン衛星※4によって得られた超新星残骸RX J1713.7−3946のX線画像(左)とチャンドラ衛星によって得られた北西部のX線画像(右)。角度分解能に優れるチャンドラ衛星によって多数のホットスポットが検出され、その位置を緑色の丸で示してある。ホットスポットはマゼンタの破線で示した衝撃波よりも外側にも存在している。本研究では北西部と同様のホットスポットが、南西部や南東部に存在することもわかった。
図2:超新星残骸RX J1713.7−3946の北西部ホットスポットの動径分布(赤線)。緑色の点線は衝撃波の位置を表す。青色の点線で示した位置までホットスポットが分布しており、加速された粒子がこの位置まで拡散していることを意味する。衝撃波からこの位置までの距離から衝撃波上流の磁場の強さが求まる。黒色のデータ点はH.E.S.S.望遠鏡※5で得られているガンマ線の動径分布を示す。ガンマ線の動径分布が衝撃波上流でホットスポットの分布と似ていることは、ホットスポットの起源を解釈する上で重要なヒントとなった。
3. 今後の期待
今回決定した上流磁場の強さからは、現在の超新星残骸RX J1713.7−3946は、宇宙線の起源を考える上で重要なペタ電子ボルト(PeV:10の15乗電子ボルト)級のエネルギーまで粒子を加速できないことが分かりました。今後、他の超新星残骸についても上流磁場を決定することで、例えば、より若い超新星残骸はPeVにまで粒子を加速できるかなどを明らかにし、宇宙線の起源についてさらに迫っていきたいと考えています。
4. 論文情報
雑誌名:Communications Physics
論文タイトル:Direct Observational Constraint on Upstream Magnetic Field Amplification Reveals the Particle Acceleration Limit in a Supernova Remnant
著者:川端裕也(甲南大学大学院自然科学研究科 大学院生)、田中孝明(甲南大学理工学部 教授)、鈴木寛大(宮崎大学工学部 助教)、井上剛志(甲南大学理工学部 教授)
掲載日:2026年10月8日(Published: 08 October 2026)
論文URL:
https://doi.org/10.1038/s42005-026-02906-y
5. 用語説明
※1. 超新星残骸:星が超新星爆発を起こした後に残される星雲状の天体。電波やX線、ガンマ線などさまざまな波長で観測されている。
※2. RX J1713.7−3946:さそり座の方角にある超新星残骸。地球から約3,000光年の距離にあり、おおよそ2,000年前に起こった超新星の残骸であると考えられている。X線やガンマ線の観測によって粒子加速が起こっていることがわかっている。
※3. チャンドラ衛星:米国が1999年に打ち上げたX線天文衛星。角度分解能に優れる。
※4. XMM-ニュートン衛星:ヨーロッパが1999年に打ち上げたX線天文衛星。
※5. H.E.S.S.望遠鏡:ナミビアにあるガンマ線望遠鏡。宇宙から飛来したガンマ線が大気と反応した結果生じるチェレンコフ光と呼ばれる可視光を用いてガンマ線を観測する。
6. 研究助成
本研究はJSPS科研費(JP19H01936、JP21H04493、JP23H00129、JP23H01211、JP24K17093、JP26K00714)、ならびにJST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2117)の助成を受けたものです。
▼本件に関するお問い合わせ先
甲南学園広報部
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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