飼い主の「顔と声」が食い違うと、犬の脳波に違い~脳波で、種を越えた感情の受け取り方を捉える~

麻布大学

麻布大学獣医学部の永澤美保教授、菊水健史教授、奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科 情報科学領域の久保孝富准教授、関西大学、東北大学、クアドリティクス(株)の共同研究チームは、飼い主の顔と声が伝える感情が一致しないとき、犬の脳波に一致時とは異なる反応が現れることを示しました。3頭の家庭犬に、飼い主の「喜び」「怒り」の表情と声を組み合わせた刺激を提示したところ、不一致条件では、音声開始後250~500ミリ秒に前頭部左側のF3電極でより大きな後期陽性の事象関連電位(ERP、注2)が観察されました。 この反応をヒトの脳波反応と同一視することはできませんが、犬が顔と声を組み合わせた感情情報に神経レベルで感受性を示す可能性を示す概念実証です。対象頭数は3頭と限定的ですが、犬が種を越えてヒトの感情を捉える際に、顔や声といった複数の手がかりをいつ、どのように組み合わせて処理しているのかを調べる基盤となります。さらに、こうした仕組みを明らかにすることは、ヒトと犬のコミュニケーションの理解に加え、異なる種の間で相手の感情状態をどのように捉えているのかという、異種間コミュニケーションの理解にもつながることが期待されます。 ● 飼い主の「喜び/怒り」の表情と声を組み合わせ、顔と声の感情が一致する場合と一致しない場合の犬の脳波(注1)を比較しました。 ● 3頭の家庭犬で、顔と声の感情が一致しないときには、一致するときに比べ、声の提示から250~500ミリ秒後に前頭部でより大きな脳波反応が観察されました。 ● 犬が、異種であるヒトから受け取る顔と声の感情情報を、神経レベルで統合して処理している可能性を示唆する概念実証です。(対象は3頭であり、犬一般への結論ではありません。) この反応をヒトの脳波反応と同一視することはできませんが、犬が顔と声を組み合わせた感情情報に神経レベルで感受性を示す可能性を示す概念実証です。対象頭数は3頭と限定的ですが、犬が種を越えてヒトの感情を捉える際に、顔や声といった複数の手がかりをいつ、どのように組み合わせて処理しているのかを調べる基盤となります。さらに、こうした仕組みを明らかにすることは、ヒトと犬のコミュニケーションの理解に加え、異なる種の間で相手の感情状態をどのように捉えているのかという、異種間コミュニケーションの理解にもつながることが期待されます。 図1に、本研究の実験の流れと主な結果の概略を示します。図のレイアウトおよび模式的なイラストの作成にはChatGPT(OpenAI)を使用しました。中央の犬の写真は、本研究に先立つ予備的な計測に参加した個体であり、本研究の解析対象となった3頭には含まれません。なお、右パネルの波形は、掲載論文と同じ元データに基づいて、本プレスリリース用に再作図したものです。 図1 本研究の概略。飼い主の顔と声の感情的一致/不一致に対する犬の脳波反応を比較。右パネルの波形は、掲載論文と同じ元データに基づいて本プレスリリース用に再作図したもので、250~500ミリ秒で一致条件と不一致条件の差が明瞭にみられた前頭部左側F3の結果を代表例として図示。 本研究成果は、Scientific Reportsに2026年8月22日付で公開されました(DOI:10.1038/s41598-026-66970-8)。 犬はヒトと長く共生してきた動物で、種の異なるヒトの感情を、表情や声などさまざまな手がかりから捉えていると考えられています。これまで、ヒトの表情や声に対する犬の反応は、行動研究や自律神経活動の研究から示されてきました。しかし、顔から得られる視覚情報と声から得られる聴覚情報を組み合わせて相手の感情を捉えているのか、また両者が食い違ったときに犬の脳がどのような時間経過で反応するのかは、十分に分かっていませんでした。 そこで本研究では、覚醒した犬の頭皮上から非侵襲的に脳波を記録し、刺激後の脳活動をミリ秒単位で捉えられるERPを解析することで、犬が飼い主の顔と声から得られる感情情報をどのように組み合わせて処理するのかを、両者が一致する場合と一致しない場合を比較して調べました。 実験には3頭の家庭犬が参加しました。脳波は7か所(F3、F4、T3、T4、P3、P4、Cz)から記録されました。犬には飼い主の「喜び」「怒り」の表情映像を提示し、映像開始1.5秒後に「喜び」または「怒り」の声を提示することで、顔と声の感情が一致する条件と一致しない条件を作りました。 解析では、音声開始を基準とし、フィルタリングや独立成分分析(ICA)などにより非神経由来のアーチファクトを除去しました。そのうえで、あらかじめ設定した時間窓について、一致条件と不一致条件のERPを比較しました。 その結果、前頭部左側のF3電極では、音声開始から250~500ミリ秒後に、不一致条件で一致条件より大きな後期陽性ERPが観察されました。さらに、顔と声の感情それぞれの影響を調べる解析でも、顔と声の組み合わせによる交互作用が確認されました。この時間帯はヒト研究でP300やN400(注3)と呼ばれる成分の時間帯と重なります。ただし、犬で同じ機能を持つ成分と断定することはできません。これらの結果は、犬が顔と声の感情情報を神経レベルで統合して処理している可能性を示唆します。一方、この後期ERP変調が具体的にどのような神経過程を反映するのかについては、予想との食い違いの検出や注意の増大など、複数の可能性が考えられます。 今回の研究は3頭を対象とした限定的な研究であり、犬集団全体への一般化には慎重さが必要です。一方、犬が種の異なるヒトから受け取る複数の感情的手がかりをどのように組み合わせて処理するのかを、高い時間分解能で調べるための方法論的な概念実証となり、今後の検証につながる基盤を示しました。 本研究は、麻布大学、奈良先端科学技術大学院大学、関西大学、東北大学、クアドリティクス(株)の研究者による共同研究として実施しました。また、犬のトレーニングおよび計測にはAnimal Life Solutions Co., Ltd. の協力を得ました。 今後は対象頭数を増やして再現性と一般化可能性を検証するとともに、刺激条件や解析を拡張し、顔と声の不一致に伴う後期ERP変調が、感情情報の統合、予想との食い違いの検出、注意などのどの過程と関係するのかを詳しく調べる必要があります。 こうした検証を積み重ねることで、犬が種を越えてヒトの感情を捉える際に、顔や声など異なる感覚から得られる情報を、いつ、どのように組み合わせているのかを明らかにすることが期待されます。さらに、こうした仕組みが、ヒトと犬の長い共生関係のなかで培われた特徴なのか、それとも異なる種の間で相手の状態を捉える際に広くみられる仕組みなのかを比較していくことで、異種間コミュニケーションを支える神経基盤の一般的な理解につながる可能性があります。 本研究は、科学技術振興機構(JST)CREST(課題番号:JPMJCR22P2)の支援を受けて実施しました。 注1 脳波(EEG):頭皮上の電極から、脳の神経活動に伴って生じる微小な電位変化を非侵襲的に計測する方法。 注2 事象関連電位(ERP):刺激の提示など特定の出来事を基準に脳波を平均化し、その出来事に関連して時間的に生じる電位変化を捉えたもの。 注3 P300・N400:ヒトのERP研究で広く用いられる成分名。P300は注意や予想外の刺激、N400は意味的・文脈的な不一致などとの関連が研究されている。ただし、本研究で犬に観察された波形がヒトの同名成分と同じ機能を持つとは限らないため、本文では「不一致関連の後期ERP変調」として扱っている。 タイトル:Event-related potentials to emotional incongruence in dogs using non-invasive EEG 著者:Hitomi Koike, Takatomi Kubo, Yuki Maruno, Maaya Saito, Takumi Ozono, Natsuna Ishida, Kazunori Ohno, Toshitaka Yamakawa, Takefumi Kikusui, Miho Nagasawa 掲載誌:Scientific Reports 公開日:2026年8月22日 DOI:10.1038/s41598-026-66970-8 <研究に関するお問い合わせ先> 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域 数理情報学研究室 准教授 久保 孝富 E-mail:takatomi-k(a)is.naist.jp ※(a)を@に変更してください。 TEL:0743-72-5984 ▼本件に関するお問い合わせ先 事務局 入試広報・渉外課 吉田 住所:神奈川県相模原市中央区淵野辺1-17-71 FAX:042-754-7661 メール:koho@azabu-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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